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シネマ365日

2012年12月16日

悪魔のような女(1955年 クライム・サスペンス映画)

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監督 アンリ=ジョルジュ・クルーゾー

出演 シモーヌ・シニョレ/ヴェラ・クルーゾー/ポール・ムーリス

クルーゾーの見事な映画 

「50年たっても古くならない映画」を特集したら、本作は間違いなく「ベスト10」入りだな。サスペンスの王道っていうのは決して犯人探しじゃない。犯人はわかっているけど、結末に至るまでの「はらはらドキドキ」の映画的仕掛けが醍醐味なのだ、と思うのよね。本作でいえば「悪魔のような女」でしょ、タイトルが。クルーゾーは真っ向勝負の監督だ。始めから犯人探しとは全然ちがった軸足から映画を撮っている。それが証拠に登場人物は女ふたりに男ひとり。キャスティングをみよう。ヒロインのひとりニコルがシモーヌ・シニョレ、もうひとりクリスティーナがヴェラ・クルーゾー(クルーゾー監督の奥さん)。これじゃだれが考えても「悪魔のような女」はシモーヌに決まっているじゃない。心臓発作で死にかけている蒲柳のヴェラに殺人できるとだれか思うか?▼クルーゾーの眼目はワン・シーンずつに注意深くはめ込んだ映画的象嵌細工にある。これがもう、応えられないほど素晴らしい。妻の財産で寄宿小学校を経営し、なおかつ妻を教員として働かせている校長のミッシェルは、ケチで傲慢で偏見の持ち主。妻がいながら同じ学校の教師ニコルと愛人関係にあるが、ニコルにも妻にも暴力をふるう。ニコルはサングラスをはずせないほど顔面にあざをつくり、クリスティーナは「食べ盛りの子供たちに、もっと栄養のある食べ物を出して欲しい」と言ったら校長たるもの、感動するどころか、そんなことをいう妻に「食え、飲み込め、食べられるはずだ」と腐りかけた魚を無理やり食べさせるのである。妻は涙を流しながら食べる。ンもう、テーブルひっくり返してやれよ▼ニコルとクリスティーナは校長殺害の共同戦線を張る。まず、3日間の休暇を利用してふたりは郊外(車でパリから10時間)くらいのニコルの家に行き、クリスティーナが夫に電話する。離婚するというのだ。校長は飛んできてなだめる。ニコルの差金にちがいない、お前がそんなバカなことを考えつくはずがない、とかいいながら…事実この通りになる。ふたりは夜に到着する校長殺害の段取りを整える。ここのシモーヌ・シニョレの落ち着きぶりがさすがだ。ビニールのテーブルクロスを食卓に広げる。「大きいのね」とクリスティーヌがつぶやくとニコリともせず「彼用よ」▼睡眠薬入りの酒で校長は眠りこけ、ふたりは浴槽に彼を浸け窒息死させる。大きなバスケットに死体を詰め、車にのせて学校まで走る。着いた。夜である。彼女らは死体をプールに沈める。一件落着か…そうはいかないのだ。気の弱いクリスティーナは夫の死体がなかなか発見されないので気が気ではない。ノイローゼになりかかりニコルもプールの水を空けることに同意する。プールの中に死体はなかった▼クルーゾーは急がない。「な。おかしいだろ、おかしいだろ」と観客にエサをみせびらかしただけで、どんどん、どんどん次の手をくりだすのだ。パチンコで窓ガラスを割った少年は校長先生が部屋にいたのを見たというし、身元不明の死体を確認に行ったクリスティーヌはそれが夫ではないと確認し、ますます「消えた死体」は謎を深める。死体公示所にいた元警視フィシェという老人が、自分に探させてくれ、校長がみつからなかった場合はお金はいらないと申し出る。すでに神経に破調をきたしているクリスティーナはフィシェに捜査を依頼する。このフィシェという元老警視、まるでクルーゾーの意を体するかのようなネタ集めにかかる。真綿で首を締めるような彼の追い詰め方だが、これが曲者で、観客は彼についていけばいいのか、それともニコルがーこのあたりになると、消去法によってどうしてもあやしいのはニコルだと観客は察しがつくようになるが、そんなこととっくに見越したクルーゾーは「ふうん、そうかな、そうかな。ホントにそうかな」なんて老警視を使ってゆさぶりをかけるのである。エンディングに至るシーンをみよう。寝苦しくて眠れないクリスティーナが、不審を感じて起きる。校舎の長い廊下、薄開きの扉、中からもれる明かり、それらを確かめながらついにたどりついたのはバスタブに横たわる夫の死体。彼はクリスティーナを認め白目を剥いて立ち上がった。衰弱を極めていたクリスティーナの心臓は限界だった▼最後に窓ガラスを割った少年が再びパチンコを手に登場する。いたずら道具は取り上げられたはずなのに「なんでそれを持っている」と男の先生がきく。「クリスティーナ先生が返してくれた」と少年は答える。「ばかいうな。先生は亡くなったのだ。ウソをつくやつは壁に向かって立っていろ」と罰を与える。少年は壁に進みながら「でも先生を見た」と繰り返す。これはクルーゾーのおふざけだか。それとも自分を亡き者にして財産乗っ取りをたくらんだ夫とニコルを刑務所へおくるクリスティーナの大博打か。少年のいたずらか妄想か。最後までクルーゾーはあやつり芝居の手をゆるめていません。脱帽。

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