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シネマ365日

2012年12月20日

ミラノ、愛に生きる(2009年 恋愛映画)

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監督 ルカ・グアダニーノ

出演 ティルダ・スウィントン/エドアルド・ガブリエリーニ

料理と官能

いまどき珍しい正攻法大メロドラマというべきです。結論を観客の判断に任せるとか、人生の不条理という迷宮を引きずり回すとか、気色わるいシュールな映像やらが大好きな監督っておられますね。そういう映画がもうけっこう増えまして、また客は不入りなのに、こういうのに限って何とかの国際映画賞大賞とかどこそこの国・外国語映画賞とかを受賞するのでございますよ。いいえ、べつにそれが気にいらないと言っているわけじゃございません。ございませんが、なんせ、ちょっとショックでございましてね、この時代劇めいた大作が。それもていねいな、ていねいな作り方で、主演のティルダ・スウィントンはプロデュースまでしているのだから、気合の入れ方がわかろうというもの。なかなか最近お目にかかれない映画でございましたよ▼それに筋書きをいえばミラノ上流階級のセレブ夫人の不倫、とあっさり一言で片付く頭をひねるにもひねりようがないくらいわかりやすい映画なのです。でもね、ティルダとルカ・グアダニーノ監督はこれを11年か12年あたためていたのですって。それだけ満を持して製作に入っただけに、小技の利いた、なかなかいいシーンがあります。不倫の発端となるのは美しく、おいしい料理です。息子エドの友達アントニオ(エドアルド・ガブリエリーニ)はシェフで、彼のレストランに入ったエンマ(T・スウィントン)は、運ばれた美術品のようなエビ料理の彩りに魂を奪われます。あたりの景色はみえなくなり、プリっとした豊かな小エビだけが目の前に存在する。エンマはおもむろにナイフを取り、フォークでなにか大切なものを扱うようにエビを抑えエビの背にゆっくり切り込みをいれます。ひときれを口元に。このなつかしさはなんだろう。エンマの厚からず薄からず、形のいい唇がアップになり、わずかに開いた口から白い歯並びがこぼれ見える。小エビの背はきちっとフォークの先に、音もなく歯の間にさしこまれ、唇を閉じたエンマの咀嚼が始まる。ガツガツもしない。ぐずぐずもしない。あらん限りの味覚を集中して味わうべきものを味わい、感じるべきものを感じる。よそ見もしない。話しかけもしない。話しかけられることも全身が拒否している。全身全霊で食する。この映画、ティルダ・スウィントンの大胆なヌードもあるのですが、それよりこの食べるシーンのほうが官能的です▼エンマはロシアからミラノの富豪に嫁いだ。イタリア語でしゃべりイタリア料理をつくり、子供を三人もうけた。息子ふたりに娘が一人。息子たちは夫の事業の後継者となり、娘はロンドンに留学中。母親の勤めをすべて終えたエンマは空の巣症候群である。そのさびしさをこの繊細な、洗練された料理は満たしてくれた…なんでや、なんておっしゃってはいけません、脚本がそうなっているのです。うまい料理でそこまでゆさぶられるか、ウソやろ、なんてことをおっしゃると、この映画は前を向いて進みません。それにエンマはとてもいいお母さんですね。娘が恋人のことを手紙で打ち明けてきた。恋人は女性だ。恋人の写真をみてエンマは微笑む。いい人だわ、きっと。娘の選んだ人生に容喙しないが見守っていこう、という感じです。しかしでございますね、大ロマンスを前にこういう下世話なことあげつらいたくございませんが、どうにもこうにもエンマは美人すぎるのでございますよ。ジル・サンダーの鮮やかな着こなし。長身で細身。豊かな金髪。透き通った青い目。スクリーンのド・アップに耐えるキメ細かな肌。かもしかのような脚にさりげないパンツの似合うこと。これじゃネー。料理があろうとなかろう、放っといたっておっつけ、なにかが始まったでしょうね▼エンマの旦那がわりとおもしろいのです。美しい妻に惚れ込んでいたのですが、エンマは「アントニオを愛している」と告白します。その日は土砂降りで、旦那はエンマに自分の背広をかけて着せて雨宿りに教会みたいなところへ入ったのですが、聞くなり黙って背広を脱がし、一言も言わずさっさと出ていくのです。すごいリアリストじゃございません? エンマはエンマで屋敷に戻ると嵐のように衣類をトランクに詰める。それをみて来るべき日がきたと察した忠実なメイドが、てきぱきと(まるで用意していたみたいに)手伝い、エンマはジャージ姿で家を出ます。ラストにふたりがだきあっている場所は石器時代の洞穴みたいなところでございますよ。ヤバイのじゃないでしょうか。虫に刺されたりヘビがでたりして「じいや、ばあや」といってもだれもいない。恋人も最初は追い払ってくれるが、そのうち(チェッ。またかよ。自分でやれよ)となるにちがいない…ま、大きなお世話でございますが。

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