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特集「アニマルフェスティバル」

2012年12月23日

特集 「それ行け アニマル・フェスティバル」ジョーズ(1975年 サスペンス映画)

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監督 スティーブン・スピルバーグ

出演 ロイ・シェイダー/ロバート・ショウ/リチャード・ドレイファス

幻想のサメ

サメが主人公だ。彼は…なんというか「ハリポタ」におけるヴォルデモート卿のごとき悪の化身なのだ。とんでもないやつなのだ。サメは体長8メートル・3トンに及ぶ巨大な魚体。彼は(オスだと設定されている。サメはメスのほうが大きいのだけど)一匹狼のはぐれサメで、自分の縄張りとエサ場をアミティ島と決め、人がそこにいる限り襲い続ける。完全に「食らうマシーン」である。異常な体力に獰猛な性格。桟橋につながれた囮の餌に食いつき、桟橋ごと沖にひきずっていく怪力。女性を惨殺し子供を襲い、青年をひきちぎり漁師を殺し、サメ退治に出たチームの漁船「オルカ号」の船底を突き破り、浮力の強い樽三つを背中に撃ち込まれながら潜水する怪物だ。サメの襲撃によってパニックに陥る海辺の悲劇が一方にあり、もう一方に夏の避暑観光ビジネスの利害得失にこだわる地元当事者たちがおり、ぐずぐず論議を重ねているうちにはてしなく惨禍は拡大する。息子を食い殺された母親は、第一報が入ったとき初動していたらあとの惨劇は防がれたとブロディの頬を打つ▼ようやくサメ討伐専門チームが結成された。警察署長のブロディ(ロイ・シャイダー)、サメ漁の専門家クイント(ロバート・ショウ)、サメ学者(リチャード・ドレイファス)三人が沖をめざす。海の男クイントが渋い。彼は第二次世界大戦で広島に落とす原爆を届けに行った帰りの船で爆撃を受け、1100人の将兵が海に投げ出されたなかの一人だった。サメの群れが取り囲み救助されたときは300人だった。輪をつくり大声をあげてサメを追い払ったがそれも効き目がなくなり、ひとり、またひとりと海へ引きずり込まれるのだ。将兵たちは海に浮かびながら眠り、ある朝クリントが目覚めとなりの男をゆさぶったら腰から下がなかった。そんな話を淡々とした。「彼奴は絶対おれたちを殺しに来る」とクリントは確信している▼公開から37年、知り尽くされたこの映画で粗筋を書くのは無駄だろう。テレビで放映された回数のベスト5に「ターミネーター」とともにランクインする傑作だ。CGはまだなかった。サメは「海底2万マイル」で大イカを作ったロバート・A・マティーのチームが担当した。フルサイズ・右向き・左向きと三体作った。順調にサメは動いてくれず、撮影は限りなく延長され予算は膨れ上がった。一時は撮影中止さえ持ち上がった。難航の結果いざ泳ぎだしたこの、ハリボテ機械仕掛けのサメのド迫力はしかしどうだろう。なんでもアリの万能CGと違い不器用なサメは、それでも大きな口をあけてクリントを飲み込み、のこぎりのような歯を悠然と噛みあわせ(動作がゆっくりであるのはメカ技術がそれ以上早く動かせなかったからだ)、スクリーンにはクリントの断末魔がアップされる▼不思議なことだが「ジョーズ」が何度となく放映される人気は、もちろん動物パニック映画の先駆という映画史上の栄光もあるが、サメそのもののキャラクターではないかと思うのである。悪の権化ではある。しかし自分の餌場で何を食い尽くそうとサメの勝手だ。オレに向かってくる人間のほうがまちがっている。あえて掛かってくるというならやり返してやるぜ。スピルバーグは一言もサメにそういわせないが、主人公はそんな性格のサメなのだと断定している。むざむざ人間に殺されるようなヤワなサメのどこに、観客は劇的要素を感じるだろう▼観客はだんだんサメに引きこまれていく。一発食らえば倍にして返すやつだ。我慢と忍耐を強いられ、それが美徳であり、かつ浮世の義理だとされている人間社会で、こんなやつがいるだろうか。陰極まれば陽となる。悪の化身はいきつくところまでいくとヒーローとなるのか。そんな幻想をサメは抱かせる。でなければ樽三つをつけて姿を隠すサメに、ジョン・ウィリアムズのかっこいいサウンドを音入れする、そんな編集をするはずがないだろう▼ロケ地はマーサズ・ヴィニヤード島だった。マサチューセッツ州にある風光明媚な島だ。スクリーンに映る海がいい。最初の惨殺死体を検証した署長がすぐさま海辺から避難命令を出そうとする。シーズンのかきいれどきにそんなことできるか、女性はスクリューにまきこまれたあげくの事故死だと市長が一蹴する。ブロディは不吉な予感にとらわれたまま背後の海をふりかえる。海は碧く静かに波をうちよせ絶望的なまでに美しい。こういうところを撮るのがスピルバーグなのだ。

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