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特集「アニマルフェスティバル」

2012年12月26日

特集 「それ行け アニマル・フェスティバル」子熊物語(1988年 家族映画)

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監督 ジャン・ジャック・アノー

後味のよさ保証つき

これ1989年のセザール賞(監督賞)を取っているのですね。ジャン・ジャック・アノーはソルボンヌ大学文学部で美術史、ギリシャ語、中世史などを専攻し、卒業後高等映画学院に学んだ。1960年代から70年代にかけテレビで多くのコマーシャルを作った。CF畑出身の監督にリドリー・スコットがいる。BBCから独立し自分の制作会社を立ち上げ1900本ものCFをつくった。「ブレイド・ランナー」や「エイリアン」に始まる異能の感覚は映画だけでは得られなかったような気がする。ジャン・ジャック・アノーのCF経験も得難いものだと思う。内容がなんであれ消費者に(映画であれば観客に)訴求できるセンスというのは、理屈ではないからだ。そのくせ販促とは非常に化学的なもので、こう押すとこう出る、という基本方程式から無類の化学変化を拡大させる。ちょっと大きな書籍店のビジネス・販売営業コーナーをごらんになれば、そこにある販促の手法の変異と進化がわかる。もっと手っ取り早いのはアノー監督自身の最新作だ。ディオールの香水の新作を、シャーリーズ・セロンに出演させ、CFとしては異例の90秒というスペシャル・フィルムを作った。ヴェルサイユ宮殿の鏡の間で撮影されたこれは視聴者を呆然うっとりさせる、物語性と衝撃度を充分に備えたフィルムだった。ことほどさように販促とは、各分野の才能が相互乗り入れする、ボーダーレスのジャンルになっていきつつある▼そういう監督が撮った「子熊物語」とは、さてどんな映画になったのか。まず甘さをおさえた感傷と、動物と大自然の詩情をしっかりスクリーンに取り込んだ。母親を失くした子熊が、無骨なオスの大熊とともに生きるすべを身につけていくのが大筋だが、まさかそれだけで終わらせはしない。やはりというか、案の定というか、アノー監督が「薔薇の名前」でみせたゴシック・ホラー、「セブン・イヤーズ・イン・チベット」の崇高なまでの自然、「スターリングラード」の暗い緊迫。こういう観客への訴求要素が「大熊と子熊と猟師と猟犬」という極端に限られた出演者(?)にもかかわらず、きっちりと映画にフレームをつくりあげる▼「子熊物語」の冒頭にこんな字幕が出る。「われわれは撮影中、動物を傷つけたことは一切なかった」。これでホッとした観客は少なくないにちがいない。映画のためだと言って、動物を簡単に殺してしまう監督なんか信用できない。なんのための撮影技術だろう。CGの普及のおかげで動物たちが殺されずにすむことを思わずにはおれない。アノー監督は「子熊物語」の14年後「トゥー・ブラザーズ」で今度は兄弟のトラを主人公に、動物の売り買いだ、損だ、得だという人間社会のどろどろ部分を導入したが、動物の犠牲を容認する偉大な製作なんか絶対にない、という軸足を明確にしていることは、アノー監督のように影響力を持つ人の場合、とても大事なことだ▼舞台はカナダのブリティッシュ・コロンビア。大好きなハチミツを食べる野生のクマの母子がいる。落石で母クマの頭がつぶされ子熊は死骸のそばを離れないが、蝶々を前脚ではたこうとして、おいかけているうちに遠くへくる。ちょっとこのへん感情移入過多ではないかと思うのだけどね。でも原則としてアノー監督のポリシーに賛成したからには、いまさらケチをつけず先に進もう。大熊が登場する。このクマは動物映画では知らない人のいない有名なヒグマで、「ホワイト・ファング」や「沈黙の要塞」に出演し、2000年ガンのため23歳で死亡した。この巨大な大熊を仕留めて儲けにありつこうという二人組みの猟師がいる。発砲によって、クマは左肩に弾をいれたまま逃走する。安全圏にきた大熊は鉱泉の湧き出ている場所に傷口を浸け、体を休める。そこへヒョコヒョコ現れたのが子熊だ。痛みと疲労で機嫌の悪い大熊はうるさいガキだと追い払おうとするが、子熊は大熊の傷口を舐めてやる。これもなあ…舐め過ぎると傷口を掘って傷を大きくしてしまうのだけど、まあ適当なところで大熊が「もうそのへんでいい」とさえぎったのでしょうね▼猟師の執念はついに大熊を追い詰めるが、経験豊かな大熊はまんまとイヌも猟師もまいてしまった。ところがドン臭くうろうろしていた子熊がつかまるのだ。仕方ない。夜にまぎれて大熊は猟師たちのキャンプにしのびよる。物語が進むにつれて人間が邪悪にみえてくる。しかしそこはアノー監督、しっかり人間がカッコよくみえるシーンをちゃんと用意して、大熊・子熊がカナディアン・ロッキーの厳しい冬をすごすため、冬眠にはいるところでエンドです。子供といっしょに見るなら、後味のよさ保証付きです。

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