女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ディーバ(大女優)」

2013年1月3日

特集「ディーバ(大女優)」 カトリーヌ・ドヌーブ 
昼顔(1967年 文芸映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ルイス・ブニュエル

出演 カトリーヌ・ドヌーブ/ジャン・ソレル/ミシェル・ピコリ

ブニュエル式純愛物語 

白磁のようなすべすべした肌のカトリーヌ・ドヌーブが扮するのは若妻セブリーヌ。夫ピエールは医師。心から愛しあっている幸せな夫婦。でもブニュエル監督は冒頭からザックリ、セブリーヌの妄想を映像化する。シャンシャンと鈴を鳴らした馬車が夫婦を乗せて邸宅から森につづく小径を走ってくる。夫は馬車を小径からそらせ、森の中に乗り入れさせる。そこで妻を縛り上げ、ムチ打ち卑猥なことばを浴びせ、御者二人に犯させる…もちろんこれはセブリーヌの妄想です。彼女は不感症であることにコンプレックスがある。夫がベッドに誘うたび拒否する。(わるいなー)と思っている。夫は医師だし、こういう状態はあせってもだめだと気長にかまえている。セブリーヌには子供のころ配管工に体をいじりまわされたいやらしい記憶がよみがえる▼夫に応えたいがウンともスンとも体が反応しない。数少ない娼館が今もパリに残っていると聞いて、セブリーヌは練習してみたらなんとかなるのではないかと思う。健気なのですよ。なにしろ世間知らずだからやることが無鉄砲だ。賢いお嬢さんに限ってとんでもないことを思いつく。うちは高級娼館だからあなたのような人がぴったりなの、とマダムにいわれ、真面目なセブリーヌはその日の午後から働くことにした。最初の客で案の定逃げ出しかけたが、何度か経験するとすっかり度胸がつき、客がきたらしなだれかかるわ、首に腕を回すわ、さっさと下着一枚になるわ、振る舞いが板についてきたばかりか「昼顔」という源氏名でその館のトップになる▼やってくるのがとんでもないやつばかりなのだ。有名な婦人科の教授は「顔を踏みにじってわたしを罰してください」と乞い願い「恥知らずの豚め、こらしめてやる」と女に罵られ興奮する。芸者カードという奇妙なクレジットをもってきた日本人は「ダメ。現金よ」といわれてキャッシュを払い、小さな鈴をみせびらかしてさんざん昼顔をいたぶる。「長いわねー」「大丈夫かな」と同僚が時計を見上げるころ男は満足気に部屋から出てくる。心配したメイドが片づけにはいると、かわいそうに昼顔は髪ふりみだし全裸でベッドに俯いている。「仕事もらくじゃないわね」と気の毒そうにメイドがねぎらうと、ムクッと顔をあげ「…最高に感じたわ」恍惚の笑みとともにつぶやくのだ。出張もある。宗教的な儀式をするという怪しげな男の屋敷ではそこの死んだ娘になりかわり儀式を受けるが、終わってお金を受け取れば無情にも雨の中へ執事に放り出される。そんな努力の甲斐あって「いっしょにベッドに入ってもいい? 最近前ほど苦痛じゃないわ」行為にはまだ至らぬが、微笑みながらそんなことをいうまでにセブリーヌは感覚を耕されてきた▼困ったのは昼顔に惚れ込んだお尋ね者だ。昼顔の自宅をさがしあて自分のいうことをきけと迫る。前歯が金歯銀歯の獅子舞みたいな歯をした若い男だ。気が小さいから昼顔が「もう会ってやらない」というとシュンとして従うのだが、なにしろかかとに大きな穴のあいた靴下を平気ではいているような神経だから、娼館から一歩出た通常の世間でつきあいきれない。彼は嫉妬に狂ってピエールを狙撃し自分は警官に射殺される。ピエールの友人のユッソン(ミシェル・ピコリ)という中年男が厄介だ。彼はセブリーヌの性のジレンマを見破っており彼女が娼館に勤務していることを承知の上で来館し昼顔を指名、いつでもピエールに告げ口してやる、だからいうことをきけとほのめかして意味ありげになにもせず帰る。ピエールは一命をとりとめたものの全身麻痺で一生車椅子だ。セブリーヌが甲斐甲斐しく看病している。娼館は、そらもう練習どころじゃないでしょ。そこへユッソンがやってきて「ピエールになにもかも打ち明ける」と言う。いやらしい意地悪おじさんである。彼が帰ったあと、セブリーヌが部屋に入りもじもじして夫の様子を伺っているとピエールの頬から涙が流れた▼と思うと、夫がたちあがり「ほら治ったよ」という。喜んだセブリーヌは「馬車が来たわ」と窓をあけると、シャンシャンと鈴を鳴らした馬車が近づいてくる。御者は夢でセブリーヌを暴行しようとした男だ。しかし馬車の座席はからっぽ。だれも乗っていない…というセブリーヌの幻想です。ラストシーンの鈴の音と空白の座席が、そこに座るべきだった健康で幸せな夫婦が幻影だったことを悟らせる。でもいいじゃないですか。ピエールはユッソンの卑劣な告げ口にもかかわらず、妻が体を張って自分を愛そうとした真意を理解した、だから涙を流したのよ。ブニュエル監督だからシュール仕立てにしたけど、この映画は世間でいわれる「性の迷宮」ではなくむしろ純愛物語だわよ。

Pocket
LINEで送る