女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ディーバ(大女優)」

2013年1月13日

特集「ディーバ(大女優)」 カトリーヌ・ドヌーブ 
夜を殺した女(1986年 恋愛映画)

Pocket
LINEで送る

監督 アンドレ・テシネ

出演 カトリーヌ・ドヌーブ

若い監督と大福が好き 

カトリーヌ・ドヌーブは19歳で映画界に入り「パリジェンヌ」を撮った。それから50年。約73本の映画に出ている。今年69歳になる。「隠された日記」のキャンペーンで来日したとき、こんなに長く女優をやっていられるのは若い監督からオファがあるからだと言っていた。事実だろう。「隠された日記」の監督はジュリー・ローブ=キュルヴァル。女性監督だ。撮影当時ドヌーブは66歳でキュルヴァル監督は37歳。才能ある若い人と仕事をするのは刺激になっていいと。ドヌーブは若い監督たちからもなにかを吸収できる素直さがあるのだろう。70本以上も量産できることはつくづく映画という仕事が好きでなければできないことだ。親日家の彼女が「しあわせの雨傘」公開にあわせ来日したとき「徹子の部屋」に出演した。同番組でのインタビューは19年ぶりだった。19年前の写真と現在を比べられるのはたいていイヤなものだが「変わるのは悪いことではない」と貫禄の対応だった。付け加えればドヌーブは日本の大福が大好きで「あの白いプクプクした柔らかい感触」に目がないそうだ▼中年から老年にかけ、俳優とくに女優は難しい年齢にさしかかる。美貌もスタイルも崩れアクションは鈍くなり役も限定される。イングリッド・バーグマンもいた、ベティ・デイビスもいた、エリザベス・テイラーもマレーネ・ディートリッヒも、最後まで映画や舞台に意欲的だった。しかし50代から以後尻上がりに出演本数がふえつづけている女優は、不明にしてドヌーブ以外思い当たらない。映画とは、彼女のナルシシズムと好奇心と仕事好きを満足させる三度の飯より好きなものなのだ▼「夜を殺した女」は43歳のとき。「終電車」でセザール賞主演女優賞をとり、気力・体力とも充実していた。考えてみればドヌーブは健康である。お産以外に横になったことはないにちがいない。映画撮影とは不規則でハードな仕事だ。熱をだす、風邪を引く、鼻声を出す、腹をこわすなどコンディションを狂わせて同じ肌の状態さえ保てない役者に、つぎつぎオファが入るはずはない。大福のおかげか▼「夜を殺した女」のヒロイン、リリは田舎町で夫と別居、小さなレストランを経営している。湖に張り出したその店に夜は近所の住人たちが集まりダンスに興じる。息子のトーマスは13歳。ある日野原の一軒家の納屋に潜んでいる男二人に金をもってこいと脅された。祖父になきつき金をもらい男にわたすが、顔をみられたから殺してしまおうと一人が言う。それが原因で仲間割れしマルタンという男が相棒を殺した。彼らは脱獄囚だった。リリに出会ったマルタンはひきつけられ、彼の脱獄を待っていた女と別れ田舎町に残る。リリとマルタンの情事を寄宿舎から帰ってきた息子が垣間見る。リリの家族は老いた父と母。別居中の夫に息子だ。夫はリリも息子も愛している。でもリリは今の自分に「こんなはずじゃなかった」不満がある。マルタンを知ってくすぶっていた火が燃え上がる。母親に家をでると宣言する。「結婚したくないのに結婚した」とか「生活に抑圧しか感じない」とか一方的に言い募り、母親は「いまさら」と呆れるが、マルタンとの出会いはきっかけにすぎず、リリは長年頭上をおおっていたうっとうしいもの、自分を自分らしくすることを邪魔していたものをはねのけたかったのだ。マルタンは女に刺され重傷を負う。事情聴取されたリリは供述書にサインを求められ署名を拒否する。供述書は脅されたとなっているが脅されたのではない、自分の意志で男といっしょにこの町を去るつもりだったと。担当した刑事は大人の配慮で説得する。「奥さん、慎重に答えてください。犯人隠匿となれば刑務所送りです。しかし知らずにやったのであればそうじゃない」▼ラストは護送車にのって刑務所に向かうドヌーブである。田舎の田園のなかドヌーブ一人をのせた護送車がガタゴト走る。のどかな風景だ。ドヌーブは眉ひとつ動かさず前を見ている。生まれて初めて自分の意志を貫いた。良妻賢母をやるだけやったからもういいわ、刑務所でもどこでも行ってやるわ、ああせいせいした、という感じである。重傷だったマルタンはどうなったのだろう。回復したでもなければ死んだ、でもない。リリの精神的独立戦争が終わればキミの出る幕はないと、いわんばかりの扱いはちょっとひどいだろ。

 

Pocket
LINEで送る