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シネマ365日

2013年1月26日

特集「サイコ変奏曲」 扉の影に誰かいる (1971年 サイコ・サスペンス映画)

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監督 ニコラス・ジュスネール
出演 チャールズ・ブロンソン/アンソニー・パーキンス/ジル・アイアランド

パーキンスとブロンソンを見る愉しみ

 正体不明の記憶喪失の男にチャールズ・ブロンソン。彼が連れてこられた病院の、手術を終えたばかりの当直医師ローレンスにアンソニー・パーキンス。ローレンスの妻フランシスにジル・アイアランド。主な登場人物はこの3人だ。ブロンソンは50歳。「さらば友よ」「狼の挽歌」「雨の訪問者」で人気は絶頂。影があってクセがあって、苦味走って人情味がある、男があこがれるアクションスターの第一線にいた。受けて立つアンソニー・パーキンスはもともとハリウッド嫌い。コロンビア大学卒業後ニューヨークを本拠地とし、1960年代後半から1970年代にかけ「真夜中へ5マイル」(ソフィア・ローレン共演)「パリは燃えているか」(監督ルネ・クレマン)「オリエント急行殺人事件」(監督シドニー・ルメット)と、フランス語が堪能なことからパリに在住し、ヨーロッパ映画に軸足を移していた。彼はエイズにより60歳で没した。映画は24歳のときの「友情ある説得」(ウィリアム・ワイラー監督)でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、以後「胸に輝く星」「楡の木陰の欲望」「緑の館」「渚にて」「審判」「サイコ」「さよならをもう一度」と、これまた順調に独特のキャリアと人気を築きあげていた▼だから「扉の影に誰かいる」は、当時絶頂だったブロンソンとパーキンスが四つに組んだ話題作だった。ブロンソンはアクションスターの動きを静止させ、記憶喪失のディレンマに苦しむ男を、パーキンスはその男を利用し妻の不倫相手を殺させる悪徳医師を。しかしこれは…どうみても生き生きしているのはパーキンス君なのである。こういう、なんというか、ちょっと性格の複雑な、ややこしい男というか、繊細で洗練されていて…彼がブロンソンを連れてくる海辺の自宅というのが、画家か建築家のアトリエのようなしゃれた設計で、パーキンスはもてないのがおかしいというくらい、成功した医師。それなのに妻が不倫に走っているのはなんでや? 不倫の理由は映画では説明されていません。察するに、相手が複雑な性格のパーキンス君だから妻はついていけない、というところで納得しておけと監督はいわんばかりです▼ひきかえ、ブロンソンは決め技を封じられた格闘技の達人みたいだ。唯一ブロンソンらしいのは、パーキンスが診察するとき裸にした上半身のみごとな筋肉。50歳だったのですよ、50歳。39歳のパーキンスが着替えるときにみせた、鎖骨のとびでた両肩が衣紋掛けみたいでいたいたしい。ところが服をきたらガラッと逆転するのです。身長の差ですね。ブロンソンは180センチだから決して低くない。そのブロンソンが頭ひとつ見上げるほどパーキンスが高すぎる。おまけにブロンソンをあやつる医者として彼は役柄上、完全優位にある。「サイコ」でおなじみの、唇の右端をかすかにあげて笑う線の細い笑顔。少年のようでいて、心のなかの暗室にヘビが姿を隠している…そんな笑顔なのだ、じつは▼この映画まずはブロンソンとパーキンスの一挙手一投足を楽しむべきです。どちらも稀代の俳優ですよ。パーキンスは「サイコ」の成功があまりに大きく、その後「サイコ」亜流に流れたといわれます、確かにそういう映画もあったが、それだけではないですよ。彼は「サイコ」以後ざっと37本の映画に出演していますが、亜流だけでそれだけの役はこなせない。彼を「サイコ」のノーマン・ベイツに抜擢したのはヒッチコックの慧眼だった。「サイコ」以前のパーキンスの代表作といえば曖昧な位置づけが抜けきらなかった。話題作といっても相手がオードリー・ヘプバーンであったり、ソフィア・ローレンであったり、どうみても女嫌いのパーキンスがいじけてしまうような大物ランクです。オーソン・ウェルズだけが「審判」で、パーキンスの年齢に似合わぬ繊細さと複雑さのため、自分自身の老成に疲れた青年というイメージを全面に押し出し成功しました。オーソン・ウェルズやヒッチコックのように、自信をもって彼を使いこなす監督に恵まれていたら、パーキンスの晩年は違ったものになっていたかもしれません。

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