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シネマ365日

2013年1月28日

特集「サイコ変奏曲」 サイコ3/怨霊の囁き (1986年 スリラー映画)

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監督 アンソニー・パーキンス
出演 アンソニー・パーキンス/ダイアナ・スカーウィッド/ロバータ・マックスウェル/ジェフ・フェイヒー

ミイラにギターの弾語り

 自虐キャラなのか。アンソニー・パーキンスは。確かに「サイコ2」は面白かった。2作目の難しさを思えば健闘だった。本作はその3年後の製作で、興行成績も1500万ドルというから、悪くないだろう。「サイコ」ファンの根強い支持がわかる。よかったですね、パーキンス監督。ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)が年配になり、再び狂気にとらわれたのが前作「2」。「3」ではノーマンと母親の関係は周知の事実となり、母親はカツラと黒いロングなドレス、つま先の丸いベタ靴という定番のいでたちでしょっちゅうスクリーンに姿を現し、そればかりかミイラ化した姿では椅子にすわり、まるで公開されたように観客の前に現れる。スリリングじゃありません。第1作の衝撃的な母親の正体と、第2作の「はたして本当の母親はだれ?」というミステリアスなアプローチはなくなった。多重人格のジレンマも母親への怨念もどことなく薄れ、むやみと殺人が続く。薄くなった映画の内容に新味をつけたのは、一攫千金のサクセスを狙うミュージシャン、デューク(ジェフ・フェイヒー)だろう。金とセックスに目がなく、欲深くて俗っぽさ満開のミーハー。人のいいノーマンの、でも奥深いマザー・コンプレックスにつけこみ、金ヅルにしようとたくらむなんて「サイコ」シリーズ中もっとも打算的で現実感のある人間だ▼「ベイツ・モーテル」を再開したノーマンは、保安官や近所の人たちの好意もあり、営業は順調にいっていた。しかし町では相変わらず、行方不明のままのスプール夫人の失踪と捜索が新聞をにぎわしている。夫人が現れないのも当然、彼女はノーマンの実の母だと名乗って息子を訪ね、母親に愛憎相半ばするノーマンによって殺されていたのだ。精神異常者の社会復帰をテーマにするジャーナリストのトレーシー(ロバータ・スタック)が夫人の失踪に関心をもちノーマンの身辺を洗い出すが、保安官らは可哀想なことをするな、とノーマンに味方して聞き取りははかばかしく進まない▼歌手をめざす若者デュークがモーテルでアルバイトすることになった。ときを同じくして22年前ノーマンが殺した、金髪のマリオンにそっくりな女性モーリーン(ダイアナ・スカーウィッド)が町にやってきた。彼女は修道院で過失から同僚を事故死させ、悩んだ結果修道院を出た。モーリーンを見たとたんノーマンは一度に過去に引き戻される。若い女性に関心を持つや否や、ノーマンに嫉妬する母親の殺しの指示が耳元で囁かれる。それに反抗し「モーリーンはいい娘だよ、母さん、わかってくれ」と哀願するノーマンの狂気は、すでに沸点に達しかける▼過去の自分に戻ってしまったノーマンがナイフを逆手に、モーリーンを殺害しようとバスルームに襲うと、湯船は血の海。自殺を計った瀕死のモーリーンはナイフをふりあげたノーマンの母親の姿が後光に輝くマリアに見えた。歓喜に震えて手を合わされ、勝手のちがったノーマンはナイフを振り下ろせず、救急車を呼んでモーリーンは病院に収容された。ノーマンの精神状態が急に現実に切り替わるの、ちょっと都合よすぎないですか? パーキンス監督。とはいえ、ノーマンは一躍人を助けた「ときの人」となった。トレーシーの疑いは溶けない。彼女はとうとう精神病院に収容されていた女性の産んだ男の子が、その姉にひきとられたことを探りだす▼生に目覚めたモーリーンは、修道院に帰ることをやめノーマンと暮らすためモーテルに戻った。こうなると「母親」が黙っていない。またしてもナイフをふりかざしモーリーンを襲う。こんな騒ぎのあと、母親の部屋に安置してあるミイラがいなくなってしまったのだ。ノーマンはおおいにあわてる。ミイラはデュークが(気色悪さをものともせず)自分の部屋にかくまって、ギターの弾語りを聴かせてやっているのだ。こうなるとスリラーの域をこえたブラックな滑稽味を帯びてくる。頭にきたノーマンは「母を返せ」とつめよるが、デュークはちゃっかりしたもので「お前の殺しを黙認してやるから、土地を売って金をつくりその何%かをおれにまわせ」と具体的なマネープランを示す。なんだかへんな「サイコ」になってきましたよ▼結局ノーマンの犯罪は暴かれ、彼を見守ってきた保安官はがっかり「一生出てこられるまい」とつぶやき、サイコハウスを背に再び病院に収容されるノーマンで「3」は終わる。パーキンスはまるで病院に戻るのが我が家に帰るみたいなのです。それくらい「サイコ」にのめりこんでいたのですね。このとき彼は54歳。58歳で最後の「サイコ4」に出演します。その2年後彼は没します。思えば28歳の第1作から30年間「サイコ」とともに生きました。普通なら「3」で出すべきものは出し尽くし、演じるべきことは演じたと思うじゃないですか。でもまだあったのだ「4」が。それを考えついたのは文字通り「サイコ」に没入したパーキンスならでは、だったでしょう。

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