女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

シネマ365日

2013年2月1日

おとなのけんか (2011年 コメディ映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ロマン・ポランスキー
出演 ジョディ・フォスター/ケイト・ウィンスレット/クリストフ・ヴァルツ/ジョン・C・ライリー

生き生き、ポランスキー監督 

 登場人物は4人。シーンはほぼ室内のみ。二組の夫婦の壮絶会話バトルの傑作だ。ファーストシーンはブルックリンの公園。ザッカリという少年が同級生のイーサンを棒でなぐり前歯を2本折る。後日ザッカリの両親、弁護士のアラン(クリストフ・ヴァルツ)と妻である金融ブローカー、ナンシー(ケイト・ウィンスレット)は、喧嘩の後始末のためイーサンの両親、アフリカのタルールの紛争をドキュメントするリベラルな作家ペネロペ(ジョディ・フォスター)と、夫で金物商を営むマイケル(ジョン・C・ライリー)のアパートを訪問する▼どちらも訴訟沙汰にはしない、平和裡に解決しようと、ペネロペがパソコンで事実確認をしたため双方が了解し、友好的に玄関まで送りにでた。そこで「じゃ、これで失礼」となるはずだった。どっこい、ポランスキー監督はつかんだヒモを離さない。いままでは泳がせていただけだといわんばかり。このあたりの呼吸をジワッと滲出させるのがだれあろう、J・フォスターである「ザッカリは謝罪してくれるのでしょうね」とさりげなく、でも腹に充分トゲを含んだ声で口にする▼たかが子供の喧嘩じゃないか、前歯が折れたって矯正できるだろう、とタカをくくっている弁護士は「治療費は、なんならお手伝いさせてもらう」と言ってそれ以上相手にする気がない。ナンシーは(お前とこの息子だって悪いのに、わざわざ謝りにきてやったのよ、なのにまだ謝罪しろ?)甚だ遺憾このうえないという態度がありあり。おまけにお前ら、飼っていたハムスターを捨てるような人道にもとる連中ではないか、謝罪しろと人にいえる義理か…ところが理屈っぽさと正義感にかけてはペネロペをへこます相手をみつけるのは難しい。夫のマイケルは完全に尻に敷かれ(社会正義をふりまわす女・世界をよりよき方向に変えようという女)に辟易しているのだ▼妻の一言で雰囲気が微妙に変化したのを恐れたマイケルは「コーヒーでも」と割って入ると「エスプレッソがあるなら」と弁護士が答え、4人は再び応接ソファで相対する。なんで「さっさと帰さないのよ」とペネロペは自分の一言を棚にあげて夫を責める。アランは大手企業の顧問弁護士であることを鼻にかけ、24時間場所柄もわきまえずケータイでしゃべる無神経な男。妻がそのため異常なストレスに陥っていることにも気づかない。映画の後半、妻が怒りの発作でケータイを花瓶の水に放り込むと「ああ、ケータイにおれの人生のすべてがつまっているのに」と倒れこむ情けない男である▼ソファのテーブルにはペネロペがオランダから空輸でとりよせた一束20ドルのチューリップが生けてあり、レオナルド・藤田、ココシュカの画集が置いてある。フォスターは得意げにその画集を示し自分のハイレベルな趣味を強調し手作りのケーキをすすめる。昼食をとっていないアランはガツガツとケーキを食い散らかし、ナンシーは(ケッ。こんなまずいもの)とすぐ食べるのをやめ、喉が渇いたので飲み物がほしいと所望する。ペネロペは冷蔵庫にいくがコーラが冷えていない。まったく「気がきかない」と亭主をにらみつけ、氷もいれずそのまま出す。まずいケーキになまぬるいコーラで気持ち悪くなったナンシーは胃を押さえて歩き回りながら「おう、おう」と壮大に吐き散らかすのだ。ふりかかるゲロに一同右往左往。モップをとりに走ったペネロペは「あのバカ女」と毒づき忍の一字で床を拭き回し、弁護士はズボンを汚されバスに駆け込む。ペネロペ自慢の画集も吐瀉物でどろどろ。リビングは地獄図を呈する▼この映画の面白さはケイト・ウィンスレットのド迫力ともいうべきゲロ・シーンフォスターが青筋たてて怒る憤怒の形相大物ぶりながら俗物根性丸出しの弁護士をクリストフ・ヴァルツ女房に頭があがらないが完全白旗ではないと、ちょこちょこ抵抗を示す旦那のジョン・C・ライリー。これらクセのある人物たちを絶妙に演じわけた4人の俳優にある。文句なく拍手だ。敵対するはずの夫婦二組が、いつのまにか男と男が妻たちに対して共同戦線を張り、と思うと敵方の妻に味方のはずの夫が肩をもち、論戦たけなわのうちに女同士が共感し、このばからしい事態が飲まずにおれるかと、スコッチのグラスをぐびぐびあける。またゲロしないかと夫たちは青ざめるが女たちは一顧も与えない。ひとつまちがえば支離滅裂になりそうな映画を、ポランスキーは痛快に盛り上げていく。本来いさかいとはもっともらしい原因で始まり、かくも無為で愚かな展開をたどるのだ、夫婦に限らない、国家間のそれも、地域間のそれも、とポランスキーは冷笑する。エンドは喧嘩したはずの少年ふたりは仲良く遊び、棄てられたはずのハムスターは公園で無事元気に生きている。「大騒ぎしなくても、人生なるようになるのさ」現実の辛酸をなめ、数々の辛口社会派映画を撮ってきたポランスキー監督のいきついた、諦観とおおらかさが背中あわせになった79歳の世界観。それがひとつも暗くなく、いきいきしています。

Pocket
LINEで送る