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特集「ディーバ(大女優)」

2013年2月7日

特集「ディーバ(大女優)」 マリリン・モンロー 
ノックは無用(1952年 サスペンス映画)

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監督 ロイ・ウォード・ベイカー
出演 マリリン・モンロー/リチャード・ウィドマーク/アン・バンクロフト

奔 流 

25歳から26歳にかけてマリリン・モンローの映画は堰を切ったように市場に流れ出す。26歳のときのこの「ノックは無用」から「モンキー・ビジネス」「結婚協奏曲」「人生模様」そして「ナイアガラ」へ。奔流をつくったのはなんといっても本作だ。映画会社のオフィスにチンとすわっているだけのアタマの硬い役員たちはいざしらず、市場の第一線で観客の呼吸や反応を肌で知っている映画館の館主や上映者たちが、あんないい女優を軽く扱うべきではないとフォックスに直言したのだ。彼らこそマリリンのいう大衆の代表だった。株主たちはいつマリリンの新作をつくるのかを役員にぶつけた。おっぱいの大きいアタマの弱い金髪の若い女としかマリリンをみていなかったフォックスの重役ダリル・F・ザナックも無視できなくなった。ザナックとマリリンの確執は深い。マリリンはザナックから受けた嘲笑的な扱いを絶対忘れなかった。マリリンはやかましいことをいわず、涙もろく情に厚くたいていのことは許してしまうが芯は強かった。内気だったから目立ちはしなかったが、プライドと自尊心を忘れる女ではなかった▼粗筋は恋人を戦争で失い神経が不安定な娘ネル(マリリン・モンロー)が、精神病院で数年過ごした後、マンハッタンのホテルに勤める叔父を頼って出てくる。ネルは叔父の紹介でホテルのベビー・シッターとして働く。ホテル客のジェド(リチャード・ウィドマーク)は恋人の歌手のリン(アン・バンクロフト)を追って、リンのステージを聴きにきている。リンは自分勝手で思いやりのない傲慢なジェドに愛想をつかし一方的に別離を通告、みれんのあるジェドはよりをもどそうとかきくどいているところだ▼このジェドが窓越しにネルをみて興味をもち、子守をしているネルの部屋に押しかける。話のはずみでジェドがパイロットであるとわかってから、ネルは恋人が生きて帰ってきたと錯覚し、再び狂気に追いやられる。子供の両親は金持ちでホテルのレストランでパーティーの真っ最中だ。ネルは奥さんのジュエリー箱のなかからイヤリングやブレスレットをとりだしてじっとながめ、自分の腕にはめる。さらにドレスを着てマリリンは鏡のなかの自分を眺める。ネルのセリフは少ない。窓の外で飛行機の音がし、思わずかけよって見上げたネルの目から涙が落ちる。マリリンにとって本格的な主役第一作だった。マリリンはただの軽い娘役から脱皮するチャンスを逃さなかった。緊張のあまり演技コーチのナターシャに「こわい、こわい」と連発したが、撮影が進むにつれ冷静さをとりもどした。ホテルの回転ドアから入る最初のシーンから、若い年齢にも似合わぬ影をネルは感じさせる。心を閉じた屈託のある表情、おどおどと口ごもる自信のない話し方、マリリンは別人のようだ。映画会社からもらう雀の涙のような給料の中から、精神病院に入院している母親への仕送り、ナターシャに払うコーチ料、本を買いレッスンを受けるお金、家賃を払えば食うや食わずの毎日にもかかわらず、たくわえてきた演技のスキルを開放するのにマリリンは急がなかった。脚本を読み込みじっくり役作りした成果が、奥さんの高価なドレスの肌触りをみるうれしそうな、うらやましそうな手つき、ひたと鏡のなかの自分をのぞきこむはかなげな、それでいて熱っぽい視線、そんな的確な演技に結実した。男にいうこんなセリフがある「あなたの好む女になるわ。わたしはあなたのものなのだから」ジェドはとまどいネルの腕をほどく。ネルの狂気はひたひたと男に迫る。どこまでが狂気でどこからが正気か男にはわからない。しかしネルは精神のどこかにある敷居をまたいでしまった。それをしっかりと伝えるマリリンの演技はとめどなく深い孤独を感じさせる。共演のアン・バンクロフト(「奇跡の人」アカデミー主演女優賞)はマリリンを絶賛した。リチャード・ウィドマークは「マリリンに食われた」と言った。マリリンは共演者やスタッフから寄せられる祝福と賛辞に興味深いスピーチをしている「わたしは自分をみつけようとしているの。自分が強いところを持っていると感じることもあるけど、それを引っぱり出さなくちゃならないの。それは簡単なことじゃないわ。簡単なことなんかひとつもない。でも続けなくちゃ」ーこの仕事に打ち込むマリリンのひたむきさには、ザナックさえ激励の手紙を書いたとナターシャは明かしている。

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