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特集「ディーバ(大女優)」

2013年2月9日

特集「ディーバ(大女優)」 マリリン・モンロー 
人生模様 「警官と賛美歌」(1952年 オムニバス映画)

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監督 ヘンリー・コスター
出演 チャールズ・ロートン/マリリン・モンロー

きれいだった笑顔

「人生模様」はオー・ヘンリーの短編5編をオムニバス映画化したものだ。そのうち第一遍がマリリン・モンローの出演する「警官と賛美歌」だ。チャールズ・ロートン演じるホームレスが、ニューヨークの厳しい冬を過ごすには極寒の三ヶ月間を刑務所に入るにかぎると決めている。三食きっちりありつけて凍える心配もない。風邪をひけば医者がみてくれるしシャワーも使える。御殿のようなものだ、だからおれがどうやって御殿に入るかよくみていろと、仲間のホームレスにつぎつぎ警官につかまる秘策を披露する。紳士のアンブレラを盗ろうとしてわざと気づかせ「さあわたしを警察につきだしてくれ」とエラソーに言うが、紳士は「忘れ物を黙ってもってきた傘だ、悪気はなかった、見逃してくれ、その傘は差し上げる」といって退散する。ホームレスは仕方なくイギリス人のように傘をもちあるき高級レストランに入る。値段の高い料理ととびきりのワインと葉巻を注文しおもむろに「勘定」とボーイを呼ぶ。とんできたボーイに「金はない。無銭飲食だ、警察を呼んでもらおう」騒動をおこしたくない店主は「店のおごりだ、さっさと出て行け」と追い出す▼うまくいかないホームレスは警官がみているのを承知で着飾った若い女に声をかける。誰が診ても娼婦とわかる。これがマリリンだ。彼女もまた貧しくてその日はなにも食べていない。ホームレスに「なにかおごって」と頼むが彼は無一文だ「すまない、お嬢さん。わたしはあなたにあげるものがなにもないのだ。せめてこの傘を受け取ってくれ」と唯一の所有物である傘を押し付け逃げるように去る。不審に思って近づいた警官に、マリリンはホームレスのあとを目で追いながら「わたしのことをお嬢さん(レディ)と呼んでくれたわ」と涙ぐむ。3分にも満たぬ出演だが、マリリンの感動が素直に伝わってくるいいシーンだ。彼は教会で賛美歌の美しさに打たれ、勇気をふるいおこして人生再出発を誓うのだが浮浪罪でしょっぴかれ、皮肉なことに90日の刑務所入りを判事に言い渡されるという、オー・ヘンリーらしい独特のヒューマン・ストーリーだ▼1952年とはマリリンにとってまさに疾風怒濤の幕開けだった。一作ごとにマリリンの注目は高まった。二度目の結婚をするジョー・ディマジオとの噂もいやましに世間の耳目を集めた。盲腸の手術も受けた。数々の雑誌の表紙となって登場しマリリン・モンローの写真、インタビュー、ニュースが奔流のように溢れでた。 いちばん話題になったのがヌード・カレンダーだった。マリリンが無名のときのヌードだが、スタジオは売り出し中の女優のスキャンダルを恐れ、もみけそうとしたがマリリンはあっさり自分だと認めた。マリリンにすればだれでもギャラ稼ぎにしているけど黙認されている、自分の場合たまたまばれてしまったが、そんな大騒動するタイヘンなことなのか…でもこれはマリリンのリスクマネジメント(危機管理能力)の勝利だとほとんどのマリリン伝は伝えている。 なぜヌードになったのかと問われ「飢えていたからよ」 そう答えたことで大衆はいっぺんにマリリンが好きになった。マリリンは人の気持ちをつかむのがうまかった。考えてそうするのではなく一瞬にしてなにかを見ぬいてしまうのだった。マリリンの三度目の夫になった劇作家アーサー・ミラーは、マリリンが作家の意図の本質をつかみとる不思議な能力を持っていたことを証言していると、グロリア・スタイネムは「マリリン」に書いている。彼女の「マリリン」はジョージ・ハリスの写真集に加筆されたマリリンの評伝だが、訳者の道下匡子さんによれば、著書が出版された1987年は、今でこそ女性作家によるすぐれたマリリン評や小説はあるが、当時女性によって発表されたマリリン・モンローの評伝はそれが初めてだった。グロリアはマリリン・モンローの「無視されたこども」…物心つくまでに父からも母からも大事にされた記憶のないこども、たっぷりの愛情を注いでくれた充足感のない「無視されたこども」に迫っていく。マリリンのなかにいる「こども」がついに成熟できなかった悲劇、その傷の深さ、同時にそれを克服しようと無我夢中で働くマリリンの強さといたいけな努力。ついにくる崩壊を日のもとにひきずりだした描破は、読むのがつらい。マリリンの晩年を知ってこの映画をみると、わずか数分の出演に輝くような素質をみせているマリリンに胸をうたれずにはおれない。この笑顔がなぜいつまでも続かなかったのだろう。いや、最後まで続いたのだ。それはマリリンが一生をささげた「マリリン・モンロー」という女優のために、笑顔のきれいな明るく美しい女優のために、彼女がふりしぼった力技だった。

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