女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「ディーバ(大女優)」

2013年2月15日

特集「ディーバ(大女優)」 マリリン・モンロー 
七年目の浮気(1955年 コメディ映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ビリー・ワイルダー
出演 マリリン・モンロー/トム・イーウェル

マリリン・モンロー社長

この映画の公開に先立つ1954年をどういえばいいのだろう。嵐のなかで爛漫の花が吹き荒れているような、それは栄光をもたらすものか悲惨を招くものか、だれにもわからなかったが、マリリンはとにかく怒涛のなかに漕ぎだした。まずジョー・ディマジオとの離婚があった。その直接の原因は「七年目の浮気」ロケでマリリンのスカートが地下鉄の通風口に吹きあげられ、あられもないまでにマリリンが両脚を見せジョーが激昂した、その夜マリリンに暴力を振るったというものだ。ジョーは伝統的な家庭的な妻がほしかったのだろう。しかしマリリンの家事能力なんて、考えたらわかりそうなものだが。ジョーはニューヨークのレキシントン・アベニューと52丁目北西角に今もある通気口で、深夜午前一時に5000人ともいわれたファンが集まり、マリリンの白いスカートが吹き上げられるたび歓声をあげた、なかには品の悪いヤジをとばすやつもいて、ジョーにすれば赤面を通り越して真っ青になり、そばで彼の顔をみた監督のビリー・ワイルダーは「あれは死相だ」とあとで言ったくらいだ▼ジョーはいい加減な男ではなかった。ただちょっと独占欲が強くマリリンもこの調子じゃ「ちょっとやばくなりそう」と内心思ったものの、ジョーの純情にほだされて結婚した。なにしろ肌をだしても機嫌が悪くなるので、ふたりが新婚旅行で日本にきたとき、マリリンはきっちり襟のつまった女学生の制服みたいなスーツを着ていた。印象的だったのはジョーと手をつないで腕をふり、大きな口をあけて天衣無縫に笑っていたマリリンで、その笑顔はベソをかいていた迷子の子が、見つけにきた保護者に歓喜しているような安心感だった▼ヘイズ・コード(アメリカの映倫みたいなもの)がガンガンくちばしをはさみ、撮りたい映画の半分も実現できなかったが、脚本家のジョージ・アクセルロットは、セリフもシーンもズタズタにカットされたがマリリンがいれば充分だった、マリリン抜きでこの映画の成功はなかった、彼女は素晴らしく風変わりで悲劇的な真の女優であり天才だと絶賛した…マリリンの死後だけどね。マリリンにはひどい目に合わされた、彼女のアタマは穴のあいたチーズみたいだとかなりのことを言ったワイルダーも、ウツ状態のマリリンをなだめすかしてセリフをひきずりだしたにもかかわらず、編集してみると完全に自然なマリリンがそこにいて、彼女の魅力だけがスクリーンに残ったと認めた。ひどい目にあったとかどうとか確かにあるだろうが、マリリンが仕事に徹する女優だったことは明らかだ。通風口の本番はスタジオで、なんと40テイクの撮り直しで完成したものだ。いったんセットに入った限りどんな過酷な撮影をも投げ出す女優ではなかった。ひどい目にあわされただけの女優だったら、ビリー・ワイルダーが再び「お熱いのがお好き」でマリリンにオファをだすはずがない。ワイルダーのお気に入りはオードリー・ヘプバーンやシャーリー・マクレーンであり、髪の毛の先からでも知性がうかがえるような女優であって、マリリンのようにまるで別人格のように知性を隠してしまうのは彼のタイプではないのである。しかしワイルダーのタイプであろうとなかろうと1955年の収益ナンバー1を稼ぎだした女優の非凡な能力に、面とむかってケチをつける監督もプロデューサーもいなかった。マリリンに不満なのはほかならぬマリリン自身だった。タイムズスクエアに16メートルのマリリンの通風口の切り抜きがあがったとき、マリリンはそれが見える喫茶店で、切り抜きを見上げながら通る人たちをさし、いっしょにいた俳優のイーライ・ウォラックに「みんなあれがわたしだと思っているのよ」と言ったことをウォラックは忘れられなかった。マリリンが自分のことを時々三人称で呼び始めたのもこのころだ▼自分がなりたいマリリン・モンローと現実のマリリンとのギャップに葛藤していたマリリンは、ジレンマに挑戦するように生涯最大の賭けにでる。MMP(マリリン・モンロー・プロダクション)の設立だった。写真家ミルトン・グリーン夫妻がマリリンの協力者となり、マリリンがフォックスに隷属しなければならない女優活動、さらには「七年目の浮気」の10万ドルのボーナスも支払われていない不満を知って「自分の会社をつくって自分の映画を撮ればいいのだよ」とサディッションしたのがきっかけだった。口だけでなくミルトンは私財をつぎ込んでマリリンの独立を支持した。レストラン「ロマノフ」で行われたハリウッド最大のスターたちが集まった「七年目の浮気」完成祝賀パーティーの興奮もさめやらぬとき、マリリンは運命の賽を投げた。まともにとりあわなかったフォックスを相手にマリリンは徹底抗戦の覚悟を決めていた。大女優になりたいの…ただひとすじの夢を実現するためにだれも邪魔させない。内気でおだやかなマリリンが、本気で戦う気になったのはおそらくこれが生まれて初めてだろう。マリリンはただのナルシストではなかった。ハリウッド中が仰天したこの事業のたちあげに、マリリンとミルトンは弁護士を動員して丸一年闘いぬく。フォックスが折れた。MMPは設立した。圧倒的なアドバンテージを勝ち取ったマリリンの新契約とともに、長い間俳優を所有物とし、その意思や自主性を拒んできたハリウッドのスタジオシステムは実質上崩壊したのである。マリリン・モンローは社長に、ミルトン・グリーンは副社長に就任した。マリリンの生涯で爛漫の花が咲きかけていた。そのはずだった。しかし激しい仕事の連続と緊張がマリリンの神経をさいなんでいた。仕事にでられる体力を維持するために(マリリンはもともとそう頑健な体ではなかった)興奮した神経を静め、体を休ませるためにマリリンは睡眠薬にたよるようになる▼「七年目の浮気」でマリリンは名前もない女に扮する。これは象徴的だ。二階に引っ越してきた彼女は、劣等感のかたまりみたいな中年の男(トム・イーウェル)に自信を与え、男は活気を取り戻して妻と息子のいる避暑地に向かう。名もない女はやさしく窓辺から男を見送る。なんとまあ、ワイルダーのつくる映画はどこか男ヒイキが目立つが本作なんかそのさいたるものだろう。極めつけのセリフを紹介しよう「奥さんはあなたに嫉妬しないの?」「だれがぼくに嫉妬する。ぼくは平凡な男で中年太りの月給取りだ。夜の9時半にはもう居眠り。そんな男にいい女ができるかもしれないとだれが疑う? 美人はみな素通りさ」「そうかしら。美人の気持ちがなぜわかるの。あなたは女性をみくびっているわ。パーティーでよくいるわね。全身バシッと決めた男性。ぼくの魅力に参っただろうって自信たっぷり。女は必ず落ちると信じている。でもそう甘くないわ。部屋のすみで汗をかいて恥ずかしそうにすわっているシャイな笑顔に胸を打たれて、男の本当のやさしさがわかるのよ。女が求めるのはそれよ。わたしはあなたの妻だったらきっと嫉妬で身悶えするわ」まるで菩薩の言辞とまなざしである。菩薩には固有名詞は不要なのだ。マリリンよ、MMPの行き掛けの駄賃に、宗教法人マリリン観音菩薩教でもたちあげてやればよかったのだ。

Pocket
LINEで送る