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特集「ディーバ(大女優)」

2013年2月18日

特集「ディーバ(大女優)」 マリリン・モンロー 
お熱いのがお好き(1959年 コメディ映画)

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監督 ビリー・ワイルダー
出演 マリリン・モンロー/ジャック・レモン/トニー・カーティス

空前絶後のジャック・レモン 

「お熱いのがお好き」は「シネマ365日」でも書いたし、大筋の感想は変わっていない。やはりこれはビリー・ワイルダーの男の映画でマリリンは付け足しだ。自分が脱皮しようとする「ブロンドのおバカ」イメージがまたもや持ち込まれたことに、マリリンは嫌気がさしたがお金が必要なこともあって引き受けた。MMP(マリリン・モンロー・プロダクション)の資金繰りは、マリリンが映画に出る以外まわっていかなかったのだ。この映画の撮影が終わるころは、ビリー・ワイルダー監督とマリリンの不仲は誰がみても明らかで、とうとう二人は口もきかなくなっていたとか、共演のトニー・カーティスがマリリンとキスするのはヒトラーとキスするようなものだと言ったとかいわれたが、マリリンあるところどこに行っても波瀾万丈。でもいちばんの原因は夫アーサー・ミラーとの結婚が暗礁にのりあげていたことだろう。共演のトニー・カーティスは「マリリンは心配事をたくさん抱えていた。アーサーといさかいが絶えなかった。撮影には2~3時間遅れてきた。ぼくらは6時半から役になりきり自分を消して待機していた。マリリンのやることは予測不可能だった。周りを戸惑わせたけどぼくは気にならなかった。ヒトラー云々なんて絶対言っていないからね」スタジオに彼女が姿を現すとみな「ホッ」だった。マリリンがOKすればテイク(本番)は了となるのだが、マリリンは自分が納得するまで何度もシーンの撮り直しを要求した。マリリンの「もう一度」がでるたび気が狂いそうになったとジャック・レモンは思い出している。しかし彼はマリリンが、悲惨な私生活にいながら映画の中では魅力的でなければいけない状況にいることを知っていた。マリリンは勇敢に、涙ぐましいまでに演技したとのちに述懐した。アーサーもマリリンを妻にしたことが地獄の一丁目だったとしか思えない。愛しあっているだけでは充分でない、家庭もまた治めなければ暴走する可能性を秘めている。10月マリリンは二度目の妊娠を知った。撮影を終えニューヨークにもどったマリリンは妊娠初期の大事な時期を休んで過ごすよう言われていた。しかし12月再び流産してしまう。マリリンは十年来診てもらっているクローン医師の注意を思い出し、親友への手紙に空腹のまま睡眠薬を服用したことが流産の原因になったのではと悔やみ悲しみに沈んだ。マリリンは失われた子がその母に、悲しみという形で残していった薬物の怖さを忘れるべきではなかった▼以上のようなことを書けば惨憺たる撮影現場みたいに聞こえるが、じつはそうでなかったと思う。この映画のキー・パーソンはジャック・レモンだろう。シカゴでギャング抗争の殺人現場を目撃したばかりに、女性ばかりのバンドに女装してまぎれこんだサックス奏者のジョー(トニー・カーティス)とベースのジェリー(ジャック・レモン)が、シュガー(マリリン・モンロー)という歌手兼ウクレレ奏者に出会い、ハチャメチャな騒動を巻き起こしながらハッピーエンド。他愛もないストーリーをその年の大ヒットにしたのは、洗練されたセリフの妙とジャック・レモンの存在だ。存在という言い方しか思い当たらない自分のボキャ貧ぶりを嘆きたくなるくらい、彼のセリフまわしと体技は豊穣だ▼ここは興行地に向かう夜汽車。厳しい女性マネージャーの命令でベッドに入ったもののみなタヌキ寝入り。黒いカーテンに閉じられた2段ベッドのとある一画から、ニョキッとマリリンの金髪が首をだす。修学旅行の掟やぶりみたいなものだ。監督のセンスもさることながらこういうときのマリリンの子供っぽい自然な表情は格別だろう。マリリンはジュリーこと女性名に改名したダフネが、楽団の禁酒令にもかかわらず、隠れ飲みしていたマリリンがみつかったときにかばってくれた、そのお礼をいいたいとベッドにあがりこむ。ダフネを女だと思っているから毛布に入り足をこすったりだきついたり、ウフフフフ、ダフネはすっかり有頂天で酒を取り出し、バンドの仲間はわれ先に寄ってきて夜汽車の中は上を下への大パーティー。ハメを外した女たちがダフネのパジャマを脱がそうとしもはやこれまで、ダフネは非常停止のハンドルを引く。列車は急停車。2段ベッドの上から女たちは全員転げ落ちるという切れのいいシーンがある▼興行先のフロリダについたバンドの一行は泳ぎに行く。浜辺ではしゃぎまわっているダフネにシュガーが「あなたって大柄ね。腕も脚も太いし」無理ないね。180センチ、76キロのジャック・レモンがつなぎの女性用水着をきているのだもの。シェリーに自分がさえないバンドマンだという正体を隠し変装して近づいたジョーは、首尾よくデートの約束をとりつけルンルン。部屋に帰ってきたらダフネもうきうき。オズグッド3世という大富豪がダフネに恋し結婚を申し込んだというのだ。正気かお前は、と詰め寄るジョーに「う・ふ・ふ」マラカスを振るジャック・レモンのこのシーンが空前絶後の雰囲気を盛り上げるのだ。マラカスを振る手の舞い、腕の振り、あごの上げ下げ、視線の目力。ワイルダーはハーバード大学で化学を学んだジャック・レモンという変わり種を、自分の分身のごとく話題作に登用。ジャックはアメリカ最高の喜劇役者と呼ばれるに至った▼もうひとつ付け加えるなら、オズグッド3世とダフネが踊るタンゴのシーンだ。ラ・クンパルシータのドラマティックな旋律にのり、180センチのジャック・レモンが小柄なオズグッド3世と手に手を取って抱き合う。グロテスクにさえなるおふざけの構図を、始めから終わりまで上質の笑いにしているのは、計算しつくした抑制で放埒を装ったジャック・レモンの演技なのだ。マリリンは可憐で純情で夢見る若い娘を無邪気なまでに演じた。でも劇中、結婚や男へのあこがれをセリフで口にするマリリンはどこかはかなげだ。自分の人生があと3年を残すだけになっていることをわかっていたみたいに。

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