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シネマ365日

2013年3月1日

ゼロ・ダーク・サーティ (2012年 アクション・サスペンス映画)

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監督 キャスリン・ビグロー
出演 ジェシカ・チャスティン

 ビン・ラディン捕縛・射殺のニュースが世界中に流れたとき「え。まだ追っかけていたの」が実感だった人は案外多かったのではないでしょうか。9.11がもはや遠くになりかけていたころ。ついにやった「アメリカの執念」のようなものがそこにありました。キャスリン・ビグローは調査分析にあたった中心人物が女性だったことを知り、これを映画にしない手はないと確信したのだと思います。彼女の主人公は「ブルー・スチール」(1990)でもそうでしたが、男組織のなかで肩身の狭い思いをしながらも、信念をまげない女性にエールを送っています。それと前作「ハート・ロッカー」でみせたドキュメンタリータッチの告発が彼女の独特のスタイルになりつつあります▼CIA女性分析官マヤ(ジェシカ・チャスティン)がパキスタンに赴任するところから始まります。熱砂の町の乾いた風が吹いている。黒いスーツで着任したマヤはさっそく「スーツで仕事か」と笑われる。9.11から3年。CIA内部にもあきらめムードがただよっているパキスタン支局。情報ははいるもののガセネタが多い。とらえた容疑者の拷問にマヤは最初のうち目をそむけていたが慣れてきた、調査は遅々として進まずひんぱんに自爆テロは生じる。一年、二年、三年無為に日はすぎる。けだるい。進展のない毎日が砂漠のように虚しい。セリフの少ないマヤの日常と仕事がなにかの伏線ででもあるかのように丹念に綴られていく。やっと映画は半ばあたり。いきなり均衡を破る。マヤと同僚が無差別テロの標的となり危機一髪爆死をまぬがれた。その後テロ一味を追い詰めた直前、マヤの友人の三児のママ調査官を含む同僚七人は自爆テロにやられる▼ここから映画は急旋回して煮詰まっていく。マヤ自身の人が変わる。自分の仕事はビン・ラディンの分析調査の域ではない「殺してやる」に変わるのだ。ビグロー監督はそれがいいとか悪いとか、なんの説明もつけていないが地道な調査と追跡と情報入手に黙々と従事するマヤを、それこそ報道カメラのように追っていく。やっとビン・ラディンの連絡係をつきとめた。情報の水源をさかのぼり「ベイビー、これをみろ。電波が傍受できるぞ。オレに惚れただろ」そう言ってケータイをマヤに渡した同僚に、無表情だったマヤが顔中で笑ってとびつく。居場所を絞り込んでいくプロセスでCIA長官との会議が開かれる。会議室にきたマヤが席につこうとすると「君はそこに」と討議のテーブルを外された部屋の隅の椅子を示される。差別もいいところだ。長官の質問にだれよりも正確に応えたマヤに長官は「君はだれだね」初めて気づいたようにきく「情報分析にあたるクソッタレです」とマヤは答える▼マヤの情報が無視できない重要性を帯びマヤは会議の席に連なることになった。彼女が指摘した場所にビン・ラディンがいる確率はどのくらいだ、と長官がきき「40%」「60%」とそれぞれ担当者が回答する。君はどうだと長官がマヤに向くと「聞くまでもない、100%です」と上司が答える。100%といえば「ビビってしまうから95%にします」とマヤが言う。腰抜けども、と長官がつぶやく。もちろん「40%あるいは60%」の答えに対してだ。ランチの食堂でマヤをみかけた長官は同じ席にトレーを持ってすわる。「君はなぜCIAに入った」「高校でリクルートされて」男社会のCIAで高卒の学歴では出世は望めない。しかしマヤの情報をまともにとりあげないパキスタン支局長に今から帰国しあなたのことを逐一報告して白黒つけてやるとマヤは攻撃する。テーブルにすわってウダウダとマヤの情報を批判している上官らに「目の前で友だちを殺された、自分も死にかけた、あなたたちとは情報調査の重さがちがう」とかみつく。意思決定がなされた。今夜だという日の日中、海兵隊の突入隊員らがのんびりと輪になって冗談を言っている。マヤもそこにいる「おい、ほんとうにいるのだろうな」とひとりが隊長か班長か、それと思しきメンバーに聞いている。「知らん」「お前はそういうが、もしいなかったらどうしてくれる。オレはパキスタンの刑務所でカマほられるのだぞ」そしてニヤッと「まあいいけど」みなはじけてしまう。隠れ家(とはいえ要塞のように堅固だ)に突入したのは2011年5月11日。深夜零時30分。ゼロ・ダーク・サーティとはこの時刻の軍事用語だ。出発する海兵隊のメンバーにマヤは「みつけたら私のために殺して」と要求する。情け容赦の微塵もない。そこからエンドまでヘリの故障、墜落、捜索、暗闇の銃撃というより殺戮だ▼ビン・ラディンの遺体をマヤが確認し「彼女が認めました」と最終報告で決着。最近ハリウッドで暗いヒロインがふえている。「ソルト」「ドラゴンタトゥーの女」「ブラック・スワン」「プロメテウス」「スノー・ホワイト」「アンダー・グラウンド」無差別にあげてみた。暗い情念でないと絵にならない、というのは言い過ぎだとしても、ハッピーエンドだけで描ける、あるいはそれで喜ぶおめでたい女だけで、映画ビジネスがとらえきれないことだけは確かになっている。

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