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シネマ365日

2013年3月26日

ウィンターズ・ボーン (2010年 シリアスな映画)

監督 デブラ・グラニック
出演 ジェニファー・ローレンス/ジョン・ホークス

リーというヒロイン 

 ミズーリ州というのは東部でもなく西部でもない中西部の内陸だ。疑い深い人の州という別名がある。デブラ・グラニックは女性監督。ミズーリ州のオザーク高原を舞台にした小説を映画化するにあたって「そこでは非常に時間をかけて物事が動いている」と感じたそうだ。アメリカ人からみてもかなり異質の、独特の文化を育んだエリアなのだ。深い森と荒れた畑と沼のあるこの地で、家族とともに暮らすヒロイン、リー(ジェニファー・ローレンス)が健気だ。彼女は17歳。母親は心を病みほとんど口をきかない。弟と妹は幼い。生活は貧しくその日暮らし。保安官がきて保釈中だった父が行方をくらまし、期限内に法定に出廷しないと、保釈金の担保に森と家を明け渡さねばならないと告げる。リーは父の行方を探す決意をする▼叔父のティアドロップ(ジョン・ホークス)を訪ねるが行方は探すな、そのほうがお前のためだと取り付く島がない。地元オザーク高原の人々はみな山の民である。寒々とした荒地。狭いコミュニティをつくり、めったなことで心を開かない。仲間うちの事件や事故があってもオープンにすることはない。かばいあうかもみ消すか、反権力意識が強く閉鎖的なグループを形成している。その貧しさが麻薬精製に走らせ、リーの父親もクスリの精製者だった。父を探すとは、父が仕事をし、それに関係していた闇社会に踏み込むわけだ。叔父が「やめろ」というはずだ。でもリーにとってはこのままでは家も森もなくなる。家族は食べていけない。寒村には仕事もない。リーはてさぐりで「闇社会」に入っていく▼父親の仕事場は火事で丸焼けになっていた。父は几帳面な仕事で評判だったのに失火などだすはずがない。父の足跡を追えばおうほど謎は広がる。父は生きているのか死んでいるのか、殺されたのか、なぜみんな父に関して緘黙するのか。だれそれに聞いてみろというヒントを手がかりに、あちこち尋ね回るが、そのたび現れるのは男も女も異様な風体の、グロテスクな面々である。彼らはこれ以上追求するなと脅し、行ってはいけないところには絶対に行くなと足止めする。父親を連れ戻さねばならぬ期限は刻々と迫る、アンタらああだ、こうだと勝手な文句ばかりつけて、責任とってくれるのか、とリーは言いたい。それでとうとう「近づくな」と禁止された男を訪ねる。それがわかったとたんものすごいリンチにあう。会ってはいけない男とはどんなカリスマだと思ったらメタボの白ひげの、よれよれのオッサンである。いったいなんの秘密があるのだ。もういいかげん教えてくれよと言いたくなるころ、やっとリーに味方が現れた。だれあろう叔父のティアドロップだ。リンチで殺されかけているリーを救いにやってくる。血だらけになってぶっ倒れているリーのそばを、薄気味悪い男や女が取り巻いている。かれらに叔父が言う「リーは数少ないおれの家族だ。連れて帰る。これ以上この娘に手をだしたら黙っちゃいない」▼リーは軍隊に志願して採用されたら4万ドルの手当がでると聞いて募集支部へ面接にいくが17歳では両親の許可がいるため不可。弟をひきとると父の従兄弟はいうが家族離れ離れで暮らすつもりはない。行き詰まったときフラリとリンチした女たちが現れた。「親父さんの場所を教えてやる」父は死んで、いや殺されていたのだ。生きていれば出頭させる、死んでいれば死体を本人のものと証明しなければならない。17歳の少女が直面するには過酷な事実だが、事務的にとさえ思えるほど、感情を抑制してリーは目的を遂げる。組織犯罪ともいえる父親の死を受け止め、その場所でこれからも生きていく。そんなリーの人生を思えば未来は暗く重い。しかし始めから終わりまで貫かれているこの物語の力強さは、暗いとか重いとか、そんなヘのごのしたゴタクをこなごなに打ち砕いてしまう。この森と家と家族とこの土地で生きていくのだ。リーにとって他の選択肢など問答無用に等しい。ロマンスもなければ恋愛関係もこの映画にはない。リーというヒロインを描くためには、そんなものは邪魔だと監督はいいたそうだ。そのあまりにバッサリした裁ち方はかえって、この映画はひょっとしてアメリカ映画の新しいヒロインをつくったのかもしれないという気にさえさせる。