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シネマ365日

2013年3月27日

レ・ミゼラブル (2012年 ミュージカル映画)

監督 トム・フーバー
出演 ヒュー・ジャックマン/ラッセル・クロウ/アン・ハサウェイ/ヘレナ・ボナム=カーター/アマンダ・サイフリッド/サマンサ・バークス/ダニエル・ハルストーン

映画の底力

 物語は知り尽くされているし1985年のロンドンでの初演から28年間上演されてきたヒットミュージカルだ、評価は定まりほぼ埋め尽くされた内容をいかにみせるかに映画の総力をあげたといえる。出演した俳優たちがベテランにせよ若手にせよみな新境地を開いていることも、彼らが燃えていたことを示している。トム・フーバー監督は「英国王のスピーチ」でアカデミー監督賞を受賞した。そこからミュージカルへのチャレンジは冒険だったにちがいないが仕上がりは威風堂々としていてけれんみがない。ただセリフのほとんどが歌なので、歌詞を歌い終わるまでの時間というものがあり、一体いつ終わるのか不安になったのは事実だけど、まあ終わりよければすべてよし。ラストの「民衆の歌」の総出演は舞台のカーテンコールと同じ効果だろう▼歌は出演者みな必死で練習したにちがいない。口パクでなく現場で同時録音なんて前代未聞というか画期的というか、ごまかせない撮影だった。ヒュー・ジャックマンにせよラッセル・クロウにせよ、歌にまるっきり縁がない俳優ではないですよ、クロウなんか顔に似合わぬきれいな歌声でびっくりしました。若い時はバンドつくってボーカルかリードギターかやってたのだけど。なんでもやっておくものだわね。主人公ジャン・バルジャンをおいつめる執拗なジャベール警視が彼。ジャンが刑務所にいるときからいじめぬく。大きな重い丸太にしばりつけた旗を取って来いとか命じたりしてね。ジャンは一人でそれを持ち上げて引きずってくるのだけど、あまりの怪力にジャベールは口あんぐり。自分より強いとか賢いとか、何かが上というやつが憎らしくてたまらない性格のよくないやつっているでしょ。それよそれ。その悪役をパワフルに魅力的に演じた。彼が登場するとスクリーンが一挙に暗くいやらしい感じになるのだからたいしたものです。彼が劇中で自殺してから映画の後半は甘い恋愛映画になってしまって急につまらなくなった。だいいちジャベールが自殺するタマかよ▼アン・ハサウェイの成長と力演には目をみはった。よく頑張ったなーと正直思いました。いまならたとえ「プラダを着た悪魔」であろうと、メリル・ストリープを向こうにまわしてがっぷり四つになれるのでは。彼女はコレットという幼子を育てるため娼婦に身を沈め、美しい髪を切っては売り、真珠のような歯を抜いては売り(昔は本物の歯を義歯に使った)結核を病む。ジャン・バルジャンはハサウェイがもと自分の工場で働いていて、彼女が職場のいじわるな女たちに陥れられクビになったことを知らなかった。良心の呵責からジャンは遺児コレットをわが娘として育てる。工場の女たちのイケズさ加減や結核だろうと病気だろうとぼろぼろになってさえ、情け容赦なく女の体をさいなむ男たちだ。原作者のビクトル・ユーゴーという人は日本でいえば山本周五郎とか池波正太郎とか司馬遼太郎とかの、読み出したらやめられないストーリーテラーだ。胸くそ悪くなるサイテーの人間が生き生きと精彩を放つのだ▼そうなると絶対この役者を抜かしてはいけないというのがこの人。ごぞんじヘレナ・ボナム=カーターです。「英国王のスピーチ」で国王の妻を演じ、ひきこもりになった夫につきそい医者の診察を受けさせ「いったいご主人のお仕事はなんです」ときかれ「国王です」と答えた人。ティム・バートン監督と意気投合してからヘンなメークばっかりさせられていますが、実家は宰相も輩出したイギリスの名門です。トム監督はこのヘレナ=ボナム・カーターに、思い切り欲の皮の突っ張った淫売宿の女将をのびのび演じさせています。子役から成長したコレットに扮したのはアマンダ・サイフリッド。子供のコレットのときより目が大きくなりすぎているのとちがうかと思いましたが、いやもう最近ぐんぐん頭角を現してきましたね。主役・準主役が続きます。なかには「赤ずきん」みたいにけったいな映画もありましたが、この年代の仕事は質よりも量。屁理屈こねずたくさんの映画に出演し何でもどんどん吸収するのがいい。若手の好演をあげるのならこの人も是非。サマンサ・バークスです。相思相愛のコレットとマリウスのそばで叶わぬ思いをマリウスに抱いたまま政府軍の猛攻の前に命を落とす。彼女の歌唱力は舞台で実証済みです。それとこの子役も。革命軍のなかで意気消沈する青年たちを歌声で勇気づけ、銃弾を受けて倒れるガブローシュ坊や。彼の天使のような献身に政府軍を指揮するジャベールさえ自分の襟から戦士の勲章をはずし、坊やの小さな胸において名誉をたたえました。愛娘コレットとマリウスの結婚が決まってジャンは宝物を盗まれたようにがっくり。気力を失い修道院で息をひきとろうとしています。しっかりせいよ。いざ娘のこととなったら「96時間」のリーアム・ニースンみたいな暴走親父もおるのに、なんだそのヘタレようは。でも「レ・ミゼラブル」は猛烈パパの話ではないですからね。思想劇の一面と叙情ドラマの一面と恋愛劇の一面と憎むべくも哀れな人間悪の一面を、混声合唱でうたいあげる大フィナーレ。映画の底力をみせつけた2時間半でした。