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特集「どんでん返し」

2013年5月1日

特集「どんでん返し」 幻影師アイゼンハイム (2006年 サスペンス映画)

監督 ニール・バーカー
出演 エドワード・ノートン/ジェシカ・ビール/ポール・ジュアマッティ/ルーファス・シーウェル

魔術師一代 

 だれかに話したくてたまらなくなる、という映画がある。ジャンルにかかわらない。筋書きにもかかわらない。どの役者が出ているからとか、この俳優がひいきだからとか、それもあまり関係ない。好きな男女優にはだれしも点が甘くなるが、あえてそれも関係ないと言ってしまおう。なにを話したくてたまらなくなるのか。映画そのものなのだ。始めから終わりまですべてのシーンが浮かんでくる。頭のなかでフラッシュバックしながら思わず「ふふ」となる。その「ふふ」はコミカルなシーンとは限らない。悲劇的なシリアスなシーンでも「ふふ」となる。それは「ふふ。やってくれたわね」とか「ふふ。おい、気合入っているじゃん」とか、演技の隙にのぞく役者の吐息のようなものが伝わるときだ。「幻影師アイゼンハイム」は見終わったあと「ふふ」でいそがしかった。時代は「19世紀末・ウィーン」これだけで影なき主役という気がしないだろうか。ハプスブルグ帝国の黄昏のときである。ハプスブルグ家の家紋である双頭の鷲のもと600年に及んだヨーロッパの栄光の落日。栄光とは本来幻か。タイトルにある「イルージョニスト」の(イリュージョン)はどことなくこの物語の背骨を連想させる▼貴族と平民は口もきけなかった差別時代だ。家具屋の息子エドアルドと公爵令嬢ソフィは慕い合う仲を裂かれ失意のエドアルドは故郷を離れ、好きな魔術の神秘をきわめようと遠い東洋まで修行の旅にでる。15年後アイゼンハイム(エドワード・ノートン)と名乗る魔術師がウィーンに現れ観客の人気を奪う。ステージの上でみるみる成長する鉢植えのオレンジの木、観客の手元から消え宙を浮遊しながら二匹の蝶が運んでくるハンカチ。アイゼンハイムの名は日に日に高まり皇太子レオポルドが来賓するまでになる。ステージでアイゼンハイムは来賓に敬意を表しとっておきの魔術をやる。だれか舞台にあがってほしいという魔術師の要請にこたえたのは公爵令嬢ソフィ(ジェシカ・ビール)だった。二人は再会する▼さて主要登場人物のキャラだがアイゼンハイムのエドワード・ノートンは下手するとノペっとした平板な面立ちが今回効果的に働き、抑制の効いた物静かなマジシャンらしい容貌、動作、雰囲気、仕草までが堂に入っていた。彼はすごい練習で本当に舞台で実演したそうだ。スタントなしのアクションとか、吹き替えなしの歌って映画の業界では評価がはねあがるのよね。本作なんか1650万ドルの制作費で8789万ドルの興行収益だから、世評の受けのよさがわかろうというものです。共演のなかでも特筆したいのが悪役の皇太子レオポルド(ルーファス・シーウェル)。モデルはオーストリア皇太子で謎の情死をとげたルドルフだろう。アイゼンハイムの人気が気にいらず魔術なんか必ずタネがあると「趣味の悪いことはやめて」ととめるソフィの制止もきかばこそ、さんざん嫌がらせの言辞を弄するが、アイゼンハイムもまた「こいつとは敵同士だ」(皇太子とソフィは婚約している)から受けて立ち、舞台でさんざん皇太子に恥をかかせる。「なんという愚かなことを」柳眉を逆立てていさめるソフィに「愚かなのは君だ。皇太子は男のクズだ。婚約を破棄しろ。おれと遠くへ逃げよう」ンまあ▼「アイゼンハイムを潰せ」と皇太子の命を受けた警部ウールはたくさんのウィーン市民と同じくアイゼンハイムの魔術にはまり敬意をもっている。稀代の魔術師を皇太子の嫉妬などで獄につなぎたくない。アイゼンハイムとソフィは大胆にも密会を重ね逃避行を決めた。その夜皇太子を訪れたソフィは「あなたとの婚約は取り消します」と別れを告げるがそんなことでおさまる皇太子ではない。抜刀してソフィを厩舎においかけ衛兵が見てみぬふりをするうち悲鳴が聞こえた。騎乗のソフィが馬につっぷしながら走り去った。翌日城にもどった白馬の首は血がべったり。行方不明の公爵令嬢が探索され郊外の森を流れる小川の岸で死体となって発見された。皇太子の謀殺だと噂がとびかったがもちろん証拠はない▼アイゼンハイムは狂ったように魔術に打ち込む。この世でだれもみたことのない魔術をみせることに執念を燃やす。公開の日がきた。舞台には粗末な木の椅子だけがありアイゼンハイムが腰掛け目をとじる。それだけなのだ。やがてかれは右手をあげ空中でとめる。静止。息を詰める観衆はやがて声にならぬ声を発する。アイゼンハイムが指し示した空中にうすいもやのようなものがたちこめ、ゆらぎながら人の形をとり着ている衣服、顔立ちが具体的になってくると観衆は悲鳴をあげた。それはソフィだった。アイゼンハイムが霊界から呼び返した、観客にはそうとしか思えない。「殺されたのか」と観客のだれかが叫ぶ。ソフィがうなずく。「犯人はだれだ」「ここにいます」皇太子は狼狽するがソフィは苦しそうに顔をゆがめ消えた▼さあ皇太子は「理由なんかどうでもいいからアイゼンハイムをとらえて死刑にせよ」ウール警部はついに警官を動員して劇場を取り囲んだ。舞台ではアイゼンハイムが木の椅子にすわった。ウールが近づき逮捕を告げる。なぜだ、ばかなことをするな、と観衆が騒乱する。と、アイゼンハイムは警官の抜いたサーベルに近づき、透明人間のように通り抜けてしまった。いあわせた警官も観衆も仰天どころではない。腰を抜かしかけているとす~と刃をすり抜けたアイゼンハイムはそのまま幻のようにかき消えてしまったのだ。これこそ彼が極めた最大の魔術だった。ソフィと引き裂かれた日、追手の前で「わたしを消して」とソフィにいわれてもできなかったときから彼がおい続けた魔術だった▼ここからがクライマックスです。ウール警部は皇太子に仕える自分に嫌気がさして警察を辞めた。ある日町を歩いていたら少年がこれをたのまれたとウールに封筒を手渡した。なかには「オレンジの木」の種明かしが書いてあった。いそいであたりをみわたすと長身の細い男が街角を曲がろうとしている。アイゼンハイムだ。必死で追うウール。しかしどこか変だ、なんでこんなときに彼はわざわざ姿を現したのだ、こんなとき…彼はアイゼンハイムを追っていつのまにか駅にきていた。アイゼンハイムを尾行していたとき彼が召使にいう片言を聞いた駅だった。そのときこう言ったのだ「彼女をさきに行かせ、ぼくはあとで行くから待っていてくれ」どこへ? 彼女はさきにいって待っているのだって。行ったのはどこだ、冥界か。まさか…アイゼンハイムの本当の魔術のからくりが白日のもとに姿を現す。そのみごとさに圧倒され腹の底から大笑するウールの笑顔が爽快なラストです。