女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「どんでん返し」

2013年5月2日

特集「どんでん返し」 ゴーストライター (2010年 サスペンス映画)

監督 ロマン・ポランスキー
出演 ユアン・マクレガー/ピアース・ブロスナン/オリヴィア・ウィリアムズ/キム・キャトラル

ポランスキーの人生哲学 

 ポランスキーってこんな映画もつくるのだ、と何回思わせられただろう。「水の中のナイフ」に始まりざっとあげても「反撥」「ローズマリーの赤ちゃん」「チャイナタウン」「テス」「赤い航路」「死と処女」「戦場のピアニスト」それに本作のあと「 おとなのけんか 」サスペンスありシリアスあり怪奇あり恋愛あり戦争ありというレパートリーの広さ。いったい本当の得意技はなんなのだ。そんなものない、全部だって答えるのだろう、たぶん。みごもっていた妻(シャロン・テート)が惨殺された悲劇や、少女淫行容疑で有罪判決を受けたことや、アメリカを出国してフランスで市民権を獲得したこと、「テス」に出演したナスターシャ・キンスキーとは彼女が15歳のときから関係があったといわれたり、一言で言えば公私ともに「多彩」。オスカーはご存知「戦場のピアニスト」で監督賞を受賞した(アカデミーはこういうの、つまりユダヤ人虐殺に関するとか、天才ピアニストだとか芸術だとかに弱いからね。これがオスカーとるのならもっといい映画がポランスキーにはあったと思うが)▼多彩な作風を展開するポランスキーの創作の信条を一言でいえばなんだろう。人生は思うようにいかない。これだと思うのよ。思うようにいかないのが人生だ。彼の映画の主人公はなにかに翻弄される男や女ばかりだ。人生の落とし穴にはまり失望し、あるいは裏切ったり裏切られたり、思うようにいかせてくれない原因をつくるのは人間の場合もあり、時代や国や体制の場合もあり、むろん戦争もあり、この世のものではない悪魔や狂気のこともある。でもあらゆる結果彼の主人公たちは「思うようにいかない人生」のただなかでもみくちゃにされるのだ。ありふれているかもしれないが、人間の暮らしにはもうちょっとやさしい部分もあるだろうと思うけど、なにが悲しゅうてそんなこと「映画にできるか、アホ」という感じですね。ポランスキー(79)と年齢の近い監督では82歳のクリント・イーストウッドがいます。彼の好きな感覚は「曖昧さ」。二項対立で分類解析しようとするバカ単純さにあきあきした古強者監督の人生観・人間観はよく似ていますね。これくらいの年になると自然とそうなるのかもね、いいや、ポランスキーは若い時からそうだった▼「ゴースト・ライター」もむろん「人生思うようにいかなかった」人ばかりが登場します。ファーストシーンからしてむちゃくちゃ陰気です。暗い海から死者の使いのようなフェリーが近づいてくる。車はそれぞれドライバーによって船から去っていくのに、ぽつんと残った車が一台。ドライバーは? 場面は変わってこれまた灰色の海に白い三角波、岸辺に打ち上げられた黒っぽいものは死体です。目を閉じていてもツボをはずさない名人芸のような導入ですね▼でも正直いうと、ポランスキーの映画の文体である「淡々とした平坦な叙事」が裏目にでて事件そのもののメリハリが弱くなった。この映画はいろんな政治関係が裏にあるけれど本質は殺人であり謀略であり裏切りという事件なのだ。事件には事件の扱いがある。それがドキュメントでもなくニュース報道でもなくロマンティックでもない犯罪映画の文法だろう▼元イギリス首相アダム(ピアース・ブロスナン)のゴーストライターに雇われた男(ユアン・マクレガー)は指定された場所、アメリカの東海岸沖合にある孤島へ行く。締め切りは一ヶ月後というハードな日程だが報酬は25万ドル。破格の提示だ。ゴースト(劇中もこう呼ばれる)は前任者がフェリーから酔っ払って墜落、溺死したことを聞く。厳重なセキュリティで保護されたアダムの邸宅には妻ルース(オリヴィア・ウィリアムズ)、秘書アメリア(キム・キャトラル)がいた。ゴーストは前任者が残した原稿を読み、カットしたり補填したり改稿を施す。そこへアダムが首相時代イスラム過激派のテロ容疑者に対する不当な拷問に加担した疑いがあるというニュースが伝わる。アダムの過去を調べるうちゴーストは彼の結婚に前後して履歴が偽られていることを知る。なにゆえに。だんだん「思うようにいくはずのなかった」歪められた首相の過去が明らかになっていくが真相が究明されないままアダムは暗殺される。ゴーストがかきあげたアダムの自叙伝は死後発行された。発行パーティーにアメリアと出席したゴーストはアメリアが何気なくいった一言に閃光が走った。真相も首謀者もはっきり書き残されていたのだ▼アメリアのキム・キャトラルは「セックス・アンド・ザ・シティ」で主役を演じた彼女。みちがえるようなシリアスな役どころですが、しっかりいいところをもっていきました。ちょっと物足りないと感じるのはハリウッドアクションに毒されたせいか。とはいえ、やっぱりポランスキーの詰め方は緊密です。