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特集「どんでん返し」

2013年5月4日

特集「どんでん返し」 ミッション:8ミニッツ (2011年 サスペンス映画)

監督 ダンカン・ジョーンズ
出演 ジェイク・ギレンホール/ミシェル・モナハン

ヒューマンな視点 

 パラレルワールドという概念はいつごろから創作に登場しはじめたのだろう。アイザック・アシモフのSFに「地球は空き地がいっぱい」(1956)というのがあって、パラレルワールドとの自由な往来が可能になった未来では、人々は生命が誕生しなかったもう一つの世界の地球を自宅として所有するようになる…「パラレルワールド」とは文字通り「並行世界」だ。いまわたしたちがいるこの現実から分岐してもうひとつの世界が並行してある。最近の映画では「 ラビット・ホール 」で、心に傷をおったニコール・キッドマンと青年を蘇生させる大事な「脇役」に用いていた。そこでヒロインは言う「もうひとつの世界でわたしたちが穏やかに平和にくらしていることがわかれば、心が安まるわね」▼「ミッション:8ミニッツ」でダンカン監督は宙返りの連続をみせてくれる。主人公の脳が入り込んだ別の男の脳の情報をさぐり、テロ事件を未然に防ぐというのだ。主人公コルター大尉(ジェイク・ギレンホール)は最初わけがわからないまま、列車テロで死んだ男の脳と、自分の脳を科学者であり彼の上官であるラトリッジ博士の指示に従って往復する。そのうち「なんでおれはこんなことをしているのだ」と疑問を持つ。博士は最初「任務だ。君に与えられたミッションだ。テロを未然に防ぐため、どうしてもこの男の脳に潜入するのだ」と命令され軍人としての責務をまっとうしようとする。観客もこのあたりではまだ詳しい展開は知らされていない。主人公は「インセプション」みたいな仕事をするらしい、そんな程度だ。しかし徐々にコルター大尉がかわいそうになる。博士にとってはしょせん他人のアタマだ、脳神経も脳細胞もどんなにこきつかおうと知ったことではない、それに素朴な疑問としてビビビ・バリバリと強烈な電流が主人公が脳を行ったり来たりするたびスクリーンで炸裂する。こんな猛烈な目にあわせて「死んじゃうのじゃないのか」って思ってしまうのだ。そんな素人の感覚って案外まともなのだとあとでわかる▼ネタバレしたところでダンカン監督の入念な構成は、ちょっとやそっとでわかりませんから簡単に教えてあげよう。コルター大尉は既に死んでいる。アフガンで戦死した彼は本国に送還され、脳の一部が生きていることから「ソースコード」という博士が開発した極秘実験に使われたのだ。大尉の死体が映像になったシーンはじつにむごい。胸から下がないのだ。分断された腹から薄紫の腸がふとぶととのぞいている。顔は正面からはそのまま残っているが後頭部は破損し脳か筋肉の一部が、練り歯磨きのように搾り出されたまま凍結している。自分が死んでいることを知った大尉は、実験の女性担当者ヴェラに、自分は最後にもう一度侵入し犯人を特定しつぎのテロを防ぐ、そうしたら生命維持装置を切ってくれと頼む。ヴェラは博士が「大尉の脳をつかってまだまだ実験に使える」という口調に非人間性しか感じられない。もう死なせてあげたらどうですかという進言に博士は耳をかさない。人間の死と生命に尊厳など認めず道具として使いまくるのだ▼列車のなかで大尉は「あと8分でここにいるみんなは死ぬ」と思う。親父やおばちゃんや、いろんな職業の男女が乗りあわせた。みな生きて幸福になる権利を持っていながらそれを奪われるのだ。大尉は死んだ父親と仲たがいしたままだったことを思い出す。父に謝りたかった。取り返しのつかないこの一分一秒をどうしてもっと大事にしなかったのだろう。大尉は朗らかにみんなにいう「おい、賭けをしよう。このお笑い芸人がもしみんなを笑わせることができたら、おれは有り金全部はきだす」「のった、のった」芸人はたちまち腕によりをかけてジョークをとばす。列車のなかに笑いがはじけた。笑顔と笑い声の聞こえるこの明るさ。やさしさにあふれた人生。これを失うのだ。救う道はないのか。大尉は列車テロ犯人の名前をメールでヴェラに送る。8分間のミッションは完遂したのだ。列車は刻々現実とパラレルワールドの境界に近づく▼見終わると、監督のヒューマンな視点というのが伝わってきて感じいいですよ。ジェイク・ギレンホールは「ブロークバック・マウンテン」で悲劇の青年を好演しアカデミー助演男優賞にノミネートされました。ダンカン監督は(どうでもいいことかもしれませんが)デヴィッド・ボウイの息子です。