女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「どんでん返し」

2013年5月6日

特集「どんでん返し」 オールド・ボーイ (2003年 サスペンス映画)

監督 パク・チャヌク
出演 チェ・ミンシク/カン・ヘジョン/ユ・ジテ

たとえようもない怪力 

 この映画がカンヌ国際映画祭の審査員特別グランプリだろうと、どこの国の映画賞だろうと、そんなことがいっさいかすんでしまうほどの怪力を持っている。主人公オ・デス(チェ・ミンシク)が自分の舌をつかみハサミで切ろうとする。ジョリジョリという擬音が入って、もう一人の主人公イ・ウジン(ユ・ジテ)が口に布切れを突っ込む。普通の神経ではまともにみておれないようなシーンがスクリーンにフツーに現れる。趣味が悪いとかセンスがどうこうとかいうより、なにか強烈なものが四の五の言わせないのだ。ソウル市内を歩いているとき、通りをびっしり埋める看板やひしめく店舗に、汗がにじんでくるようなエネルギーを感じたが、この映画を支配しているのは、そんな地から湧くような怪力なのだ▼映画はしょっぱなからパンチが飛んでくる。饒舌な中年男オ・デスは娘の誕生日のプレゼントを買った帰り、町でケンカし警察に収監される。おしゃべりをやめずさんざん騒いで一晩ブタ箱に入れられ友人が迎えにきた。これから連れて帰ると友人が公衆電話で家に連絡し、ふりむくとオ・デスがいない。人騒がせはいい加減にしろ、早くでてくるのだと友人は雨のしのつく中を人通りをよけながら声をかけてまわる。導入部のシーンを雨にしたところが、これからの暗い陰湿な展開の序曲として秀逸だ。オ・デスはこの日を境に監禁され15年、なにも理由を教えられないまま閉じ込められる。食事は三度三度、部屋は掃除もしてくれる。しかしいっさい会話はない。オ・デスは自殺も試みるがことごとく失敗する。手の甲に一年に一本刺青のような線を入れていく。オ・デスは生気の失せた顔で黙々と壁に穴を掘り、ある夜脱出に成功する▼しかしその脱出はウジンの仕組んだ復讐の第一幕だった。「オールド・ボーイ」とはオ・デスとウジンが同じ高校の卒業生だからだ。だから話の源流は彼らの学生時代に遡る。だんだん映画は復讐と監禁の相関性を解きほぐしていく。ウジンは美しい姉を愛していた。相思相愛だった。ある日の放課後ウジンと姉が姉弟の境界を超える行為をオ・デスは目撃する。おしゃべりのオ・デスが流した「姉弟に男女の関係があった」という噂によって姉は自殺した。脱出したオ・デスは自分が監禁された理由を5日以内に解明するために奔走する。タコを生で食べたり、長い禁欲のあげく女に挑みかかるグロテスクなシーンに辟易する。美しい娘ミド(カン・ヘジュン)がオ・デスを愛し謎解きに力を尽くす。彼女とオ・デスは当然の成り行きとして深い関係になるのだが、後ろであやつるウジンのノッペリした容貌が魔的ですね▼冒頭に「怪力」と書きましたが言い換えると全体にかなり強引なところが目立ちます。本作をカンヌで絶賛したのは当時審査委員長を務めたクウェンティン・タランティーノですがさすがのタランティーノも青ざめる強引さではないでしょうか。たとえば催眠術によりオ・デスと娘ミドが恋に落ちるとか(いったいこの催眠術いつまで効いているの)ウジンがその若さにもかかわらず巨万の富を動かす事業家になっていたとか(ビジネスの内容はさっぱり触れられておりません)オ・デスは監禁中に食べていた餃子の味を手がかりに謎に迫るのですが、15年間の監禁という社会の隔絶感が餃子で解明されていくという、これってちょっとユーモラスというか。それにウジンは心臓にペースメーカーを埋め込んでいるわりにはエネルギッシュで顔色がいいとか、映画はいくつもの「?」を振り切り独走体制でラストに突っ走ります▼どんでん返しのヒントは「お前の間違いは、なぜ監禁されたかではなく、なぜ釈放されたかを考えないことだ」。このセリフよかったですね。全体につねに汚らしい格好で暴れまわるオ・デスより貴公子然としたウジンがトクをした感じ。理由はともかく彼は壮絶な悲劇的な死を遂げます。彼の絶望の深さを思え、と映画はいいたいでしょうが、常識に満ちた観客のホンネとしては「あわてて死なんでもええやろ。心臓が悪かったらそのうち寿命がくるやろし」ではなかったでしょうか。