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特集「どんでん返し」

2013年5月7日

特集「どんでん返し」 マッチスティック・メン (2003年 犯罪映画)

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監督 リドリー・スコット
出演 ニコラス・ケイジ/サム・ロックウェル/アリソン・ローマン

あっぱれな「詐欺」 

 リドリー・スコットさま。あなたは地球上に普通に生息している、普通の姿形をした人類の、普通の映画もお撮りになるのですね。しかもきわめて上質に、つまり本作のように…かくのごときファンレターを啓上したくなるどんでん返しだ。「マッチスティック・メン」とは詐欺師。主要人物は詐欺師のロイ(ニコラス・ケイジ)、その仲間フランク(サム・ロックウェル)、ロイの娘アンジェラ(アリソン・ローマン)。たった三人で一体どんな「だまし」ができるのか。エリック・ガルシアの原作もいい、グリフィン兄弟の脚本もいい、でもやっぱりこれはリドリー・スコットとニコラス・ケイジのあっぱれな詐欺にも似た手口だろう▼ロイは顔面にやたらチックが走る強迫性障害を患う詐欺師。病的な潔癖症に陥り一日中家の中をみがいている。プールつきの豪邸であるがロイは髪の毛一本落ちていても神経にさわる。ドアをあけるときは「1・2・3」と掛け声をかける。それも英語・日本語・フランス語など数カ国語でだ。あきらかに社会生活に支障がある。仲間のフランクが「そこまでいくと病気だぜ。いい医者にみてもらえ」と紹介してくれたのがドクター・クレイン。診断によれば10年以上前に妻と離婚したことに原因があるという。妻が妊娠中にもかかわらずロイは置き去り同様別れてしまった。それが心の傷になっているというのだ。息子か娘が生まれていれば14歳になる。スクールバスをみかけると「おれの子が乗っているかも」と思うロイだった。医師が調べるとロイの子はアンジェラという娘だった。思い切って会えばどうかと医師はすすめ、ロイはしぶしぶというか、こわごわというか、会うことにした▼娘役アリソン・ローマンはニコラス・ケイジの娘役という大抜擢だった。22歳で14歳の娘役だ。えらい年齢差だったが堂々と演じた。拍手ものである。最初は打ち解けなかった父と娘だった。娘はなんでママと別れたのとか、パパの仕事はなにとかロイが触れられたくないことばかり尋ねる。適当にかわしながらもロイの生活に変化が訪れる。朝食はしっかり食え、とロイは卵焼きを作ってやるのにアンジェラはジャンクフードしか食べない。晩飯になにが食いたいのだと聞くとピザだという。出前のピザを平らげる娘をみながらロイの気持ちはときほぐれていく。学校にアンジェラを迎えにいくのが楽しみになった。むこうから笑顔で走ってくる娘にロイはメロメロである。いい結果になったことで医師も安心した。ある日父親の留守中、アンジェラが掃除していたら、大きなワンちゃんの置物(中ががらんどう)の中にどっさり札束と拳銃があるのを見つける。どういうことかと問つめられとうとう父親は本業を白状する。すると娘は自分もパパを助けるというのだ▼仕方なくロイは詐欺師の基本を教え、実践として600ドルをコインランドリーにきていた主婦から巻き上げるのに成功する。喜ぶアンジェラに「金は返してこい。詐欺は教えるといったが盗みを教えるといった覚えはない」パパは硬派なのだ。体調も万全に精神状態も安定した。娘が成長したら詐欺師ではまずい。足を洗うときめたロイは最後のヤマに、以前フランクがもちかけてきた大富豪をペテンにかける大仕事をやると決めた▼映画を選ぶとき、この俳優が出演しているならまずまちがいあるまいと思う役者がいる。彼や彼女が出るだけで一枚看板が張れるやつ。ニコラス・ケイジとはそんな役者の一人だろう。冴えない男・ダメ男・女の被害者にすぐなってしまう男・ヒモになる男・いやだいやだといいながら事件にまきこまれる男。トム・クルーズが愛を叫ぶなら、ニコラス・ケイジは顔をそらせてつぶやくのが告白の仕方だ。ロイが最後の大勝負に乗り出すところからリドリー・スコットはアクセルを踏み込む。叙事的であった映画に、どこからか「エイリアン」の作風が放つ刺激的な、ミステリアスな気配がたちこめてくる。なにかが姿を現すはずだ、なにかがたくらまれているはずだという共謀関係に観客はひきずりこまれていく。細かい詐欺の実務のディテールが、スクリーンというマナ板のうえで、絶妙の包丁さばきで開かれていく。かくまでうまく作られた映画はネタバレさせないのが礼儀というものだろう。ラストのニコラス・ケイジの含羞は、人生をけみした大人ならすべからく担う、生きるほろ苦さとやさしさをかみしめて味があります。

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