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シネマ365日

2013年5月14日

ルーヴルの怪人 (2001年 ホラー映画)

監督 ジャン=ポール・サロメ
出演 ソフィ・マルソー/フレデリック・ディーファンタル/ミシェル・セロー/ジュリー・クリスティ

ホラーなのか、これ?

 うーん。どこをほめればいいのだろ。くだらんと斬って棄てるには「そこまでせんでもええか」という気がするし、といってどこがいいのか言ってみろ、と突っ込まれたら「…」答えるのにちょっと時間がかかる。しかし映画ファンのはしくれとしてはここで投げ出したくない、本作の美点としてつぎの見解をあげることにしました。まずこれはフランス映画のホラーである「アホか、それがどうした」といわれるのはわかっていますが、主演がソフィ・マルソーですね。彼女演じるリザにミイラが乗り移るのですが、なんで彼女が選ばれたのかわれわれ日本人にはちょっとわかりにくいところがある。それはさておき老刑事ヴェルラックに扮するのがミシェル・セロー。久しぶりにお目にかかり「アラン・ドロン/私刑警察」がみたくなりました。それから若手男優ではフレデリック・ディーファンタルが。イギリスからくる考古学者スペンサー博士にジュリー・クリスティ。フランス人とイギリス人で固めたヨーロッパ映画で舞台はルーヴル。フランスが誇る芸術の殿堂です。そのせいかどうか本作は2001年フランス映画ヒットナンバー1になりました(信じられないけど)。察するに「ハリウッドが逆立ちしてもかなわないフランスの至宝ルーヴルを前面に、文化と歴史の内容の深さを基盤に、フランスのセンスで作ったホラー」ということが国民の感激と関心を盛り上げたのではないでしょうか。だからみるべき点の第一は徹頭徹尾フランスの制作であること、ハリウッドの上を下へ大騒動するお化け屋敷的ホラーではないということです▼つぎ。フランス好きの方には興味のある見所がいくつかでてくる。なんといっても本物のルーヴル館蔵品が惜しげもなく撮影されている。たとえば「モナリザ」「ニケのヴィーナス」「ミロのヴィーナス」これら名品をどうしても紹介しなければならない脈絡は全然ありませんから、やっぱり「見せたい」のですよ、フランス人としては。「ほら、どうだ、お前らの国にこんな立派なものがあるか」っていう感じで。こういう必然性のない映画によく撮影を許可したよね、政府は。ルーヴルの館外には芸術橋がある。鉄骨と木で作られた、変わっているが風情のある橋だ。マルソーが自転車を乗り捨て、フレデリックを置いていくシーンに登場する観光名所のひとつだ。ミイラ研究の考古学者が埋葬されているのがペール・ラシェーズ墓地。ここにショパン、エディット・ピアフ、イサドラ・ダンカン、バルザック、イブ・モンタン、シモーヌ・シニョレ、マリア・カラス、モディリアニ、モリエール、マルセル・プルーストらの墓がある。ルーヴルが昼間の殿堂ならここは冥界の殿堂だ。墓守の女性になんとジュリエット・グレコがカメオ出演しています▼三つ目としてミイラの名前がベルフェゴール。ひょっとして「ルーヴルの怪人」大ヒットの理由はベルフェゴールという都市伝説に由来するのではないか。それくらいフランスでは人気のある存在です。ベルフェゴールはキリスト教のなかの悪魔のひとりで女嫌い。人間界の結婚生活を覗き見て女に不道徳な心を芽生えさせる。だから本作でソフィとフレデリックのベッドシーンに早速現れ、上から下からうろうろ見てまわったあげくソフィに取り憑きます。ソフィは人が変わってしまい、異様な怪力を備え大の男をブンブン投げ飛ばしちゃうのです。このベルフェゴールがルーヴルに夜な夜な現れ館内を歩きまわるという怪人伝説が巷間伝わっておりフランス人ならだれでも知っている。だから本作は日本でいうと「番町皿屋敷」とか「鍋島藩化け猫物語」みたいに由緒と歴史あるホラーなのです▼かくのごとき背景をもって映画は展開するのですが、この怪人、はじめから終わりまで勝手知った我が家のごとく、美術館のなかをスーッとすべるように歩き、老刑事はこいつのおかげで一生棒にふったといいながらすっかり昔なじみ。つぎに彼奴が現れるのは何日の何時ごろだと、まるでひいき役者の出番を読むみたいな一方で、待ち時間にジュリー・クリスティを口説き、メガネをはずしたら君はもっと美人だとかどうとかいいながらベッドイン寸前のところ「怪人が現れた」電話で中断。これもセックスを邪魔するのが趣味のベルフェゴールのいたずらか。ホラーどころかコミックではないか。バカらしい味付けにもホドがあるといいたくなるものの、クリスティがイヤミなく三枚目をこなしている。だからだよね、しまいにソフィがどんなピンチに陥ろうと警官が踏み込もうと、ミイラの頭がぶっこわされようと、殺人光線と金色のゴーストが宙を舞おうと、完全予定調和の世界が遠からずやってくることが観客にはまるわかりで気抜けする。いいと思っているのかよ、こんなホラーで。いいのでしょ大ヒットしたのだから。