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シネマ365日

2013年5月21日

イブの三つの顔 (1957年 事実に基づいた映画)

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監督 ナナリー・ジョンソン
出演 ジョアン・ウッドワード/リー・J・コップ/デヴィッド・ウェイン

自己救済の顔 

 多重人格っていつごろから知られていたのだろう。スティーブンソンが「ジキル博士とハイド氏」を書いたのは1886年だから、そのときは少なくとも二重人格は認知されていたのでしょうね。本作は「三つの顔」つまり三重人格なのです。映画の冒頭これは本当にあった話だとことわりがはいります。これしゃべっているのだれ? お医者さん? 監督でもなさそうだし。正体のわからんこの男性が「多重人格を学会で初めて発表した精神医のノンフィクションが原作で、ほとんどつけたすことはなかった」という語りで映画に入っていくのですけど。イブ・ホワイト(ジョアン・ウッドワード)は内気な主婦。ある日旦那のラルフ(デヴィッド・ウェイン)に連れられてルーサー医師(リー・J・コップ)の診察を受けにくる。頭痛がして一時的に記憶が飛ぶというのだ。おかしいと思った発端は法外な値段の服と靴が配達されたときだった。夫はイブに「なんてことする」と詰問するがイブは夫が買ったものだと思っていた、で伝票には妻のサインがある、イブはまるで覚えていない。キツネにつままれたような出来事だった。医師は様子をみることにしたが、一年後状況は悪化していた。イブが娘の首をしめているところを夫が発見しあわててやめさせたのだ。そのときのイブの態度物腰はまるで別人だった▼ふてぶてしい別人のイブは、イブ・ブラックと名乗り不意に顔をだす。医師の目の前で俯いていた顔をあげるとそこには内気な主婦ではなく、男を手玉に取るアバズレ女が現れているのだ。ブラックはでもこれでなかなかおもしろい女なのだ。腹をたてたら小さな女の子(娘という認識がない)の首を締めるという過激な行動は問題だが、医師にむかって「離婚したいのかって? ヘッ。あたりまえでしょ。あんなアホ」とドアの向こうを指でさす。そこでは夫が診察の終了を待っている。夫は絵に描いたような男性主権のかたまりで、妻は所有物であり従属するものと信じているから多重人格など信じない。都合のいいウソをつき自分をだまそうとしている、けしからん女だと張り飛ばすような男だ。ホワイトは文句ひとついわず「夫を愛しています。彼の愛に応えられなくて申し訳ないと思います」なんていうがブラックはズバズバ「なんであんなウスノロのいうことをきかなくちゃいけないのよ」と本音を吐き出しナイトクラブにいくわ、買い物はするわ、遊びまくって家に帰らず、連れ戻しにきた夫までそそのかすと、夫は今まで見たこともなかった妻の媚態に興奮するのだから仕方がない。酒場でブラックにふりまわされ「お前に8ドルもおごったのだ、ただでは返さん」とすごむセコイ男はだれあろう、のちテレビの「ベン・ケーシー」でブレイクするヴィンセント・エドワーズが扮しています▼ブラックとホワイトのつぎにジェーンという理性的な女性が現れ三人の女が交代交代にひとつの体をのっとる。旦那はとうとうサジを投げ離婚。ブラックは6歳のころから現れ始めたらしいがそのときになにがあったのか、キーとなる事件が最後までわからない。催眠をかけてもホワイトは異常な拒否反応を示すのだ。「わたしが現れてやらないとおさまらなかったのよ」というブラックの言葉をヒントに医師は根気よく過去にさかのぼる。で、とうとう真相が母親の高圧的な圧力にあったことをつきとめる。ブラックは母親におしつぶされないためにイブがつくりだしたもうひとりの自分だった。強くて人に従属しないブラックが出現し、イブ・ホワイトの弱さをカバーしていたが、ブラックはどうも理性的なジェーンが苦手らしく「ジェーンがでてきたならわたしはもうお役御免ね」とばかり「さよなら」と医師に告げるのだ▼医師の追及によって、心の奥に埋め込んでいた少女時代の傷、いやでいやでたまらなかったことを吐き出したイブはそれによって解放される。内気というより以上に従属的だったイブ・ホワイトは心の中から消え、ブラックは去り、落ち着いた聡明なジェーンだけが残った。彼女は多重人格というありのままを受け入れてつきあってくれた男性と結婚し、もう娘を絞め殺す心配もなく平和な家庭と営んだというエンドだ。でも事実は異なり、結婚後もやはりブラックやホワイトはときどき現れて20年くらいは治療が必要だったそうだ。考えてみるとイブ・ブラックって女の潜在願望にあるひとつの像かもしれないね。いまのままじゃじぶんはだめになる、めにみえない圧迫の原因を取り除かなくちゃ、という切迫感が自分の対極に位置する女をこしらえたわけでしょ。じゃブラックがホワイトをつくることもあるのか? まずないですね。ブラックみたいな強いやつ、自己救済する必要がないもの。

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