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シネマ365日

2013年5月25日

沈黙の官能 (1976年 恋愛映画)

監督 マウロ・ボロニーニ
出演 ドミニク・サンダ/アンソニー・クイン

早すぎた女 

 鬼嫁とか魔性の嫁とかいってしまえばそれまでの映画を、ドミニク・サンダだからこういう素晴らしい映画になった、という感想がおおむねであろうと思います。マアそうなのですけどね(なんだか自分でも歯切れが悪いな)「フェルラモンティの遺産」という味も素っ気もない原題を「沈黙の官能」という意味ありげな、それでいてまったく意味不明のタイトルにした神経がわからないものの、内容はマウロ・ポロニー監督得意の官能ものです。彼はカトリーヌ・ドヌーブで「哀しみの伯爵夫人」、ルキノ・ヴィスコンティが見たこともないくせに「ヴィーナスの体をしている」と絶賛したラウラ・アントネッリで「薔薇の貴婦人」を撮っています。ヒロインのイレーネ(ドミニク・サンダ)は19世紀初頭だから仕方なかったとはいえ、現代なら堂々と事業を起こしビジネスウーマンとして一時代を築いたでしょうね。そんな才能のある女が金物屋の店番して、全然ビジネスセンスのない亭主に知恵をつけるだけの毎日なんて、そら嫌気もさすわ。思いません?▼だいたい官能、官能というがほとんどが男性目線でいう官能であって、興奮しているのは男性だけの場合が多い。監督がそのあたりの女の実感を手抜かりなくとらえていることが映画の質を緊密にしている。ドミニク・サンダという女優のキャラを満開にさせ、ありふれたストーリーをひとつも退屈させない映画にしている。イレーネはそのへんでお目にかからない絶滅危惧種に近い美貌だ。なんでこんないい女がうだつのあがらない弟の嫁になっているのかと、首をひねっているのが義兄である。兄貴と弟嫁はたちまち関係をもつのだが、終始イレーヌは冷静で男が夢中になろうとなるまいと、彼女の事業目的を着々と進めていく。莫大なフェルラモンティ家の財産は全部いただく。しかしイレーネは金の欲だけでつぎつぎ男を弄んだのか。そうじゃないでしょ。少なくとも食べるに困らない収入は、ものたりないとはいえ金物屋の亭主の働きによってあったのだ。要は彼女はなにもしないで店番して年をとっていくことが面白くなかったのだ。あの人に頼めば仕入れコストは安くなる、この人とコネをつければ仕事を受注できる、夫にそんなアドバイスするときは生き生きしている。夫の兄貴は少しは気がきいている。しかしいちばん手強いのは舅(アンソニー・クイン)である。彼女にとってもっとも手応えのある仕事というのが「いかにしてこの舅の財産がっぽり」だったのだろう▼この役がもしマリリン・モンローだったら、策略には可愛らしすぎて正直すぎて、舅は途中で笑い出す(「ナイアガラ」でも旦那には結局ばれてしまった)。エリザベス・テイラーだったら威厳と貫禄がありすぎてそれこそクレオパトラである。オードリー・ヘプバーンだったら「富は分け与え、人類は助け合うものです」とNPOを設立しそうだ。カトリーヌ・ドヌーブは堅実に貯金し暗証番号を絶対に教えない。ジョディ・フォスターなら大学の基金、シャーリーズ・セロンはアフリカの環境保全と人権運動に、BBは野生動物保護のため全財産を蕩尽し、ニコル・キッドマンとアンジーは養子の数を5倍にし、サンドラ・ブロックならどうか。親しみやすい「隣のお姉さん」はミステリアスな本作戦には不向きだ。メリル・ストリープなら演劇学校を開校して理事長に就任、ノーベル賞ならぬアカデミー賞獲得俳優数ナンバー1校をめざし、ヘレナ・ボナム=カーターは…まさか地面を掘り起こし「不思議の国」発掘はやらないでしょうね。ということでどう考えてもこの役はドミニク・サンダ以外考えられないのである▼印象的なシーンがあります。夫の兄がイレーネと別れるところだ「君を愛したのが間違いだった」(イレーネ=なにをいまさら、という顔)「ぼくは君のそのままを愛した」(悪女だったけどそのままを愛したということですね)「だがおれの気持ちもわからず、金の価値も知らず、君はだんだん醜い女になっていく」(イレーネ=醜いといわれ顔がピクッとするがすぐ平静をとりもどす)「君にいちばんふさわしいものをやろう」窓を向いたイレーネの背後で銃声がとどろく。悲鳴とともにイレーネがふりむくと、彼は女ではなく自分を撃って自殺したのです。なんじゃこれは。舅の遺言通り全財産はイレーネのものになったがこれは嫁の殺人同様であると訴訟を起こした義妹とその旦那は裁判で勝訴、イレーネの財産分与は認められず裸一貫で放り出される。不義密通しかも財産のない女をみる、同じ町の女たちの目は冷たい。イレーネの独白はこうだ「ピッポ(夫)は精神病院で死んだ。裁判はパオロとテータ(義妹夫婦)を相続人とした。こんなくだらない人たちを」早すぎた女・イレーネを演じたドミニク・サンダのワンマンショーでした。カンヌ国際映画祭女優賞受賞。