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シネマ365日

2013年5月28日

この愛のために撃て (2010年 アクション映画)

監督 フレッド・カヴァイエ
出演 ジル・ルルーシュ/ロシュディ・ゼム/エレナ・アナヤ/ジェラール・ランバン

復讐の旋律 

 嫁さんのためにクソ力を発揮するフツーの男って、カヴァイエ監督のメーン・テーマなのでしょうか。大ヒット「すべて彼女のために」から3年、カヴァイエ監督は二匹目のどじょうをさげて戻ってきました。フレンチ・アクションの伝統を「走り」は変えてしまうのでしょうか。そう思いたくなるほど「走るフランス映画」が面白くなっています。フレデリック・シェンデルフィールの「スウィッチ」ではヒロインが走りまくりました。ジャン=クリスチャン・タッシーの「 オートマティック 」では銃とアクションというハリウッドのお株をちゃっかりいただいてしまった。本作では「たよりなさげ」「しろうと」「特技のなさ」「殴られっぱなし」という主人公がどんな窮地も走りまくることによって目的を達するのだ。わずか85分の短い尺で、見終わったあと映画にひきずりまわされた満足感があるのは、でも立派だ▼出演者はみな力演よ。主人公の看護師サミュエル(ジル・ルルーシュ)は、凶悪犯のサルテ(ロシュディ・ゼム)と事件のなりゆきで相棒をくむことになるが、劇中サルテが警官に扮装しようとするサミュエルに「お前の顔は善良すぎて警官には無理だ」というのには笑った。その通りの顔だからね。誘拐されるサミュエルの妻ナディアにエレナ・アナヤ。狂気の天才整形外科医アントニオ・バンデラス君が、性転換手術を施した美女を演じる「 私が生きる、肌 」(ペドロ・アルモドバル監督)は本作の一年後です。それとこの人がいい。凶悪犯役のロシュディ・ゼム。彼は「あるいは裏切りという名の犬」とか「愛する者よ、列車に乗れ」とか「漆黒の闇で、パリで眠れ」とかどことなく叙事的・物語ふうのタイトルの映画によく出ています。本作の「この愛のために撃て」もそう。無口な悪人ヅラと言ってしまうにしては、どこか哀感を秘めていて彫りが深い。ひきしまった長身の動物的な身のこなしが、言っちゃわるいけどサミュエルの凡庸さとは全然ちがいます。主人公はこっちではないかと途中で思いたくなる。刻々狭まる包囲網のなかで彼が勝負の逆転を賭け警察へ潜入するシーンは本編のクライマックスですが、ロシュディ・ゼムの肉体から発散する男の緊迫感なしに、このシーンは成功しなかったでしょう。それと悪徳刑事になったジェラール・ランバン。今さらの感がありますが幅広い芸域と、何を演じさせても安心できるスキルの持ち主。最近では「輝ける女たち」で、カトリーヌ・ドヌーブとかエマニエル・ベアールとか、それでなくともうるさい女優たちの間で、堂々存在感を主張していました▼サミュエルが勤める病院に意識不明の重体の男サルテが搬入される。腹部に深い傷があり何らかの事件に関係あるとして警察は監視下に置く。いっぽうテレビで報道された殺人事件の捜査に、ヴェルネール刑事(ジェラール・ランバン)チームがあたることになった。重要事件はなぜかランバンのチームばかりが担当するのだ。サルテはなぜ追われていたのか。サミュエルが帰宅すると妻がいない。彼女は臨月である。動かしてはいけないと産院の医師から注意を受けたばかりだ。サミュエルの携帯が鳴り、3時間以内に病院の重体男を外へ連れ出さないと妻の命はないと告げられる。なにがなんだかわからないままサミュエルは男を連れ出す。サルテは傷を負ったままいっしょに逃亡するが、追跡してくる警官たちはサルテを逮捕しようというのではなく、殺すことが目的らしい。でもサミュエルにとってはだれがどうなろうと妻をとりもどせばいい、彼の顔はその切迫感満開だ。脅迫した相手はサルテの弟で、これでなかなか約束を守る男らしく、ちゃんと妻をつれてきて雑踏の中で交換するはずだった。しかしサルテは彼らの背後に追跡してきた刑事らの姿を認めクルリ引き返す。かわいそうにサミュエルのそれまでの努力は水の泡、どころか殺人強盗警官殺しの無実の罪をきせられ、妻は人質にとられさらに過酷な逃亡の渦中に投げ込まれる。ヴェルネール刑事はサルテの弟を惨殺しサミュエルの妻を拘束した。自分たちの悪事を闇に葬るために彼らはサルテもサムエルもその妻も皆殺しにするつもりだ▼刑事らの汚職を証明する証拠のビデオを、サルテは警察署内で手に入れ、データをサミュエルの携帯に送信します。警官ともみあうサミュエルのポケットで携帯の着信音が鳴る。ひたくった刑事たちはそこの画像に「…」言葉を失くす。署内の階段ですれちがうサルテとサミュエル。サルテが足早にさりながら送信完了。階段の上と下で男ふたりが目を合わせる。二度とあうことはない。思い出しません? ありましたね「さらば友よ」のあの最高の男のシーン。エンドは8年後です。模範囚として刑期を短縮したヴェルネールがホテルに投宿した。そこへ影のように入ってきたサルテ。一方に幸福にひたるサミュエル一家、そのいっぽうに表社会に背をむけたサルテの奏でる復讐の旋律。どことなくカヴァイエ作品に陰影が濃くなってきたような気がします。