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特集「ディーバ(大女優)」

2013年6月15日

特集「ディーバ(大女優)」 シガニー・ウィーバー 危険な年 (1982年 社会派映画)

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監督 ピーター・ウィアー
出演 メル・ギブソン/シガニー・ウィーバー/リンダ・ハント

これはリンダの映画です 

 「エイリアン」から3年、シガニー・ウィーバーはすっかり人気女優として安定した位置にあった。このあと「ゴースト・バスターズ1・2」「エイリアン2」「ワーキングガール」「愛は霧のかなたに」とみのり多い作品が続く80年代だった。だから出来の悪い本作にはふれないでもよかったのだけれど、主役も物語も話にならぬが、鮮烈な脇役によって映画が精彩を放つ見本のような作品なのでつい取り上げてしまった▼時は1965年。スカルノ政権末期のジャカルタだ。国民は貧困のどん底だった。共産党(PKI)が勢力を強め20年間に及ぶスカルノの独裁政権を脅かし右翼と左翼は一触即発の状況にあった。オーストラリアの放送局から特派員ガイ(メル・ギブソン)がやってきた。各国の特派員がいるなかでオーストラリア人と中国人の混血である、現地カメラマンのビリー(リンダ・ハント)がガイに好感を持ち、彼のために共産党リーダーとの独占インタビューを取り持った。ガイは大使館武官の秘書ジル(シガニー・ウィーバー)と出会い、互いに惹かれ合う。初対面の印象を「生意気な女だ」「傲慢な人ね」とまず逆をいうのはあまりに初歩的、というよりお粗末な恋愛ものの設定だろう。これが「刑事ジョン・ブック」や「トゥルーマン・ショー」のピーター・ウィアーの映画かと目を疑う。先行き不吉な予感がした▼ジャカルタで西欧の特権をふりかざす傲慢な大使館員、現地人を見下し男女の買春に狂う特派員ら。ビリーがさんざん失望してきた彼等とガイはちがう、というビリーの期待はあえなく潰える。ガイはたちまちジルにのぼせあがり帰国を目前にしたジルも「面倒はいや」といいながら情事にのめりこむ。ビリーはジルが好きだ。ジルもビリーをよく理解している。彼のとったジルの美しい写真が何枚もある。ビリーはジルを無事帰国させたいがガイとの深みにはまっていくのがやるせない。右翼が台頭し政情はただならぬ様相を示す。大使館で極秘情報を入手したジルは戦争勃発を知って、男をインドネシアから脱出させるためその情報を教え「わたしといっしょに逃げましょう」というのだ。ガイは「いいや、ここにのこって世紀の大転換期を報道する」と言い張るが、それもつかの間、市街が騒然となると「いっしょに行く」コロリと決心は変わり、共産党軍の兵士に殴られ大怪我を負うと、あとさきみずに空港に走るのだ▼確かに強いばかりが能ではない。どんな人間もいるし、いていいのだと思う。エゴイストも殺人鬼も優柔不断も傲慢も犯罪者もいれば詐欺もペテン師もいるだろう。しかし少なくとも映画が人間のなにかを描く場合、あまりにうすっぺらで薄汚い主人公だと失望してしまう。ガイはジルとホテルに向かう途中、急ぐあまり検問を無視して突っ走る。翌日ジルは遅刻して出勤。上司は大使館の規則を無視した館員に罰則を与えるでもない。検問を突破してなにも手を打たない警察や、規則破りに譴責なしの大使館っていったいどこの国の話なのだろう。ガイの行動は暴走以外のなにものでもないし(だいいちビリーなしで取れた特ダネなどひとつもない)、仕事を放擲して無断で任地を離れ、飛行機のタラップをあがったところで両手を広げて待っていたジルと抱き合われてもなあ。ラストの展開に「???」あんまり調子いい主役二人の行動がこの映画をお手軽な底の浅いものにしている▼この不満をチャラにして余りあるのはビリーことリンダ・ハントの体温が伝わるような演技だろう。この難しい役にふさわしい役者がおらず、ウィアー監督は困り抜いていた。そこへ「うってつけの人物がいる。ただし女性だ」と知人の推薦を得たのがリンダだった。彼女は男性を演じた女性として初のアカデミー助演女優賞に輝く。思想と現実の間、報われず遂げられない愛、貧困と混乱の国で生きようとしながら挫折する悲劇的な思想家を演じ、すべての登場人物は影が薄くなっている。

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