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特集「ディーバ(大女優)」

2013年6月16日

特集「ディーバ(大女優)」 シガニー・ウィーバー スノーホワイト☆ (1997年 サスペンス映画)

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監督 マイケル・コーン
出演 シガニー・ウィーバー/サム・ニール/モニカ・キーナ

母親の支配

 この映画でいちばんこわいのは鏡の中から娘をあやつる母親だろうな。城主ホフマン男爵の後妻となったクラウディア(シガニー・ウィーバー)は嫁入り道具に大きな鏡台をもってきた。観音開きの由緒ある調度だ。母親の形見だから大事に扱ってくれと召使たちに言う。今でも母親を大切にしている。彼女には弟がおり彼はしゃべれない。姉は人に言えない秘密の頼み事はなんでも唯一の肉親である弟に命じる。男爵の先妻は臨月のとき馬車のなかで産気づき、帰館を急ぐあまり馬車がぬかるみにはまり転覆した。妻は自分より赤ん坊の命を助けてほしいと男爵に頼み、リリー(モニカ・キーナ)は帝王切開で産まれたのである。このリリーがスノーホワイトだ▼リリーは長じるに連れて雪のように肌は白く…なんて本作はひとつも触れていない。それどころか父男爵と継母クラウディアの睦まじい夫婦の仲を嫉妬する、どことなくひねくれた陰気な娘になった。とてもこの娘が、何年たとうが世にもまれな美人になるとは考えられない。さいわい父親の地位があるからそのうちつつがなく嫁にいく。クラウディアは放っておきさえすれば前途洋々だ。それなのに彼女はリリーがひとつもなつかないばかりか、自分に逆らってばかりいると憂い顔になる。つまり本作は継母をひとつもいじわるに描いていないのである。やがてクラウディアは妊娠。9年間もまじないをかけてやっとみごもったのだ。男の子でありますようにと祈っている。陰気なリリーもそうだし召使もクラウディアに面従腹背である。夫だけが頼りだ。後継男子を得れば立場は盤石、召使や意地悪な小娘の一顰一笑に気をもまないですむ。これはごく自然な心理だろう。ところがパーティーの席にリリーはクラウディアが与えたドレスを無視、亡き母の白い衣装で現れる。男爵は亡妻にうりふたつの娘にわれを忘れ満座の前で妻をほったらかし。妻はショックで男児を死産する。ここからクラウディアは精神を病む。小さな遺骸を布でくるみ離さず、ひとり塔の奥に閉じこもり糸車を回す。リリーが謝りにきたがもうこんなやつどうでもいい。鏡を開き母親に切々と悲しみを訴える▼この母親が美しい。実際のクラウディアは年もとりやつれ歯も欠けて黒くなり、しわだらけなのだが鏡の中には輝くばかりの女がいる。この母親がさんざん毒を吹き込む。クラウディアはそれに従い、リリーを殺し証拠に肝を取り出してこいと弟に命じる。失敗した弟は代わりにイノシシかイヌかの肝を持っていく。クラウディアは目的成就と喜ぶがどっこい母親はちがう。弟が裏切った、あいつも殺せと言うのだ。クラウディアの弟って自分の息子だよ。お母さんそんなひどいことできないわ、なんてクラウディアは一言も抵抗せず母親の指示を実行する。グリムにはこんな母親がよく出てくる。シンデレラも母親も意地悪で憎らしい、娘たちに悪ばかり教える母親だった。グリムが本当にこわいのは、悪が母親の支配という形をとっているところではないかと思えてくる。息子と母親の関係と娘と母親の関係は異なる。一心同体というか自己の所有の一部というか、分身というか、分かちがたい領域が母と娘には濃いと思う。クラウディアは自分の潜在願望の具体化を、母親の意思という形で実行する。グリムは長いあいだ話し継がれてきた伝説や伝承には人を勇気づけ、生活の指針になる知恵のしたたりがあることを明らかにしたが、同時にその伝承のなかには、人間の心のどこかに潜む暗い逃れがたい心理が述べられ伝えられてきたこともさらけだしたので▼時代は15世紀末のドイツである。城館も登場人物の衣装も家具もリュートなどの楽器もすべて考証がゆきとどいていて重々しい。手抜きのない重厚なセットが見応えがある。シガニーがそこまでせんでも、というくらいリキが入っている。ラストの砕け散る鏡とシガニーの変貌は「ドリアン・グレイの肖像」グリム版だな。

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