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特集「ディーバ(大女優)」

2013年6月20日

特集「ディーバ(大女優)」 シガニー・ウィーバー 僕らのミライへの逆回転 (2008年 コメディ映画)

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監督 ミシェル・ゴンドリー
出演 ジャック・ブラック/モス・デフ/ミア・ファロー/シガニー・ウィーバー

ワンシーン一言の台詞

 シガニー・ウィーバーのキャリアには「悪役の系譜」というものがある。「ゴーストバスターズ」では悪魔に肉体を乗っ取られたヒロイン。目をひきつらせた悪のメイクでイメチェンしたときのシガニーがあの映画で唯一の驚愕だった。「愛は霧のかなたに」はゴリラを愛するために人を人と思わなくなった狂気をおびた学者。「ハート・ブレイカー」いうもおろかな、これは詐欺師の映画である。「スノー・ホワイト」子供を愛そうと努めた継母が報われず悪に憑依する。「ワーキング・ガール」部下のアイデアを盗み陥れるとんでもない女性重役。「アイス・ストーム」不倫と負の地帯をさまよう悪に共鳴する主婦。少年囚を公私混同、強制労働させる施設の所長を演じたのは「穴(HOLES)」。「マップ・オブ・ザ・ワールド」でもやさしさのテレサに対してシガニーの位置づけは悪役だ。きわめつけは「エイリアン」だろう。リドリー・スコットがヒロインにリプリーを配した意図は明瞭だ。この監督はこよなく異形の悪と悪役を愛するのである。「ブレードランナー」の哀切きわまるレプリカント(ルトガー・バウアーには泣きましたね)。「グラディエイター」ではラッセル・クロウがヒーローとはいえ、皇帝コモドウスという悪役がいてこそ悲劇の将軍は引き立ったのだ。男だけじゃない。「テルマ&ルイーズ」では平凡に生きる幸福な主婦ふたりを強盗はやる、殺人はやる、車は爆破する、とことん悪役にしてしまった。主役を食った悪役としてどうしてもいいたいのは「ブラック・レイン」われらが松田優作である。「アメリカン・ギャングスター」のデンゼル・ワシントン。「ハンニバル」とくればアンソニー・ホプキンスとゲーリー・オールドマンという悪役ノリノリ俳優の競演。傑作「エイリアン」のヒロインとは、悪の化身に対抗するには等質の悪と毒がなければならぬ、本当の強さとはまた悪と毒をうちに含むものだというスコットのヒーロー・ヒロイン像のコンセプトから生まれたものだ▼「僕らのミライへの逆回転」のシガニーの登場はわずか数分である。無断のリメイクが著作権法に違反するという映画会社の訴えにより、いまや下町の人気者になったビデオ屋の、リメイク版ビデオを没収にきた弁護士がシガニーだ。彼女は裁判所の商品撤去命令書を示し、有無をいわさず係員を店内にいれ、店中のビデオを路上にほうりださせるや、その上をローラーでぐしゃぐしゃにしてしまうのだ。悲しげにみる町の人たち。シガニーはうっすら笑をうかべ「悪役ね」とつぶやく。彼女の悪役好きは前述の通り、今に始まったことではないが、本作ではたった一言のこの台詞をいうために引き受けたとしか思えない。それともアドリブか▼この映画に映画好きの住民ジャック・ブラックやミア・ファロー、モス・デフが手作りリメイクで演じるのは「ゴーストバスターズ」「ドライビング・ミス・デイジー」「ボーイズ・オン・ザ・フッド」「ロボコップ」「キング・コング」「キャリー」「2001年宇宙の旅」「ライオン・キング」「ラッシュアワー2」監督の卓抜な因数分解は、映画とはここまで簡略に、正確に「リメイク」できるのかと衝撃を喚起させる。昔このビデオ屋が有名なジャズピアニストの生家だったという伝説のもとに、頑固に立ち退きを拒否してきたビデオ屋の主はDVDも知らない。古いかさばるビデオをいまだに扱っている。都市開発のためいずれ店は撤去されるのだ。リメイクビデオの最後の上映となった夜、店のまわりを取り囲んだ黒山の人が名残を惜しむのだった。とマア徹頭徹尾涙ウルウルのファンタジーに、冷水をぶっかけ身も蓋もない現実をつきつけるのが弁護士役のシガニーなのですね。極端にいえばラブラブのファウストにグレートヒェンを死なせて我に返らせた、いじわる爺さんゲーテみたいな役です。シガニーの悪役のおかげで砂糖菓子山盛りメルヘンだった本作が、甘いだけにおわらぬ、だれしもが心に持っている郷愁のようなものに気づかせてくれます。しかしこれほど嬉々としてサド系悪役をやりたがる女優もめずらしい。遺伝子としてはベティ・デイビス、ジャンヌ・モロー、マレーネ・ディートリッヒの直系です。まちがってもマゾ系悪役ではないです。

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