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特集「ディーバ(大女優)」

2013年6月22日

特集「ディーバ(大女優)」 シガニー・ウィーバー ミッシング ~消された記憶~ (2007年 ヒューマン映画)

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監督 デヴィッド・オーバン
出演 シガニー・ウィーバー/ケイト・ボスワース

シガニー中期の傑作 

 いい映画なのに日本未公開でした。シガニー・ウィーバーが生活感のにじむ切ない母親を演じています。娘が3歳のときニューヨークのセントラルパークで行方不明になるのですね。近隣の主婦が子供たちを公園で遊ばせている日常。にぎやかな公園でやがて時間がたち、母子は家に帰る。シガニーが演じる主婦ジュリアもそろそろ帰宅しようと、お茶のはいったポットやカラになったおやつのつつみをバッグにいれ、振り向くとそこにいた娘のマギーがみあたらない。どこにいるの、家に帰るわよとジュリアは滑り台のかげやシーソーの下や遊具の付近をさがすが娘はいない。公園に夕暮れが迫る。立木の落ち葉の風に吹かれる音が大きくなる。ジュリアの鼓動もまた。畳みかけていくオーバン監督の手際はサスペンスそのもの▼シーンは一転16年後の再びニューヨーク。うつむき加減に足早に歩くジュリアはトロントから転勤でこの街にきた。暗く疲れ、いっぺんに年をとったようなシガニーの風貌がこの16年が彼女にとって過酷だったことを示す。ここでも監督は鮮やかな展開を示す。ジュリアは娘の失踪という傷が癒えず、心の空洞をかかえたまま生きてきた。夫とは離婚。夫は再婚し息子は結婚しようとしている。パーティーの招待に訪問したが幸福な一家にジュリアは居場所がない。沈んだままの母親を気遣う息子に「過去にばかりとらわれている女にかまうな。共倒れになる」と夫は息子を制する。ジュリアは銀行に務めそこそこの地位である。彼女に好意をもつ中年の同僚もいるがジュリアは「朝起きて食べて働く」以外のことに関心を持とうとしない。空洞は埋まらないのだ▼ある夜レストランで男に手厳しく振られている女をみかける。その若い女ルイーズ(ケイト・ボスワース)はコンビニで万引きをした。ジュリアはちょっとしたトラブルを、小切手を切って助けてやる。娘がいたらちょうどそんな年頃になっていたのだ。それで終わるはずだったが、ルイーズはジュリアの勤務帰りを待ちぶせ「お礼をいいたかった」というが実はさらにたかるためだった。ルイーズがアバズレだとわかっていながらなぜかジュリアは受け入れる。衣食住を提供し自宅に住まわせるのだ。ルイーズが男を引き入れた夜は人恋しくなり、自分に好意をよせる同僚のアパートを深夜訪問しベッドを共にした。ジュリアはしかし娘と同じ年頃のルイーズを見ながら徐々に心の平衡を取り戻していく。娘ではないかもしれないが空洞を満たすものがあった。ジュリアに生気がもどり職場でも快活になり、ルイーズは規律のある生活によって気品すらうかがわせる若い娘に変身した。ルイーザがアルバムをいっしょに見ようという。ジュリアのアルバムには娘が3歳だったときからのちの写真はない。ジュリアは一葉ずつページをめくりながらつぶやく。ルイーズは眠ってしまった。ジュリアの独り言はつづく「これが主人。これが息子。そしてあなたが生まれた」あなた、というつぶやきにルイーズは目をあける。「待望の女の子よ。最初はどうしても女の子がほしいなんてこだわりはなかったけど、でもやっぱりほしかった」涙ぐむジュリアにルイーザはいたわるように頭をもたせかける▼ルイーズが養子であり、生まれはニューヨークであり、子供のころマギーと呼ばれていたことを知ったジュリアは見失った娘であると確信する。しかしジュリアの息子はルイーズを母親につけこむ詐欺だと罵りルイーズは失踪する。ジュリアの生活はまた暗いドン底にもどった。ある日ジュリアのアパートのドアの前にルイーズが顔に痣をつくりしゃがみこんでいた。男とケンカしたのか、かっぱらいに失敗したかして殴られたのだろう。ジュリアは家の中にいれてやり夕食の支度をする。娘には足に赤いアザがあった。シャワー室にいくルイーズの足をみたジュリアは、なんの痕跡もそこにないのを確かめる。娘ではなかった。なかったがジュリアの心にはふしぎな平安がもどるのだった▼喪失と希望。心に揉み込まれるような葛藤の日々。シガニーの深い抑制のきいた演技が映画を硬質に、堅牢な仕上がりにしています。どこかにある希望。他人からみたらジュリアの娘への希望は、馬鹿げていて愚かで痛ましいが、人はそれによって生きていけることがある。切なさとやさしさにみちた、シガニー中期の傑作です。

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