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シネマ365日

2013年6月24日

ヒストリー・オブ・バイオレンス (2005年 アクション映画)

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監督 デヴィッド・クローネンバーグ
出演 ヴィゴ・モーテンセン/マリア・ベロ/エド・ハリス/ウィリアム・ハート

男の危険な匂い 

 足を洗って平和に暮らしているのにやむにやまれぬ浮世の義理で、元の稼業に舞い戻る…健さんの映画にもあった気がする。「ヒストリー・オブ・バイオレンス」は文字通り「暴力の歴史」と同時に「前科のある犯罪者」という意味もある。主人公はインディアナ州の片田舎の食堂のオーナーであるトム(ヴィゴ・モーテンセン)だ。女房は弁護士のエディ(マリア・ベロ)。どういうご縁だったのだろうと一瞬思ったが、二人の間にははや高校生の息子と小学生の娘がいて、ということは結婚して20年にはなるカップルだ。妻は子供が留守の夜久しぶりのベッドインにコスプレして夫を刺激するという、すこぶるアツアツだ。トム(この平凡きわまる名前をよく覚えておこう)は寡黙で働き者。ご近所の評判もよくレストランはよく流行り、従業員たちもトムを信頼している▼閉店後男二人が現れ「すみません、カンバンなのですけど」とトムはいうが乱暴な口調でどなりつけコーヒーを注文、ウェイトレスに乱暴しようとする。トムは豹変、熱いコーヒーをならずものの一人にぶっかけカウンターに顔をガンガンうちつけ、銃を奪ってもう一人を撃ち殺す。電光石火である。トムはいちやく町のヒーローとなりテレビ、新聞にでかでか顔と名前がでたがなぜか迷惑そうだ。数日後黒服のメン・イン・ブラックみたいな男三人がやってきて、なかの一人カール(エド・ハリス)がトムのことをジョーイ、ジョーイと親しげに呼び、この目はお前が有刺鉄線でつぶした目だとサングラスを外してえぐれた左目を見せる。それでもトムは知らない、人間違いだと突っぱねる。彼らはトムの自宅まできて息子を人質にとり、おれたちといっしょに来るのだ、ボスのリッチー(ウィリアム・ハート)がお待ちかねだとトムを脅す。怪鳥のような身ごなしでトムは悪漢どもを殺してしまう。息子も妻もこれがあのやさしくおとなしく、大きな声をだしたこともない夫であり父であろうかと呆然。つぎに恐怖▼かなりありきたりの展開ですね。クローネンバーグらしさといえば冒頭、ファーストシーンです。あとでトムにやられるふたりの男がしょっぱなに登場し、どんな意図があるのかないのか観客には知らされないまま、脈絡のない会話を交わし車を移動させる。このへんちょっとクェンティン・タランティーノふうタッチです。水を取りにいった弟分の背後をキャメラが追い、オフィスに入るとそこは血の海。男は無造作に死体のそばを給水器にちかづきタンクに補充する。物音がしたほうをみると小さな女のこが男をみている。男は話しかけながら片手で銃を抜く。無調音楽のようなシーンです▼トムの登場により無意味・無調・無彩のなかで、床ににじみだした血だけが赤かった映画のトーンは一挙に極彩色を帯びる。トムの過去を知った家族、とくに妻はショックをどう受け入れていいかわからない。息子はしかし父親の暴力に目がさめたように、いままで相手にへつらうことで回避してきた争いを、どっこい「お前なんかナンボのモンじゃ」いじめのボスとその取り巻きを血が吹くまで殴り倒すのだ。クローネンバーグの大好きな「血の場面」です。親父は仰天「ばか、なんてことするのだ」と叱ったところで効き目のあるはずがない。妻は白い目で夫を見るものの、初めて知った夫の獣性を嫌悪しながら惹かれるという難しい気持ちになります。ヴィゴ・モーテンセンはよき市民の代表から、危険な匂いを放つ男へ変身していきます。クローネンバーグは言っていますよ「名優ではなく個性のある俳優と仕事したい」って。ヴィゴはクローネンバーグ好みにぴったりなのです▼このへんの俳優さんらの奮闘でド単純ストーリーの映画はなんとか重厚になり最後は因縁の対決。トムは過去を清算するため実兄でマフィアのボスをしているリッチの邸宅に1100キロを運転してたどりつく。兄貴というのがまたひどいやつで、実の弟が裏切ったために(足を洗ったために)自分は業界で出世できない、だからお前を殺してもっといい身分になるのだと、勝手なことばかりエラソーに言う男を、ウィリアム・ハートが半分大まじめに、半分うれしそうに熱演しています。ここでもトムは目にもとまらぬ動きで大の男四、五人を殺してしまう。トムのいくところ血の海です。水をさすようで悪いけど、20年も妻にもさとられず生活して、昔のマフィアがやってきたからってこんなに鮮やかな格闘技ができ武器があつかえるものなのでしょうか。無意識のうちに体が反応するのですって? ホンマかよ。 

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