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シネマ365日

2013年6月30日

ランパート 汚れた刑事 (2011年 犯罪映画)

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監督 オーレン・ムーバーマン
出演 ウディ・ハレルソン/シガニー・ウィーバー

男の翳り

 先入観を持って映画をみてはいけない。そんなことわかっているけど、先入観山盛りで見たのが本作だ。主演がウディ・ハレルソンでしょう。空前絶後の「ナチュラル・ボーン・キラー」は彼が33歳のとき。あれから18年。いまや渋い中年のはずなのだけど、やっぱり彼には普通の役って似合わないね。ミロス・フォアマン監督(「アマデウス」)の「ラリー・フリント」もよかったですよ。ポルノ雑誌の創刊者を演じ、粗野で下品でどうしようもない淫乱なやつに男の覇気と哀愁がにじむ。妻がエイズになりだれも彼女と握手したがらない。敵側の銃撃で半身不随となったラリー・フリントは、車椅子で退院し真っ先に会社にくると出迎えて居並ぶ役員たちにまず妻と握手させる。そんな主人公を好演しました▼ワイルドで男くさい男がウディ・ハレルソンは似合うのです。彼の略歴は特筆ものだ。マフィアの雇われ殺し屋と父と弁護士秘書の母との間に生まれ、父は殺人で終身刑となり服役中に死去した。ケネディ暗殺の実行者の一人だと名乗っていたこともあったらしい。ハノーヴァー大学を卒業しニューヨークで演技を学んだウディは「ナチュラル・ボーン・キラー」で注目されるが問題行動での注目も数知れず。警官を殴る、マリファナを栽培する、ゴールデンゲートブリッジによじ登る、ロンドンでタクシーの後部座席を破壊して逮捕される、空港ではパパラッチを殴ると武勇伝に事欠かない▼だから「汚れた刑事」というタイトルにも「なるほどなー」と素直に反応してしまったのよ。これほど正直な邦題もめずらしい。ランパートとはロスに実在する警察の分署。アメリカで人口2位の巨大都市は犯罪都市でもある。警官は人出が足りなくパトカーに単乗する。つまり相棒という監視役がいないわけだ。ランパート分署のデヴィッド(ウディ・ハレルソン)は勤続24年、ベトナム帰還兵のベテラン警官だ。ベトナムから帰還というデヴィッドの経歴に独特の影がある。彼は自分が罪人だとみなした相手には容赦なく暴力をふるって逮捕する。殺害したこともあるが全然後悔していない。差別意識も隠さない。ランパート分署にはそんな警官の行為が稀有でないどころか、汚職、収賄、暴力がいたるところにあるらしいのだ。原作はエル・ロイ。そうです。犯罪映画の佳品「L.A.コンフィデンシャル」の彼です▼従って本作にはハリウッド仕様ともいうべきカーチェイスやとってつけたような法廷シーンや銃撃戦はありません。エル・ロイは潔癖に一人の警官の内面のドラマに的を絞ります。世論の弾劾でいうと彼は悪徳警官なのですが、映画での視点はそこを微妙にずらしている。監督は「デヴィッドがやっていることは他の警官のたいていがやっていることだ」という暗黙の了解を巧みに観客にとりつける。だから裁かないのかというとそれもちがう。この映画が妙に魅力的なのはウディ・ハレルソンのぎらつく個性とオーレン・ムーバーマン監督の鋭敏な感受性の微妙なハーモニーだ▼ある日パトロール中のデヴィッドのパトカーの脇腹にトラックが突っ込んだ。アタマにきた彼は逃げるドライバーを追い詰め、殴るわ、蹴るわ。容赦なく傷めつけた。その様子をビデオに取られ人権の侵害と意図的な暴行でマスコミが騒ぐ。彼の前歴にも同様の素行があり上官(シガニー・ウィーバー)は退職勧告するがデヴィッドは受け入れない。腹の中では(なんでおれだけが貧乏クジをひかねばならん。アホらし)である。上層部も人出がないときに犯罪者を殴ったからといってクビにしていたらたまらん、みてみぬふりを決め込むが騒ぎはだんだん大きくなる。デヴィッドは家庭ではかなりよき父だと思う。すでに離婚した二人の妻といっしょに暮らしている。二人の妻は姉妹同士である。娘が二人。彼なりに愛している。でも家を一歩でれば酒場ではすぐ女を口説き関係を持つ。離婚の弁護士費用がいるデヴィッドは麻薬売買の情報を聞きこみ現場をおさえるが行き過ぎて売人を殺してしまう。署内ではデヴィッドをだんだん持て余し始め、元妻たちは家から出ていってくれと三行半をつきつける▼それらしいドラマティックな盛り上がりはなにひとつないが、あるときは無表情に、あるときは過剰な感情移入で「おれが悪いのはわかっているがでもホントのところ言ってみろ、オレが悪いとお前らに言えるか、オレのどこが悪いのだ」と強がりながら社会から外れていく男の翳りが、ドラマ以上のドラマをみせる。ハレルソンという複雑な俳優がぴったりフィットしている。

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