女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

特集「銀幕のアーティスト」

2013年7月3日

特集「銀幕のアーティストたち」 レンブラントの夜警 (2007年 事実に基づく映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ピーター・グリーナウェイ

レンブラントの肉体 

 「絵筆は画家の武器だ、なんでもできる。侮辱も告発も」そううそぶくレンブラント。粉屋の息子に生まれ、逆玉婚で結婚したサスキア(エヴァ・バーシャッスル)のマネジメント能力もあって、当代並ぶものなき富と名声を得ていた。新しい絵の注文が舞い込む。アムステルダム市警団の集団肖像画だ。気乗りしないレンブラントだったが生まれてくる赤ん坊の財形のためにも必要だとサスキアに説得され、団員メンバーと個別にあって人柄や性格の情報を集める。結論をいうと市民を守る誇り高い市警団の面々が、まるで仕事にあぶれた三文役者の集団か仮装行列みたいにレンブラントは描いてしまったのだ。高い画料をとりながら人をバカにしている、覚えていろと市警団の主たるメンバーはレンブラントに復讐を誓う。レンブラントが市警団のメンバーにみたのは隊長の座をめぐる陰謀と殺人だった。隊員の一人、町の有力者でもあるケンプは英国女王に謁見し宝石を担保に金を貸し、名声を高めようとしていた。そのためには市警団の隊長になるのが手っ取り早い。しかし現隊長ハッセルブルグと彼に忠実なエグモントが邪魔だ。コックは火縄銃の射撃訓練の最中、誤射したとみせかけハッセルブルグを殺しエグモントを国外に左遷する▼レンブラントの目に映った市警団員は「ケンプは好色な古狐だ。孤児院で子供たちに売春させ、エンゲレンは貧民窟で家をかいあさり放火して保険金でもうけている、フィッシャーはタバコ事業に手をだし原料を買い叩いた」さらに「へらへらと笑いながらナヨナヨとしたこの男は、小便が近く尿瓶をそばにおいてポーズを取っている。この絵のモデルたちは陰謀家の集まりだ。幼児性向愛者か殺人犯、泥棒か詐欺かスリだ。こいつの頭は大きすぎるがそこが狙いだ。この男が嫌いだったからわざと不細工に誇張したのだ。自分の名声は傷つかないが奴の名声は傷つく程度に。ウィレムを狙っているホモのコック、ウィレムは巨根の女たらしでケンプには私生児の娘が二人。彼等の間で殺人が画策された」つまり「夜警」はレンブラントの告発だったというのが、レンブラントに惚れ込んでいるピーター・グリーナウェイ監督の製作意図だ▼監督は世界三大画家の一人・レンブラントを素っ裸にして(比喩ではなく本当に)じつに現実的ないやらしい男にしてしまう(実際そうだったかも)。この映画の解説者として登場するのは画中に正面をむいて描かれている作家のヤコブ・デ・ロイだ。市警団には陰謀が隠されていることをロイはレンブラントの妻の叔父に耳打ちし、仕事を受けるなと忠告するが、すでに引き受けてしまっていた。深くかかわらず彼等を喜ばせるフツーの集団肖像にしろと再度忠告するのだが、レンブラントの絵筆は疾走した。この「光と闇の画家」は彼等の人間性の闇まで暴いてしまう。ロイは言う「お前は市警団を不愉快な風刺画に仕立てたが、そこにある風刺の意味など人はすぐ忘れてしまう。こんなことをしても無駄だ。事件の判決は射撃中の事故で片付けられる。悪魔や殺人を絵に描き出すことで恨みを晴らすのはいい、だが気をつけろ、彼等もまたお前に恨みを晴らせるのだ」彼は「ひとつのできごとを何通りにも演じ分けること、それには才能が必要だ。こみいった筋書き、陰謀、ミステリー、謎の人物、メタファ、どんでん返し。お前の絵はなにしろ絵ではない、本質的にこれは演劇なのだ」このメフィスフェレス的人物の解釈はほとんど監督の独白であろう▼サスキアの死後、市警団の陰謀によって送り込まれた召使へールチェはレンブラントを誘惑する。レンブラントはへールチェの肉体に溺れる。「彼女は兵隊だった前夫が教えた性戯をおれにも教えた。おれは男根を、頭を、オレ自身を彼女の中に隠した。彼女の手でオレは陶然とした。毎晩何時間も。そして忘れた、君がいないことを。サスキア」。コックたちは陰謀が暴かれたことを知り、罪を隠すためかくのごとき復讐を徐々に実行し、レンブラントの富と名声を破壊していった。レンブラントは年をとり借金におわれ破産した。ただひとり残った妻はもと召使のヘンドリッケだった。20歳の年の差があった。彼女はレンブラントが癖のあるとんがったエゴイストだが、世間や人間のインチキにごまかされない公平な心の持ち主であり、金持ちとか貧乏とかに目を曇らされない感性の男であることを、長い間仕えているうちに見ぬいていた。彼女をレイプしかけている男をレンブラントは床にたたきつけ、しかも恩着せがましいことをいわなかった。人間は召使であっても道具ではないと素直に思っているのだ。ヘンドリッケは孤児院でレイプされ絶望した少女をだきしめて言う「人生はつらく不公平で、不完全で野蛮で、失望ばかりで耐えられない。正義なんてない。どこにもないわ」レンブラントがそばに立って聞いている。彼の絵が描きだしたものこそ「つらく不公平で野蛮で耐えられない」現実に生きる人間だった。あらまし以上が本作の背骨だと思える。レンブラントの生涯は確かに「夜警」から暗転したが、その「なぜ」を監督は伝記的情況資料に依らず、レンブラントという男の肉体と体温に語らせている。

Pocket
LINEで送る