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特集「銀幕のアーティスト」

2013年7月6日

特集「銀幕のアーティストたち」 モンパルナスの灯 (1958年 事実に基づいた映画)

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監督 ジャック・ベッケル
出演 ジェラール・フィリップ/アヌーク・エーメ/リノ・バンチュラ/ジェラール・セテイ

永遠の歓びがある 

 映画をみる幸福感のひとつは、心に沁みるセリフを聞くシーンがあるかどうかだろう。そんなセリフを俳優にいわせることのできた脚本と監督だったかどうかにある。パリにきたアメリカの富豪が絵を見たいといっている、さあ今からリッツ・ホテルに行くのだと、モジリアニの親友であり画商であるスボロウスキー(ジェラール・セテイ)がモジとジャンヌをタクシーに押しこむ。初めての個展がわいせつ罪に問われ不評に終わりモジは意気消沈している。富豪が絵をみる。感動する。買い上げて肖像画の女性を自社の化粧品のキャラクターにするという。パッケージにもポスターにも看板にも地下鉄のあらゆる広告にこの絵を使う。スボロウスキーとジャンヌの目は輝く。モジの絵が世界に知られるのだ。モジは浮かない顔だ。富豪は「ゴッホは飲んだくれだった」と言う。モジは低い声で「それは苦悩を忘れるためです。絵は苦悩から生まれるのです」と。その静かな礼儀正しい応答に「わかります」と富豪は頷く。「彼(ゴッホ)は壁に頭をぶつけ、飲酒を責めた人にこういっています。この夏みた黄色を現すために飲むのだと。絵を売りにきてこんなことをいって、すみません」このときのジェラール・フィリップの気品のある美貌にさす病身の濃い影が悽愴だ。彼はモジリアニと同年の36歳、この映画の翌年に肝臓がんで没する▼因果な性分だなあと思わざるを得ない。アメリカの大企業のキャラクターになってサクセスするのになんの不服があるのだ。いや不服なのではない、もたらされる成功に「苦悩から生まれる絵がだめになる」ことがこわいのだ。だからモジの元カノがいみじくも指摘したように、彼は結婚して安穏と家庭におさまってはいけない男だったかもしれないのである。ジャンヌはそこを強行突破しちゃうのですね。いい家のお嬢さんで両親は貧乏画家との結婚を許さない。娘を監禁して男にあわせまいとする。モジもモジでご両親にきちんと挨拶するわけでもなく「ジャンヌ、ジャンヌ」と夜中にどなりこんで警察にひきわたされるなど、世間を生きる最低限度の常識という潤滑油に事欠く。それでいてなけなしの金をカフェのバイオリン弾きのチップに置く、ありついた酒の半分を娼婦がねだったらわけるなど、彼は貧しくてもひとつもケチケチしておらずやさしさはさりげない。貧しさも彼を屈服させることはできない。死を前にして彼は妻にいう「僕らにも永遠の歓びがある、ちがうかい。ジャンヌ。頑張ろう」。もう一人モジリアニの才能の最大の理解者がいた。画商モレル(リノ・バンチュラ)はベッケル監督がこしらえた架空の人物だが、死の商人ともいえる彼がモジリアニの悲劇をきわだてる。彼はスボロウスキーに言う「モジリアニの絵は生きている間は売れんよ」「なぜだ」「運がないからだ」腹はたつが真実を言うのだ▼モジリアニは夜の街路でゆきだおれ、行路病者として警察病院で息をひきとる。モレルはモジのあとをつけ病院で一部始終を見届け、息を引き取ったと確認したその足でジャンヌのもとに馬車でかけつける。もちろん絵を運び出すためだ。ジャンヌは歓喜する。長い間夫は世間から認めてもらえなかった、どんなに喜ぶことでしょうと涙ぐむ。その二日後夫が死んだと知ったジャンヌは2歳の娘がいたにもかかわらず飛び降り自殺した。22歳。妊娠9ヶ月だった。残された娘はモジの姉がひきとった。ジャンヌの両親は娘の死後も結婚を認めず、10年後ようやくパリのペール・ラシェーズ墓地にふたりいっしょに埋葬した。墓碑銘に記した「究極の自己犠牲も辞さぬ献身的な伴侶であった」が両親の実感であっただろう▼モジリアニを取り囲む女性たちが、本作でみな魅力的なのが芝居掛かっているといえばいえるが、これは女優たちがいいからだろう。アヌーク・エーメの代表作は「男と女」だろうが「モンパルナスの灯」の気品のある美貌は群を抜いている。元カノ、ベアトリスにリリー・パルマー。捨てられた哀しさに虚勢を張る女を演じブリュッセル映画祭主演女優賞。モジの昔の恋人でいまは酒場をやっているロザリーにレア・パドヴァーニ。「裸のマハ」で毒殺首謀者の女帝を演じ、本作のあとは「眼下の敵」達者な女優さんです。そうそう、ジェラール・フィリップが実際に描きつけている絵はスクリーンに映りませんが、モジリアニが疲れ果てているにもかかわらずキャンバスに向い描きかけの絵を加筆修正する、そのとき筆の穂先を洗いハンカチでぬぐい、パレットにちょんちょんと筆先を当ててほぐす、これほとんど画家の習慣ですが、ベッケルの演出のリアリティってこういうところに出るのがおそろしいと思いました。

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