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特集「銀幕のアーティスト」

2013年7月9日

特集「銀幕のアーティストたち」 カミーユ・クローデル (1988年 伝記映画)

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監督 ブリュノ・ニュイッテン
出演 イザベル・アジャーニ/ジェラール・ドパルデュー/ロラン・クレヴィル

天才とはつらい

 さて本作から主人公は女性アーティストになります。いままで無視していたわけではなく、ホントに少なかった。アートの世界も男社会だったのです。今回以後登場する彼女たちをみていると感慨深いものがあります。彼女らの私生活がたとえどんなものであれ「よく頑張った。えらかったよ」といいたいですね▼ロダンをして天才彫刻家と言わしめたカミーユ・クローデル(イザベル・アジャーニ)。彼女はロダン(ジェラール・ドパルデュー)に結婚をせまり、男の決心がつかないのを見て絶望する。ロダンは「君が妊娠したことを知っていたら結婚していた」とか「これ以上複雑な感情に身を置きたくない」とか、言を左右して「逃げてばかり。わたしはあなたに力を与えたのに返されたのは空虚。それも3倍にして返してくれたわ」。ロダンとの関係はカミーユが19歳、ロダンが42歳のときに始まった。それから40代なかばで精神に異常をきたすまで別れたりくっついたりしたが結局ロダンはカミーユを棄てる。彼女は48歳のときヴィル・エヴラール精神病院に収容され、第一次世界大戦のため南仏モントヴェル病院に移動、そこが臨終の地となった。30年を精神病院で過ごしたのだ▼カミーユ・クローデルが生まれたのは1864年12月8日。女性の芸術家への道が皆目開かれていなかった19世紀だ。聡明で美しい娘を父は溺愛し彼女に彫刻の才能があるとみればパリで勉強させアトリエをもたせた。妹と弟がいて、弟が詩人のポール・クローデルである。才能にあふれた美貌の姉はポールにとってまぶしいばかりの存在で、姉弟以上の感情もあったとこの映画はとらえている。深夜にもかかわらず土砂降りの雨の中で泥だらけになって粘土を掘り、大きなトランクに詰めてアトリエに戻るカミーユを、家中大騒動して探す、そんなところから映画は始まる。カミーユという女性は一家の物議をかもすタネらしい、とすぐ察しがつく出だしだ。ロダンの女癖の悪さがさかんに強調されている。カミーユの才能に刺激されたロダンはつぎつぎ傑作をものしたが、カミーユは吸い取られるばかり、自分がなにを発表しても世間はロダンの真似だとしかみない、ロダンは内縁の妻と息子のいる家庭から離れようとせず、人生のおいしいところだけ食い逃げした男…ロダンから拒否されたカミーユには憤怒と憎悪しか湧いてこない。体調がすぐれないのはロダンに毒を盛られたからだ、彫刻が売れないのはロダンが自分の才能をけなして周っているからだ(じつは違うのだが)、毛虫に内側から食われるキャベツの気分だ…▼カミーユがアトリエで大理石を削り、粘土をこね、石膏を流し込む作業がリアルである。石膏の白い粉がちらばり足場が組まれ、鋭いノミを大理石に打ち込んでいく。石膏の白い粉だらけの作業着、擦り傷の絶え間ない指や手、粘土をこねあげる握力や表情を整える指やてのひらの感触。ロダンは腹立ち紛れに「オレの真似ばかりしている」と言ったが、どうみてもモノマネなどではない。それどころかロダンが誇張した毒々しいほど大げさな肉体とはほど遠く、体と体が融合し融け合うような、乳のような柔らかさがあり、そこには意図的に残された豊穣な未完成ともいうものがあって、見る人の憶測や想像や類推でもって完成させる高度なテクニックをカミーユは駆使している▼数少ないがカミーユの味方はいた。画商のロブもその一人だった。君の彫刻は必ず売れるようになるよ、と金に困っているカミーユに前金をわたして生活を補助した。ポールは外交官になったがこれはロダンが外務省の知人に口をきいたからだ。ロダンは君の才能を評価しているとロブや記者から聞いてもカミーユは信じない。憎しみが凝結し美術省に猫のフンを送りつけ、モナリザを盗んだとロダンを訴えたりした。弟は姉の個展でこれらの作品をみれば姉の天才がわかるはずだと賛辞を述べるが、会場に到着した姉のいでたちに「あのかっこうはなんだ、サーカスだ、悪趣味だよ」と言葉をなくし、そのまま会場を去る▼父親が死んでから母親も妹もカミーユに冷たかった。ポールは外国の任地にいた。帰国したときのカミーユの状態は正常とはいえなかったが、家族の面々に厄介払いしたい感情がなかったとはいえない。30年のあいだ母と妹は一度も、ポールだけが数年に一度面会にきた。カミーユは気性が激しく手に負えない女性だったしロダンもその激しさに恐れをなして、刺激のある愛人ならいいが、毎日の生活をともにしようとはしなかった。内縁の妻ローズは料理の上手な女性で「ローズの料理はうまい」とロダンがつぶやくシーンがある。男の身勝手の最たるものであろう。一言でいえば男が逃げ出す女がカミーユだった。カミーユの鋭い性格と才能を可愛いと思える大きな男に出会わなかったことが彼女の不幸だった、しかしそんな男とはいったいどんな男だ。レット・バトラーか、ジュリアス・シーザーみたいなスケールか。職業の選択肢が少なかったことが彼女の悲劇性を増幅した。現代にカミーユが生きていたらどうだろう。たしかにあらゆる分野への女性の進出を排斥するものは(表向きにせよ)影をひそめたが、カミーユは同じ道をたどったと思える。彼女はどこまでも彼女自身で、それをたわめるものを必要としなかったからだ。

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