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特集「銀幕のアーティスト」

2013年7月11日

特集「銀幕のアーティストたち」 エディット・ピアフ ~愛の讃歌~ (2007年 伝記映画)

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監督 オリヴィエ・ダアン
出演 マリオン・コティヤール

「愛しなさい」 

 異色の画家フリーダ・カーロが病床につき、苦しみのなかで絵筆をとろうと力をふりしぼっていた時、同時代のパリで全盛期を迎えた大歌手がいた。エディット・ピアフである。旅芸人を父に、売春宿を営む祖母に育てられ、大道芸をする父に見物客がもっとなにかやれ、とけしかけネタもタネもつきた父親は娘に「なにかやれ」とおしつける。ピアフは9歳だった。彼女はボロを着たまま「ラ・マルセイエーズ」を歌う。ろくに学校にいっていない子供が、聞き覚えで知っている歌といえば国歌くらいだったのだろう。道行くひとは足をとめ息をひそめ聞き惚れた。これがピアフのデビューである。母親との縁は薄い。日銭を稼ぐため母親もまた路傍で歌っていたが、子供を放ったらかしの母親に娘は預けられぬと、父親が強引にひきとってしまったが、父も旅芸人としてドサ回り。ピアフは祖母のもとで娼婦たちに可愛がられ大きくなった。テティーヌという娼婦がとくにピアフを我が子のように愛した。ピアフは異端な環境とはいえ温かさに包まれて育った。これはピアフの生涯における決定的な経験だと言える。赤の他人が自分に注いでくれた愛「無償の愛」を知ったこと。それが後年ピアフの歌のスケールをひとまわりもふたまわりも大きくした。突き抜けた青空のような「愛の讃歌」はピアフの作詞である。ピアフは後年感謝を捧げる人たちのうちにテティーヌの名をあげている。ピアフの一生についてまわった極端な、幼女のような「さびしがり」は、母親が自分を棄てて出て行ったと思う心の傷の深かったためと思える。夜の暗さをおそれた。死ぬことは怖くないかと聞かれ「孤独よりマシね」と答えている。その孤独にたったひとつ立ち向かえる力を与えてくれたものが歌だった▼小雀(ピアフ)というくらい小柄だった彼女を、長身のマリオン・コティヤールが違和感なく演じている。もっとも20代、30代のピアフは、マリオンが堂々としているから(このピアフ、ちょっと元気がよすぎるのとちがうか)と思ったが40代からのピアフが素晴らしい。ピアフは47歳の短命だった。晩年髪は抜け赤くなり、背は丸く、車椅子に座りひざに毛布をかけ、ヘロインと脳梗塞の後遺症の治療に当たる。足取りはおぼつかなく声はかすれ、会話を拒否し、落日を知る大歌手の孤独を完膚なきまでに表現した。この映画はなんといってもマリオンのワンマンショーだ▼主要シーンでピアフの代表作が歌われる。恋人のマルセルとピアフが幸福にあふれたひとときをすごすニューヨークのクラブ。彼女が歌ったのは「バラ色の人生」だった。ピアフのテーブルに近づいてきたブロンドの女性がいた。ため息がさざなみのように広がる。「マレーネ・ディートリッヒ」彼女は低い声で自己紹介し、落ち着いた流暢なフランス語で「久しくパリに行っていないけど、あなたの歌でわたしの心はパリに旅することができたわ。あなたはパリの魂を歌ってくれたわ」簡単だがグッサリくる賛辞を残す。ピアフは歓びにふるえてディートリッヒの後ろ姿を見送る。映画ではふれていないがこの後ピアフは、ディートリッヒの恋人として終生の交流を持つ▼ニューヨークのステージで倒れ、一度は楽屋に運びこまれたピアフがマネージャーに「お客さんは?」「いるよ」ピアフは制止をきかず再びステージにもどり曲を指示する。それが「パダン・パダン」だ。歌い終わらないうち再び倒れるのだが。圧巻はラストの「水に流して」だろう。たぶんマリオンが自分で歌ったのではないか。ピアフの最後のステージとなったパリ、オリンピア劇場だった。イヴ・モンタンが、ジャン・コクトーが、シャルル・アズナブールが客席にきていた。「わたしはなにひとつ後悔していない。わたしに起きた良いことも悪いこともわたしには同じこと。代償を払って過去は清算した。もう忘れ去ったわ。いろいろな思い出は火をつけて燃やした。悲しみも喜びも今はもう必要ない。過去の恋も清算し、ふるえる思いとともに永遠に追い払った。またゼロからやりなおそう、わたしの人生、わたしの喜びは今日から始まる、あなたとともに始まるのよ」▼ピアフがだれもいない海辺で編み物をしている。彼女は編み物が好きだった。そこへ若い女性のインタビュアーがきて質問する。無心に編み針を動かしながらピアフが答える、このシーンがとても好きだ。数々の栄光も絶望も得た、損得の勘定もし、自分勝手でも傲慢でもあったが、無心という言葉ほどピアフにふさわしかったものはないと思える。「好きな色は」「ブルー」「好きな食べ物は」「牛肉のフィセル」「正直に生きられますか」「そう生きてきたわ」「歌えなくなったら」「生きていないわ」「夜は好きですか」「明かりが輝いていれば」「夜明けは」「ピアノと友だちがいれば」「夕方は」「夜明けと同じように好き」「女性へのアドバイスをいただけますか」「愛しなさい」「若い女性にはどうですか」「愛しなさい」「子供には」「愛しなさい」。

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