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特集「銀幕のアーティスト」

2013年7月16日

特集「銀幕のアーティストたち」 永遠のマリア・カラス (2002年 事実に基づく映画)

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監督 フランコ・ゼフィレッリ
出演 ファニー・アルダン/ジェレミー・アイアンズ

マリア、大好きだけど悪夢だったぜ 

 ゼフィレッリ監督は「自伝」でマリア・カラスのことをこう書いている「マリアと喧嘩してもいつもわたしは引き下がり、なんでも許すと彼女に言った。わたしはいつも言った。あなたの心を知っているからね。悪女のふりをしているけど、決してそうじゃないことはわかっているンだ」ミラノはオペラの殿堂・スカラ座でくりひろげられたトスカニーニ、ルキノ・ヴィスコンティ、そしてマリア・カラスらの巨人とディーバたちの素顔にひきこまれる自伝だ。こんなくだりがある「トスカニーニがなぜあんなにマリアを嫌ったのかわからない。彼はマリアの声にスが入っていると言った。当然マリアの耳にも入り傷ついたはずだが、彼女は自分を殺してマエストロに接近し、オーディションを頼んだ。トスカニーニから断わられてもマリアは頼み続け、彼を困った立場に追い込んだ。それがマリアだった。だからこそわたしは彼女が好きだった」「大勢の歌手がいい評判をとるために賄賂をつかったが彼女は絶対しなかった。ケチだったせいもあるが彼女は闘うことが好きだったのだ。わたしはミラノにいるときはいつも舞台の袖で出番を待つ彼女のそばにいた。それは人間の気概というものを学ぶ素晴らしい機会だった」。「永遠のマリア・カラス」にこのゼフィレッリの評以上に加えるものはない。本作はゼフィレッリの「カラス讃歌」である▼時代は1977年パリ。オペラ界の伝説のディーバ(歌姫)マリア・カラス(ファニー・アルダン)は隠遁生活を送っていた。ある日カラスの仕事仲間だったプロモーターのラリー(ジェレミー・アイアンズ)が来て現場復帰をもちかける。声が出なくなって20年、カラスは一笑に付す。ラリーはアパートから一歩も出ずひきこもっているカラスが「緩慢な自殺」のように思える。彼はカラス主演のオペラ映画「永遠のマリア・カラス」を提案した。カラスの全盛期の録音を使い、ハイテク技術を融合した口パクで撮影するのだ。一度は拒否したカラスだったが仕事への希求には及び難く引き受ける。カラスのわがままを知り抜いているラリーは、三度念を押して「イエス」をとりつける。カラスの条件は「カルメン」だった。録音はしたが舞台では歌っていなかったのだ。相手役のホセのキャスティングを自分でするほどの熱心さでカラスは撮影にうちこみ「カルメン」は完成した。やれやれ。この映画の制作費の半分を投資し成功に賭けていたラリーは胸をなでおろす。ラリーだけでなく「カルメン」が完成した以上はもうこっちのもの、映画、ビデオ、CDで何億ドルは稼げると業界関係者はえびす顔だった▼「カルメン」の試写をみたカラスは動揺する。あれはやっぱり自分じゃない。苦しさを長年の友人にうちあけるが、彼女は「歌っているのはまちがいなくあなたよ。マリア・カラスよ」迷いを吹っ切れというのだ。カラスは逡巡したあげく次善策として「トスカ」を自分の声で歌うことを提案するが却下になる▼ある日ラリーはカラスに呼ばれる。あいさつ抜きにカラスが言う「カルメンを破棄して」返事もできないラリーに向かい「あれはまやかしよ。じつに見事にできた偽物よ。ニセはニセだわ。これをみてだれ一人気づかないとしてもわたしは知っているわ。最新のテクノロジーが生み出した美しい幻想だと。でもわたしのオペラ人生は幻想ではなかった。現実だったわ」ただアングリときいているラリー。このときのジェレミー・アイアンズが秀抜だ。呆然とか唖然とかなんかではない、白昼の悪夢なのだ。頓着なくカラスは続ける「わたしのオペラ人生は真実よ。たとえ最悪の公演でも観客が耳を、目を、おおいたくなるほどでも歌い通したわ。それなのに歌手人生のしめくくりにこう言うの? マリア・カラスはペテン師だったと。わたしが築いた伝説は? 守ってきたものを踏みにじるの?」ラリーはようやく口を開く「君の決意は立派だよ。でも周りはさんざんだ。僕も半分出資した。わかったよ、映画はお蔵にするよ。ほかに要求は? 僕の腎臓か、肝臓か」これが「いつも自分が引き下がり、なんでも許すといってきた」ゼフィレッリの実感だったのでしょうね。車で送ろうというラリーにカラスは「歩きたいの」ふたりは美しいパリの木陰を歩きラリーが聞く「今後はどうするの?」カラス「答えられないことは聞かないで」言いたいことを言ってカラスは悠然と去る。わかる? つきあったらトホホとしかいえない女っているのよ。

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