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特集「過剰な女たち」

2013年8月5日

特集「過剰な女たち」 マリーゴールド・ホテルで会いましょう (2013年 群像劇映画)

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監督 ジョン・マッデン
出演 ジュディ・デンチ/ビル・ナイ/ペネロープ・ウィルトン/マギー・スミス/デヴ・パテル

生ある限り「一日一生」

 熟年向き長期滞在型、インドの「マリーゴールド・ホテル」に見ず知らずの英国人たち七人が出発する。空港で飛行機が欠航となりベンチに一列ぽつねんと座る七人を監督は正面から映す。思わずクスっとする。なにかみせてくれるにちがいない彼ら。そんな期待をかきたてる役者たちなのだ。はるばるやってきたホテルはネットの案内とは大違い。部屋は鳥の巣、寝室のドアは外れ電話は通じない。料金は払ってしまった。詐欺だと怒ると若い支配人ソニー(デヴ・パテル)は、父から譲り受けた由緒あるホテルの将来像をネットにのせた、何事も最後は大団円になると動じない。夫がこさえた多額の借金を返済するため家を売却し、同居をすすめる息子の誘いを断って、インドでの一人暮らしを決めたイヴリン(ジュディ・デンチ)。退職金をはたいて娘の事業に貸したが失敗したダグラス(ビル・ナイ)とジーン(ペネロープ・ウィルトン)夫婦。股関節の手術のベッド待ちがロンドンでは半年先、もっと早くしかも格安でできるところがあると紹介され、やってきたのが元メイドのミュリエル(マギー・スミス)、以前この地に住んでいた元判事のグレアムはどうしても会いたい人物がいた▼無傷で生きていける人生などだれにもない。それを生きのびてきたそれぞれの登場人物にまず深い味わいがある。ジュディ・デンチの堂々たる風格はもちろんだが、人から全然好かれる要素のない「嫌われキャラ」でありながら、最後に「アッ」と驚くカッコよさをみせるこの二人に的をしぼろう。ミュリエルとジーンである。ミュリエルは無事手術もすみ退院、ホテルのなかで車椅子生活だ。メイドの少女が付くが人種差別のひどい彼女はインド人に口もきかない。彼女が作った料理には手もふれない。ある日庭掃除をしていた少女に「そんな掃き方ではだめよ、もっと力をいれてこう、こうするの」身を乗り出し英語が通じないのに身振り手振りで教える。「どうしてあの子は口をきかないのかしら」と質問するミュリエルに、インドにくわしいグレアムが、彼女はインドではだれも口をきいてはいけない、いちばん下層階級生まれの子なのだと教える。ミュリエルはインドの過酷な現実に直面し当惑する。その少女がミュリエルを家に招いてくれた。理由は「自分に話しかけてくれた、自分を認めてくれたことが嬉しいから、あなたを家族に紹介したい」だった。たった一部屋にひしめくような大家族だ。その貧しさにミュリエルは言葉をなくす。少女がおずおずと差し出した魚の料理を食べ笑顔で応えた。しかしインドを知らない彼女は車椅子にさわって遊ぼうとするこどもたちを泥棒とまちがえ怒鳴りつける。家族たちのミュリエルをみる視線は(この女もやっぱり…)いっぺんに凍りつく▼ジーンはおとなしい夫を無視同様、言いたい放題である。こんな国のどこがいいの、あなたのいうことをきいて良かったためしがない、イギリスに帰るわ、すぐ支度して。ダグラスは高圧的な妻との長年の生活に疲れきっていたが、自分が見捨てたらこの女を受け入れる男なんかどこにもいないことがわかっている。滞在するうち、たとえお金がなくても自分を見失わぬ寛容なイヴリンの態度にひかれていくことをどうしようもできない。ジーンは無理やり帰国をきめ空港へ出発。ダグラスはなにもいわず従うが途中の渋滞で車は進まない、小さな簡易バイクに乗り換えたら行けるがそこに積めるのは荷物と人ひとり分だ。ジーンはこういう「もういいの、あなた。わたしの人生はあなたがいて幸福だった。あなたはこれからもわたしをなだめながらやっていくでしょうけど、でもあなたのやさしさはここまでにして。もうわたしにかまわなくていいの。帰国するのはわたし一人でいいわ」イヴリンが現れた今はもうこれきりにしよう。ありがとうあなた▼経営難のためホテル売却をソニーのママは決める。待ったをかけたのは意外なことにミュリエルだった。彼女は「経営方針がまちがっているのではない、方針をやりぬく責任者と優秀な補佐がいれば解決する」と断言する。そして車椅子から立ち上がって歩き「優秀な補佐とは」自分であると堂々と自薦するのだ。ミュリエルは「なにもかも期待通りにいかなくて」と落ち込んでいるイヴリンを見ていう「そんなものよ。でも不本意なできごとがいい思い出になるときもあるわ。いい仕事に就いたじゃない」「そうね」「わたしも歩けるようになった。あなたも踏み出せるわよ」イギリスを代表する名女優ふたりのツーショットだ▼イヴリンの独白でしめくくろう。「本当の失敗は何かをしてうまくいかなかったことではなく、なにもしなかったことだ。喜びは失望を振り払って手に入れるのが常だ。私たちはインドへきた。やってみたのだ。みながそれぞれの方針で。変わるにはもう歳だと思うことがある。失望後のやり直しがこわいこともある。朝目をさまし必死に生きる。ただそれだけ。未来は現在とちがう、わかるのはそれだけだ。人がおそれるべきは現在そのままの未来ではないか。だから変化を喜んで迎えよう。不満があっても覚えておこう。わたしたちはまだ途上にいて、そして何事も最後は大団円なのだから」フロントではミュリエルが大股で歩きながらきびきび接客している。彼女はこのインドで生きていく。元宗主国の差別感覚はどこにもない。彼女は少女の家を再訪しきっぱり謝罪したのだ。いいことばかりではないが「あさ目を覚まし必死に生きる、それだけ」比叡山大阿闍梨・酒井雄哉師の「一日一生」を思いました。

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