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シネマ365日

2013年8月11日

特集 コメディエンヌ ワンダとダイヤと優しい奴ら (1988年 コメディ映画)

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監督 チャールズ・クライトン
出演 ジェイミー・リー・カーティス/ジョン・クリーズ

パイソンなにするものぞ

 ちょっと肌触りがちがうコメディなのだ。可愛がっている熱帯魚をつまんでつぎつぎ飲み込む、老婦人の飼っているチワワの上に大きな箱を落として犬を殺し、それを目の前で見たショックで婦人は心臓発作を起こして死ぬ。悪趣味としかいえないそんなシーンがいくつも出てくる。ジェイミー・リー・カーティスもイギリス映画独特のブラックに最初とまどいぎみだった▼制作費750万ドルの本作が1億ドルの大ヒットになったのだ。要因はもちろん当時一世風靡していたモンティ・パイソンだろうが、それだけではないだろう。モンティ・パイソンは1969年に結成したイギリスのコメディ集団。本作はメンバーの一人、ジョン・クリーズが製作・脚本・出演を兼ねた。シャーロキアン、ポッタリアン、ビートルマニアなどと同じ、パイソニアンと呼ばれるパイソンの熱狂的ファンの支持を呼んだのだ。モンティ・パイソンにちょっとふれると、コメディ界のビートルズといわれる彼等。6人で構成し不条理でナンセンスでシニカルな笑劇スタイルを身上とする。「イギリスのコメディアンの中のコメディアン トップ50」でジョン・クリーズが2位に選ばれたこともある。彼はケンブリッジ大学卒業の弁護士資格を持つ。パイソンのほとんどがケンブリッジかオックスフォード出身だ。196センチの長身で官僚や弁護士の高圧的な役が多く(本作でも弁護士)気むずかしくて、メンバーは扱いにくいと言っているのに人気がある不思議な役者だ。パイソンは1989年リーダーのグレアム・チャップマンの死にともない事実上解散になった。本作は全盛期のパイソンの面影を残す最後の映画なのだ▼ジョン・クリーズのほかパイソングループの一人、マイケル・ベイリンも出演している。熱帯魚を生で口にいれるとか、子犬の上に荷物を落とすとか、ルイス・ブニュエルを髣髴とさせるシュールな作劇には、ふつうの神経ならビビリそうなものがあると思うがカーティスはあっさりひきうけ女詐欺師を快演した。いっぺん度胸をすえると女にとってパイソンもヘチマもないのだ。お話は世界有数のロンドンの宝石業界地区、ハットンガーデンズを舞台に、1300万ポンドのダイヤをめぐる争奪戦。4人組強盗に紅一点のワンダ(ジェイミー・リー・カーティス)、ワンダと兄妹だというふれこみだが実は恋人同士のオットー。ボス格のジョージと彼の右腕の吃音のケン(マイケル・ベイリン)。ワンダにぞっこんのオットーはダイヤを独り占めしようとジョージを密告、逮捕されたものの肝心のダイヤはどこかに隠されていた。ジョージは弁護士アーチー(ジョン・クリーズ)を雇う。ワンダはダイヤの在り処を聞き出そうと色仕掛けでアーチーに迫る。ワンダの要求を突っぱねていたアーチーはだんだんワンダの気立てのよさにひかれていく。ふたりがアーチーの家で結ばれようとした寸前、嫉妬に狂ったオットーとアーチー夫人が乱入してくる▼とくにどたばたもおおげさな事件のなりゆきもないのですが、阿吽の呼吸、たとえばこの乱入シーンとか、アーチーとワンダのセリフのやりとりとか、タイミングが絶妙なのです。思い出すのはイギリス映画のブラックコメディの古典「マダムと泥棒」にも、熱帯魚や子犬虐待のひどいシーンがある本作と、同じ匂いがありました。殺人と死体の処理シーンがつぎつぎ出てくるえげつなさと黒い笑いが同時並行するのです。世間では極悪人と呼ばれる悪人も超聖人といわれる善人もまれで、多くは善人の部分と悪人の部分を比例のちがいこそあれ、もちあわせています。この映画にでてくる犯罪人たちもその例にもれません。こいつらとよく似たことを「キミもオレもやっているじゃないか」その視線はシニカルであるとともに、俗物きわまる人間へのやさしさでもあります。

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