女を楽しくするニュースサイト「ウーマンライフ WEB 版」

  • facebook
  • twitter
  • line
  • rss

シネマ365日

2013年8月26日

赤い手のグッピー (1942年 ミステリー映画)

Pocket
LINEで送る

監督 ジャック・ベッケル
出演 フェルナン・ルドゥ/ジョルジュ・ローラン

力を感じさせない力 

 ジャック・ベッケルの映画にしたらあまり面白くない。まるでわざとそう思わせるためのような鈍重な足取りで映画は動き出す。ここはパリから600キロ離れた片田舎。グッピーという一族がいて、さして名門でもないと思うが「グッピーの名前に傷がつく」から事件が起こっても警察に届けるなという家風だ。家族親戚はみなアダ名でよびあう習慣がある。だから「赤い手のグッピー」とは「赤い手」(フェルナン・ルドゥ)とよばれるグッピー一族の男の名前だ。ほかにも「ケチンボ」とか「エンペラー」とかがいる。エンペラーは106歳になるグッピー家の最長老である。彼等は財産をよそ者にとられないように親族内で結婚を繰り返しているが、近親婚云々がこの映画のテーマではない。ベッケルのいつもの手だが、さしさわりのない語り口で、全然ドラマティックではない平静な日常がスクリーンに映し出される▼退屈きわまりない田舎の生活と人々が紹介されていく。エンペラー長老を筆頭にその息子メスーと妻チザン、息子夫婦とその娘ミュゲ、家に出入りするはぐれ者の「赤い手」とトンカン。ある日メスーは昔別れた先妻の息子ムッシュー(ジョルジュ・ローラン)がパリのデパートの重役になっていると聞き、ミュゲと結婚させるため呼び寄せる。はるばる600キロを列車に揺られてやってきたムッシューを駅に迎えにきているいかつい男が「赤い手」で、「赤い手」は自分の小屋にムッシューを連れて行き、よもやま話などで時間をつぶしなかなか家に連れていかない。じつはミュゲを好きなトンカンが、ムッシューがどんな男か探ろうと「赤い手」とたくらんで、グッピー家に着く邪魔をしたのだ。ムッシューは小屋においてきぼりを食い、トランクをさげて夜の田舎道を歩き出す。グッピー家では牛が産気づき、子牛のお産にみな牛小屋にいってだれもいないすきにエンペラーが盗み酒をし、倒れてしまう。彼はチザンがヘソクリに隠した1万フランをくすねポケットに入れていた。ムッシューがやってきたのはエンペラーが倒れ、テーブルに横たわっているときだ。びっくりしたムッシューはここにいたら殺人の犯人にされてしまうと、トランクをさげて飛び出す。そのあと入ってきたトンカンはエンペラーのポケットに入っていた1万フランを着服する▼しかしこれでは106歳の高齢者が禁じられている酒を飲んで発作をおこしたというだけだ。だいいち放っておいても長くないエンペラーの年齢である。殺人はこのあと起こる。起こるがどこまでものんびりした田舎のことで、全然サスペンスはない。いったいベッケルはなにを言いたいのだ。ミュゲはトンカンの思いをよそにムッシューに恋する。ムッシューはデパートの重役どころか、ネクタイ売り場の安月給の販売員だ。先妻がパリに去ってから一度も息子の顔をみに行ったことのないメスーにとってはまさに「よそ者」だ。この親父が頑迷でケチで狡猾な田舎者丸出しである。チザン殺害の真犯人が判明し、犯人は木から墜落して死ぬ。ミュゲとムッシューはめでたく結婚する。エンペラーの枕元で「赤い手」が「いい加減にしろ」とささやくとエンペラーは薄目をあける。とっくに息を吹き返していたのだ。「赤い手」は「財宝の隠し場所」は「あそこだろう」と言い当てる。長老は意識が戻ったがしゃべれないふりをする。エンペラーを男三人が椅子ごとかついで家中を上から下までぐるぐる歩き周り、財宝の隠し場所にきたら合図してくれとエンペラーに頼むが、彼はウンともスンとも反応しない▼欲の皮の突っ張った一家に殺され損みたいなチザン。エンペラーは「赤い手」になにやらささやき財宝は結局エンペラーが死ぬ時に家族の一人に言い残すことになる。観客は旅の途中でこの家に立ち寄り、たまたまグッピー家の客人になり滞在中にすべてのできごとにたちあったような気になる。異界というにはあまりに自然なパラレルワールドのような世界に移行してしまう。そこに働いているのは、力を感じさせない力としかいいようがないベッケルの芸だ。

Pocket
LINEで送る