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シネマ365日

2013年8月29日

赤い影 (1973年 サイコ・サスペンス映画)

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監督 ニコラス・ローグ
出演 ドナルド・サザーランド/ジュリー・クリスティ

D・サザーランドの顔 

 これ確かイギリスのエンタメ系サイトが選出した「映画に出てくる名セックスシーンベスト10」で、あっぱれ1位になった映画でしょ。そういやいつまで映しているのかとあくびがでるほど長い、ドナルド・サザーランドの顔よりまだ長いベッドシーンだったわね。ヒロインのローラにジュリー・クリスティ、夫のジョンにサザーランド。クリスティが32歳、サザーランドが38歳のときの映画だ。クリスティは波に乗っていた。「ダーリング」でオスカー女優となり「ドクトル・ジバゴ」でデヴィッド・リーン監督に見出され、あれよ、あれよという間に「華氏451度」「遙か群衆を離れて」「恋」と、フランソワ・トリュフォーやらジョン・シュレシンジャーやジョセフ・ロージーら、俳優なら一度は組んでみたいと思う監督のオファに応え、女嫌いというか女性蔑視というか、女に対する視線と扱いがじつに冷たいロバート・アルトマン監督の「ギャンブラー」にも出ちゃったのである。その直後が本作だ。なかなかきれいに映っていますね▼しかしなんといっても本作はドナルド・サザーランドの映画だろう。この人「普通の人々」とか「針の目」はじめ半世紀に及ぶ俳優人生で一度も賞を取っていない(いなかったと思う)し、賞の対象になったこともあったろうか。そのくせ映画をみたあとで必ずといっていいくらい覚えている人なのだ。190センチをこえる長身もさることながら、ぐりぐりした大きな目、筋の通った鼻稜はがっしりした小鼻で受け止められ、線の細さを感じさせない。彫りが深い。異様に長い顔のうえに盛り上がったちぢれ毛はうずたかく逆巻いている。異相に近い。若いときの彼の裸は、細身の腰にムダ肉の一片もない。腰だけでなく体中の筋肉はシュワちゃんの、異様にモリモリした人間離れのそれではない。ナイフの背のように冷たく骨に密着して引き締まっていたのだ。本作ではややタルミを感じたが、ま、目をつぶろう。それよりファーストシーン近く、いきなりドアップになった彼の容貌には異相の迫力がしっかり放たれていた。息子のキーファー・サザーランドよりよっぽどいい男ですよ。もっとも77歳のいまは巨をもてあましていますけどね▼この夫婦は家の近くの池で娘を亡くす。喪失感をまぎらわせようと仕事をかねてベニスにくる。水のある場所にはトラウマがあると思うけどなぜか彼等は「水の都」に来るのだ。レストランで奇妙な年配の姉妹にあう。妹は目が不自由で霊感があり初めて会ったローラの身の上を言い当て「娘さんがここから離れるように警告している、でないとジョンに厄災がふりかかる」と告げる。ジョンは「ふん、ばかな」と取り合わないが、ホテルの外では殺人事件にあう、壁画修復の現場では足場が崩れロープで宙吊りになる、息子は寄宿舎で怪我をする、ろくなことが起こらない。息子の様態を見にイギリスに帰国した妻を見送ったジョンは、その帰り運河ですれちがった船に喪服のローラが立っているのを見る。大声で呼ぶが妻は気がつかない▼劇中たしかに殺人事件(らしいもの)はあるし、奇妙な姉妹はなにがしたいのかよくわからないし身元不明で不気味だ、イギリスに帰った妻はなにかの事件(エクソシストみたいな)に巻き込まれそうな雰囲気はある、しかしサスペンスやホラーの空気だけで、映画のなかで結局なにも事件は起こらないのだ。夫のジョンがみた喪服のローラは自分の遺骸を埋葬する近未来の光景だった、つまりジョンには予知能力があって自分で自分の葬送をみたわけ。だからなんだ? なんだっていわれたってそれだけですよ。ジョンが殺される最後のシーンまで監督はベニスのあちこちを引っ張っていってくれる。観光地ベニスに隠された迷路のような暗い路地、地中海の陽光もささぬ入り組んだ家屋、狭い小さな橋、その下を流れる汚い運河、殺風景でサービスの行き届かないホテル、わびしい部屋、そんな街で気色の悪い老婆ふたりから「厄災がある」なんていわれたら(キャーッ)尻に帆あげて帰ったほうがいいと、教えてくれている映画なのね。

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