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特集「銀幕のアーティスト」

2013年9月7日

特集「銀幕のアーティスト2」 ヒトラーの贋札 (2008年 事実に基づく映画)

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監督 ステファン・ルツォヴェッキー
出演 カール・マルコヴィクス/デヴィッド・シュトリーゾフ/アウグスト・ディール

清々しい男 

 模写という文化がある。野地秩嘉さんの「サービスの裏方たち」に、レンブラントの「黄金の兜の男」に見せられた高倉健が登場する。模写した画家は許可と資格を持ち、描いた作品を市場に出す。高倉健は「生まれて初めて欲しいと思う絵に出会った」というほど惚れ込み、その画家に模写を注文する。模写とは贋作だ。贋作だろうと本物だろうと、アートとは人を動かす力であって、素晴らしいものは素晴らしいのだ▼「ヒトラーの贋札」は強制収容所における、ユダヤ人プロフェッショナルたちによる贋金作り「ベルンハルト作戦」という事実に基づく。粗筋をいうと、偽パスポートなどを作るベルリンの贋作師サリー(カール・マルコヴィクス)は、ある日犯罪捜査局に逮捕されアウトハウゼン強制収容所行き。彼のスケッチが親衛隊長に気にいられナチスお抱えの画家になり、ザクセンハウゼン収容所に移送される。そこでは彼を逮捕した捜査官ヘルツォーク(デヴィッド・シュトリーゾフ)が極秘任務「ベルンハルト作戦」の指揮に当たっていた。目的はポンドの贋札を大量に作ってイギリス経済を混乱・失速させることだ。印刷技術や製版のユダヤ人のプロが最新設備の贋札工場に隔離される。彼らはきれいなシーツ、充分な食べ物、睡眠、休憩を与えられた。サリーは印刷のプロ、ブルガー(アウグスト・ディール)らと協力し、イングランド銀行さえ見破れない完璧な贋札を仕上げる。もしテストの段階で贋札とわかったら彼らは元の収容所に逆戻り銃殺。命がけの偽札作りなのだ。ある日アウシュビッツから送られてきた古紙に仲間の子供たちのパスポートが数冊入っていた。無用になったパスポートとは子供たちの死を意味する。ナチに協力するとは、同胞の死と苦難を長引かせることだった。ブルガーは決起を促すがサリーは無視する。今は生き延びることだ。生きてさえあればいつか勝てる。つぎの任務は贋ドル作りだった。ブルガーの技術が必要だったが彼は協力を拒否。いつまでたってもできあがらない贋ドルに業を煮やしたヘルツォークは、4週間以内に成功しなければ5人を銃殺すると宣告する。作業員たちはブルガーを密告するべきだとサリーに進言するがサリーは拒否。期限がきて5人の犠牲者が刑場に並んだとき、ありとあらゆる持てる技術を繰り出したサリーが、自力で作り上げたドル札を持って走ってくる。贋ドル札は完成した。しかし数日後作業は中止の命令が下り、サリーらはすべての設備を解体した。連合軍が迫りドイツの敗戦が決まったのだ▼終戦。サリーはモンテカルロに姿を現す。トランクの中は自分がつくったドル札がぎっしり。それを彼は一晩のうちにカジノでする。カジノにいい女がいた。ベッドをともにし、女はサリーの腕の刺青から強制収容所にいたことを知る。莫大な金を蕩尽したサリーは夜明けの海岸にひとりで海を見ている。女が来た。男も女も自分たちが背負った重く暗い荷物を知っている。それらは胸を圧し言葉にもならない。語るかわり彼らはタンゴを踊る。シルエットが浮かぶ向こうは海。波の音だけが聞こえる▼サリーの贋作に注ぐ情熱がじつに、じつに、いいのよ。彼は画家になりたかったのだけど、どういう拍子か贋作づくりになってしまった。逮捕される前、ベルリンの偽物作りの彼の部屋に来た女が「あなたって悪い人にはみえないわ」と言う。たいして興味無さそうに聞くサリーに「あなたの絵をみているとそう思うの」。女はサリーの絵をみて、しがない偽作師がホンネのところでどんな男かを理解したのだ。サリーにとって収容所での贋金作りは一世一代、自分の技術を絞り尽くす大舞台だった。彼は全身全霊をあげて贋作に打ち込む。それが犯罪であるとかナチへの協力であるとか、もはやどうでもよかったのではないか。生き延びるべきだ。もしそれが許されぬなら、殺される前に死ぬ前に、最高の自分を出し切る。同胞の銃殺のタイムリミットを目前に、サリーの作業は鬼気迫る。サリーを演じたカール・マルコヴィクスは当時44歳だったのに、痩せて汚らしく、貧相で頭がはげあがり60歳以上にもみえましたが、とっても清々しい男に思えました。

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