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特集「銀幕のアーティスト」

2013年9月10日

特集「銀幕のアーティスト2」 フラメンコ・フラメンコ (2010年 ドキュメンタリー映画)

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監督 カルロス・サウラ

トップアーティストの競演 

 監督がカルロス・サウラで撮影がヴィットリオ・ストラーロ。そう「ドン・ジョバンニ 天才劇作家とモーツアルトの出会い」も彼らのコンビだったのに、どうだろう、この出来栄えの違い。カルロス・サウラと、ヴィットリオ・ストラーロという異常なくらい鋭い撮影監督が好きなだけ腕をふるった、という気がしますね、こっちは。フラメンコとはスペイン、アンダルシア地方に伝わる民俗芸術、なんていわなくてもスペインについでフラメンコ人口が多いといわれる日本では先刻ご承知のはずだ。歌(カンテ)と踊り(バイレ)にギター(フラメンコギター)の伴奏がともなう情熱的な、ダイナミックな踊りだ。本作の意図は華麗なフラメンコの世界を通して「生命の旅と光」を体現する。21幕から構成され、アンダルシアの素朴な子守唄からスタート。幼少期(アンダルシア、パキスタンの音楽と、それらが融合した音楽)、思春期(成熟した曲種)、成人期(重厚な歌)、死期(幽玄で奥深い感情)、希望ある再生とつながった命のよみがえりを予感させる▼プログラムの中から印象深い演目をいくつか選んでみた。もちろん好みの問題だから、フラメンコ好きな方はぜひ自分の目で確かめてほしい。21幕のトップにくる「緑よ、お前を愛している」。フラメンコの中でも輸入曲とされる珍しい曲。キューバのアフリカ系移民の間に起源があるという。哀愁のある声で歌う、すらりとした美貌の女性歌手マリア・ヘレスはフラメンコ界の代表的ギタリスト、トマティートの娘。子守唄にフラメンコを聴いて育ったにちがいない。バンドのメンバーはみなベテランの第二世代か若手の代表だ。フラメンコの黎明を感じさせる監督のチョイスだろう▼「愛しのサリータ」。スペインが誇る国民的ダンサー、サラ・バラスの踊り。短剣のように突き刺さる視線。どう見てもふくよかとはいいがたい肉体はでもつるぎのような官能を秘めている。同じ民族芸術でも、フラメンコは陽気で明るいハワイアンの対極にある。地の果ての巡礼のような静謐なシーンもある。どこかに抑圧があってそれを解き放つものがほしい、と叫んでいるような鋭さがある。ストラーロのライティングは暗い情熱を暗示するように明暗が移行し、ほとんどダンサーは暗がりで踊るときさえある。と思えばスレンダーな肢体がシルエットとなって浮かび上がり炎のように真紅のドレスがひるがえる。曲種の「アレグリア」は「喜び」の意味。サン・フィルナンドス市を含むカディス県が発祥の地といわれ、全国アレグリア舞踏コンクールが開かれるほど人気のある曲種。近年日本人女性二人が同コンクールに入賞する快挙を果たした。長嶺ヤス子に続く日本人ダンサーが出てほしいですね▼「サエタ」。歌はマリア・バラ。一説に彼女は80歳だといわれる。フラメンコの聖地ヘレスの数ある家系のなかでも名門中の名門ソルデーラー一族の歌い手。スクリーンの中央に現れたマリア・バラの容貌は神秘的でさえある。どっしりと重量感があり、動かない双眸はなにをみているのかわからないのに瞳のなかに複雑な感情がたゆたう。考えてみればこのドキュメントには、若手も多いがフラメンコ・ダンサーでも歌手でも、そんな無茶苦茶若くないのね。少なくとも日本の何とか娘たちやジャニーズ系の若さの登場はない。フラメンコを表現するためには人生が必要だ、とかれらの存在は主張しているようです▼最後にギタリスト。甲乙つけがたい二人が演奏しています。ひとりはマノロ・サンルーカル。本作で演奏するのは「七面鳥の舞」。フラメンコ・ギター独特の流れるようなリズムを力強く、くっきり刻みこむように奏でます。白い髪に白い髭。仙人のような物静かな風貌から思いもよらぬダイナモな演奏です。二人目はパコ・デ・ルシア。長年にわたり天才だとかフラメンコ・ギターの神様だとかいわれてきたギタリストです。演目は「アントニア」。アントニアとは彼の娘の名前です。歌手のラ・タナは出身地セビージャのバーで歌っているところをパコがスカウトした逸材。どのシーンも舞台装置はシンプルで光だけが交錯する。二台のピアノの競演では能舞台のような思い切った単純化がなされた。好みの問題もあろうがフラメンコ、それもトップクラスのアーティストの競演をみるなら格好の一作だ。

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