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シネマ365日

2013年9月29日

穴 (1960年 犯罪映画)

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監督 ジャック・ベッケル
出演 フィリップ・ルロワ/マルク・ミシャエル/ジャン・ケロディ/カトリーヌ・スパーク

フレンチ・ノワールの最高峰

 「シネマ365日」でジャック・ベッケルは「現金に手をだすな」「モンパルナスの灯」「肉体の冠」を書いたけど、とにかく映画をどうおもしろくさせるか、この人ほど知り尽くした監督はいないと思うのが、何気ない小ワザの使い方なのよね。「現金」ではいい年をしたギャング二人が夜中にパジャマ着て、とりとめもない話をしながら無心にラスクをかじる。ジャン・ギャバンなんかポリポリ小さな音をたて、冷えた白ワインをうまそうに飲む。「モンパルナス」ではモジリアニのジェラール・フィリップがイーゼルの前にこしかけ、なにげに絵筆の穂先をクイクイとほぐす。そして本作ではその魅力のかたまりのような小ワザのオンパレードだ。「寝る・食べる・掘る」だけで言い尽くせる粗筋が、たとえようもなくドラマティックでリアルで、全編に緊張感が漲っている。脱獄ものはたとえばクリント・イーストウッドの「アルカトラズからの脱獄」もよかったけど、ジャック・ベッケルに比べるとクリントがこどもっぽくみえる。それくらい魅力的な監督です▼なにから書こうかわくわくするような映画だから落ち着いていこう。まず、そうそう脱獄の実行犯たちが使う小道具ね。これは主にリーダー格のロラン(ジャン・ケロディ)が「!」という感動ものの細工を利かす。彼らの計画は看守の巡回の隙をみて刑務所の床に穴をあけ、地下水道からマンホールに通じるトンネルを掘るという一大事業だ。ロランは鏡を割り、破片を歯ブラシの柄にくくりつけ廊下にいる看守の動きを見る潜望鏡をつくる。ベッドの鉄パイプを外し、コンクリートを叩き割る。鉄格子をヤスリで切り医務室から盗み出した薬瓶で砂時計を作る。毎晩一定の時間、穴をほり進めるのは二人。残る三人は毛布をかぶせたダンボールをヒモであやつって、なかに人がいるようにみせかけ看守の目をごまかす。地下作業から監房にもどるときは、仲間のひとりの足にしばりつけたヒモをひくのが合図。計画は四人でやるはずだったが、殺人未遂で告訴された若いガスパール(マルク・ミシャエル)が入房してきたために、彼を抱き込まざるを得なくなる。そこで五人だ。役割分担とチームワークは完璧だった▼暗い地下室で至る所にある扉の鍵をひとつひとつ開けていくプロセス、仲間のジョーが生き埋めになりかけ、ロランが無我夢中で素手で瓦礫をかきだす。埋もれた石の下から指だけ見せてもがいているジョーの指をロランが必死でつかみ引きずり出す。酸欠になりそうな狭い穴でのたうつ男たちの身動きがどんな台詞より能弁だ。しかしジョーは「おれは残る」とロランに打ち明ける。母親が重い病気だ「おれが脱獄したら警察はおれの家に行く、わけを聞いたらおふくろはショック死する」たとえ残っても脱獄共犯で刑はさらに重くなるだろうが、それでもジョーは「自分のやる分はきっちり責任をはたすぜ」と最後まで最前線で穴を掘る。ガスパールの義妹が面会にきた。これが若い時のカトリーヌ・スパークである。義妹は姉が告訴をとりさげるかもしれないと告げる。だとしたらガスパールは苦労して脱獄する必要はないのだ。ここで計画中止はできない、といって放っておいたら自分も同罪だ。彼の心は揺れ動く。そんなとき刑務所長が所内の情報収集のため未決囚と懇話する恒例の「面談」にガスパールが呼ばれた。その前日地下水道に抜ける穴はとうとう貫通した。ロランとマニュはマンホールのふたをもちあげ刑務所を遠望し、いよいよ明日決行だといって監房に戻ったのである。抜け駆けの脱走もできたがそんなことはしない。男の約束なのだ。これはジャック・ベッケルの映画を貫く美学である▼夜がきた。行くぞ。順番に穴に降りる。まずマニョ(フィリップ・ルロワ)が半身を穴にいれたとき「マニョ!」潜望鏡でジョーが見た光景は…このシーンの一転のみごとさに声を飲みます。裏切り者はいた。「ちがう、ちがう」とガスパールはわめくがどこがちがうのじゃ~。がんじがらめの一網打尽、裸にされて壁に向かって並んだ四人。ロランはガスパールを一瞥し「哀れなやつだ」これこそがジャック・ベッケルの脚本ですね。マルク・ミシェルはスラリと背が高く痩せ型でなかなかハンサムな姿かたちのいい俳優です。でもこの人「あわれなやつ」に縁がある。「ブーベの恋人」でヒロインが二人の男を評します「いつもはらはらさせられるブーベに比べたらステファンは安心していられる」でもヒロインが選んだのはステファンでなくブーベ。安心だけど魅力のない男の役がマルク・ミシェルでした。ブーベ? ジョージ・チャキリスですよ。そら無理ないわ▼本作の原作ジョゼ・ジョバンニは「冒険者たち」の原作者であり「ラ・スクムーン」「ブーメランのように」「ル・ジタン」「暗黒街のふたり」などを監督。アラン・ドロンが自分の代表作にあげる映画をいっしょにとっています。しかしそれらフレンチ・ノワールの最高峰ともいえるのがジャック・ベッケルの遺作となった「穴」ではなかったかと思えます。それくらいすごい映画です。

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