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シネマ365日

2013年10月1日

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 (2012年 事実に基づいた映画)

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監督 アン・リー
出演 イルファーン・カーン

でてこいアン・リー

 愛するアン・リーよ。あなたはいつのまにペテン師も裸足で逃げ出すこんな性悪男になったのだ。なんでアン・リーはこの退屈な映画を撮る気になったのか、オープニングからつらつら30分にもわたり延々続くインドの動物園の家庭事情。トラが漂流しているところが早くみたいのに前座が長すぎる。パイがいじめられっ子だとか、円周率を黒板三枚分も書き続け、しかも一字も間違っていないとか(パイの呼び名の由来は円周率のパイから)。トラの名前がリチャード・パーカーだとか。これみんな最後のどんでん返しの薬味みたいなものね。でもね、まさかそういう腹黒さがあなたにあるとはつゆ知らず、ディズニー映画のノリでトラすなわちリチャード・パーカーと少年(いや、この年では青年といったほうが近い)の心あたたまるファンタジーを想像していたら、ひどいじゃない! こんなオチってありか。でてこいアン・リー▼粗筋を書く元気もないわ。ラスト近くメキシコの海岸にパイがうちあげられ、ともに漂流したトラのパーカーが、餓死寸前ふらふらのヨレヨレになってうっそうたる繁みに歩いていく。パイは浜辺に倒れたままトラを見送り、トラがジャングルに姿を消す前にきっとふりむいてくれると信じたが、トラは足をとめなかった。チラッともみなかった。やっぱりあいつはしょせん畜生だ、野生の動物だ、今までいっしょに乗り切った227日はなんだったのだったのだ、それが悲しくてパイは涙がでたのだと言うのだ。ごていねいに。仕方ない、種明かしに必要なところだけ書こう。できるなら本編をごらんになって、いかにアン・リーが詐欺師でありペテン師であり、人間のリアリストであり映像の錬金術師であり、引き出しのいっぱいある頭脳から物語を紡ぎだす映画人であるかを確かめてくださればいいと思う▼ここは貨物船。経営不振の動物園をたたんでカナダに移動中の一家がいる。植物学者であるパイの母はベジタリアンだ。肉の入った皿を野菜だけにしてくれと母親がコックに頼むと、お前らみたいにカレーばっかり食っているやつらの言うことはきいておれないと剣もホロロだ。このコックがなんとジェラール・ドパルデューなのです。かのフランスで、アラン・ドロンとともにいちばんむかつく成功者の一人といわれる彼。牛のような大きな体に薄くなった毛髪をザンバラにしてあぶらぎった赤ら顔。品や教養どころかおよそマナーというもののかけらもない、野蛮なコックをドパルデューが演じる。わずか一シーンだけど重要な伏線です。ここをうかつに見ていたばかりにしてやられ、アン・リーをののしりたくなった方おられませんか(いない? 間抜けはわたしだけか)。貨物船は地球でいちばん深いマリアナ海溝を通過中、嵐に遭遇しました。海上に放り出されたパイの救命ボートにはトラとハイエナとオランウータンとシマウマが乗り合わせた。どう考えてもファンタスティックすぎます▼パイは漂流していたオランウータンをボートに救い上げる。シマウマは足の骨を折りいちばんさきに弱ってきた、獰猛なハイエナがシマウマにかぶりつく。ボートの上は弱肉強食。衰弱してきたオランウータンをまたもハイエナが襲撃し、それを見て怒ったトラがハイエナの息の根を止める。でもオランウータンは殺されてしまった。こうしてボートにはパイとトラだけが残った。漂流何ヶ月か、精魂つきたパイがふと目をさますとボートは緑の島に漂着していた。トラのチャーリー・パーカーはいち早く上陸したと見え姿はみえない。島には無数のミーアキャットがおり、パーカーはすでに何匹かを腹におさめたようだ。パイは植物やら果物みたいなものを食べ、島を探検した。トラはいつのまにかちゃっかりボートに帰っていた。パイは木の上で眠った。気がつくと島中のミーアキャットが木に登っているのだ。木の上から池をみたパイは魚の骨が池に沈んでいるのがみえた。地上の花を調べると花弁の中に人間の歯がある。島全体が食中植物で夜になると地面から強い酸を発して生き物を殺してしまう。だからミーアキャットは全員木にのぼって避難する。いちはやくトラもボートに退避したわけ。パイは翌日積めるだけの食料と水とミーアキャット(トラの食料)を積んで出発した▼メキシコ沿岸に打ち上げられ病院に収容されたパイに日本の保険会社が事情を調べに来る。トラと漂流したといっても信用しない。そこでパイはこんな話はどうだときりだす。「ボートにはぼくとコックと足を傷めた船員と母が避難した。狭い船のなかで殺し合いが生じた。コックが船員を殺しつぎに母を殺した、ぼくはコックを殺した」リアルなサバイバルだ。シマウマが船員、ハイエナがコック、オランウータンが母親、トラがパイだった。しかしこの残酷な話は受けなかった。保険会社の調査員はもと通り「トラと漂流した227日間」を採用した。パイはしかし自分が生きられたのは幻のトラ、チャーリー・パーカーがいたからだと。チャーリーとなぜ結びつきが強かったのかという因縁が本作はじめのエピソードに出てきます。まったく手がこんでいます。でもやっぱり本作の主人公はトラだな。トラがスクリーンに現れてから映画はがぜん噴火する。このトラじつに表情がいい。オールCGだけどそれをきいて安心した。ラストに骨と皮になったチャーリー・パーカーがよろめきながらジャングルに消える後ろ姿は、もしこれがホンモノならここまでトラを痛めつけたアン・リーを絞め殺してやると思った。

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