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シネマ365日

2013年10月3日

パリ、テキサス (1984年 ヒューマン映画)

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監督 ヴィム・ヴェンダース
出演 ハリー・ディーン・スタントン/ディーン・ストックウェル/ナスターシャ・キンスキー

まともな女ならだれでも逃げ出す 

 これ、ホントにそんな傑作なんですかね。ロードムービーの金字塔とか、カンヌ国際映画祭でパルムドール賞に決まったときは満場一致だったとか。まあ、いいけど。妻と別れて四年間も砂漠を放浪し、行き倒れて病院にかつぎこまれたトラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)。かろうじて所持していた名刺一枚から弟ウォルト(ディーン・ストックウェル)に連絡がとれた。弟の家ではトラヴィスが四年前蒸発してから、息子同様に育ててきたハンターが7歳になっていた。妻のアンは長い間行方知れずだった義兄が生きていたことに安堵するが、同時にそれはハンターと別れることになるのでは、という不安を隠せない。再会した兄はいっさい喋らない。記憶も部分的に失っていた。兄はきっと辛い目にばかり会ってきたのだろうと弟は心中を思いやり、我慢強く気持ちをほぐそうとする。この夫婦は善意のかたまりである。ところがこのホームレスの兄貴、目を離すと再び砂漠にさまよいでて、勝手に黙々と歩き出す。しまいに弟は少しは心を開いてくれと頼む。やっと口を利いた兄貴の言葉は「パリス」だった▼「パリ、テキサス」の「パリ」は、テキサス州のパリスのことだとわかります。ボロボロになった写真を兄貴は肌身離さず持っていて、これは父と母が初めて愛を交わした場所、ここでおれは生まれた、通販でこの地所(砂漠ですよ)を買った、とぼつぼつ話す。家に連れ帰った弟は兄を妻とハンターに紹介する。アンからトラヴィスが本当の父親だと事実を教えられたハンターは兄弟のどっちも「ハイ、パパ」と挨拶する賢い繊細な子だ。だんだん打ち解けてきたトラヴィスを囲んで、5年前に撮った8ミリをみんなで見ることになった。兄弟とそして妻たちがいて、ハンターはまだ2歳だった。トラヴィスの妻ジェーン(ナスターシャ・キンスキー)がここで登場します。彼女は23歳。いちばんきれいなときだった。この年は「ホテル・ニューハンプシャー」でトニー・リチャードソン監督と、「マリアの恋人」でアンドレイ・コンチャロフスキー監督と組んで女優として飛躍した年です。美しい妻の映像をみてトラヴィスは嗚咽しそうな感情をこらえる。アンから「じつはジェーンは毎月ハンターのために送金している。5ドルのときもあり100ドルのときもあるが、欠かしたことはない。振り込んでくる銀行はヒューストンだ」と打ち明けられる。トラヴィスはポンコツの車を買ってハンターに妻を、つまり彼の母親をさがしにヒューストンに行くと言う。息子は自分も行きたいといい、親父は息子を乗せてヒューストンに向かう。その夜も遅くなって心配しているだろうからとハンターに家に電話させる。ウォルトもアンも、とくにアンはじっとしておれないほど心配していた▼想像もできないほど妻を愛しすぎているゆえ、自分の留守中妻が浮気をしているのではという妄想から逃れられず、妻を追い詰め、とうとう妻は家に火を放って蒸発した、そこに至るまで妻を責めていたことが自分に許せず、トラヴィスもまた彷徨の旅に出る、という事情がわかってくる。しかしなあ。トラヴィスはハンターに、7歳の子供に家に電話させるのよ。「パパがしてよ」とハンターが言うのは無理ないよね。「いや、おれじゃなく君がしないとダメなんだ」って、なにがダメなのよ。一事が万事この調子で生きてきたのじゃない、トラヴィスって人は。つまり自分のもっともらしい理屈と思い込みで妻を愛しすぎ、独占したくてたまらず、それが思うようにいかないと証拠もないのに不倫を想起し、妻が否定すればするほど疑問をかきたて、たぶん「ホントのことを言ってくれ、言え、言うのだ」なんて脅迫まがいに迫ったのだろう。こんなサイコ男がなぜ満場一致の推薦になったのだろう。まともな女ならだれだって逃げ出しますよ。審査員に女はおらんかったのか▼あっけにとられたのはラストね。息子の居場所だけ妻に教え、再会を確かめて自分は車でどこかに立ち去るってのは、ホームレス版「シェーン」か。このまま元の家庭におさまっても狂気の愛がぶりかえす、とトラヴィスは自分で自分に観念したのかどうか知りませんが、とにかくいちばんしんどい事態を持ちこたえなくちゃいけないときにスルッといなくなるこの男。後始末は人のいい弟夫婦と妻におしつけて自分はトラさんやるのかよ。消そっと。

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