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シネマ365日

2013年10月7日

ココ・シャネル (2008年 伝記映画)

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監督 クリスチャン・デュゲイ
出演 シャーリー・マクレーン/バルボラ・ボブローヴァ/オリヴィエ・シトリュック/マルコム・マクダウェル

70歳からの帝国 

 従業員400人を抱える大企業に発展したシャネルで、コレクション前の猛烈な追い込み勤務に音をあげた従業員たちがストライキを起こした。これが1939年。シャネルはそれならばと一部店舗を除いてビジネスを閉鎖、同年9月勃発した第二次世界大戦の終結からスイス亡命に至る15年間、完全な沈黙を守った。シャネルは70歳のとき自ら閉ざしたシャネル帝国のゲートを開く。ディオールやカルダンや、強豪がひしめくパリコレ界でシャネルは「通用するのか」というのが業界関係者の関心事だった▼クリスチャン・デュゲイ監督、最初からいいパンチですね。シャネルのマネージャー、マルクを演じるマルコム・マクダウェルをはやばやと登場させるあたり(スンナリとはおわらないな)という期待がふくらむ。そこへニコリともしないシャーリー・マクレーンが仏頂面でぶつぶついいながらモデルが着たばかりのドレスの一部を引きちぎっている。マルクは「ココなにをやっている。お客さんは下でお待ちかねだよ」ゲストたちがすごい。ルキノ・ヴィスコンティ、ジャン・コクトー、ダリ、祝電はウィンストン・チャーチル、マレーネ・ディートリッヒ。復帰第一回目のこのコレクション、新聞は「過去から脱却できないシャネル」「婆さまのためのコレクション」とケチョンケチョンに書き立てた。さすがのシャネルも「彼らが正しくて今のわたしは過去の化石なら…」と落ち込むのだが▼シャネルのサクセスストリーは書き尽くされている。幼くして母親に死なれ妹といっしょに修道院に預けられる。アメリカで一旗あげると言ってアメリカに行ったはずの父はすぐ近くの町で再婚し子供までいた。シャネルは自分たちは棄てられたのだとわかる。子供にすれば過酷な体験だ。母親の形見である指ぬきを持ち18歳でシャネルは施設を出て、朝7時から夜8時まで働きづめに働く田舎町のマダム・デブゥタンの店にお針子として就職する。ここで一生の友だちアドリエンヌと出会う。太った女性客を細くみせようとギュウギュウ締め上げる服に、シャネルはちょっとした工夫を施し「高いお金を出すのです、ご自分がハッピーにならねば」と脚を長くみせ体を動きやすくしてやる。店にくる将校の一人に囲われシャネルは店をでるが教養のない施設あがりの縫い子など家族にも紹介できないという男バルサンの家の家風がアタマにくる▼シャネルの最大の恩人であり生涯の愛人は、バルサンの屋敷でであったボーイだということになっているし、それは事実だが「目が覚めたわ」とシャネルが自分の人生に開眼するのはバルサン家の屈辱によってである。自立しなければ、自分で収入を得て食えるようにならなければ、女は男の都合によって棄てられ、侮辱されてもなにもできないのだ。意を決したシャネルはパリに出る。ボーイの資金援助を受けながら一号店を「ノルマンディーの女王」とうたわれる海岸町ドーヴィルに開店する。船乗りたちの服をみたシャネルはアドリエンヌの協力をえて、ざっくりしたセーター、歩きやすいズボン、体をしめつけないゆったりしたロングコートを仕立て「覚悟はいい?」ふたりはそれを着て町にでる。ゆきかう男も女もみなふりむく。下品だと眉をしかめる男もいたが女は好奇心ありあり、やがて「あなたたちがきているような服がほしい」と店にくる女たちが現れた。メイドがいなくて毎日台所に立たねばならぬ女にも、一日外で働かねばならぬ貧乏な女にも、動くのがラクな服をシャネルは作る▼大失敗にもかかわらずシャネルは早くも半年後に第二回目のコレクションの準備にかかっていた。目をむいたマルクは、さきの借金で店の権利を売るしかない、また失敗したら香水の売上にまで響く、今なら君の老後の生活は保証できると説得するが「わたしは分別が嫌いなの。死の匂いがする言葉だわ。ファッションとは人間の考え、感情、人間そのものよ。主張のあるものを創らないと香りは忘れられるわ。主張? 女は男のためでなく自分たちのために装うべきだってこと。自由はいつも先端の流行よ。世界中の女が毎朝必ずすることがある。鏡に自分を映してその日の装いを決めること。その服を提供するのがわたしよ」「わたしがどこまで君に尽くしたと思う。少しは言うことをきけ。感謝を知らん女だ」とマルク。「わたしはだれにも借りはないわ。わたしの周りにいる人たちはそれが彼らの得になるからよ。わたしが感謝するのはわたしだけ。だからシャネルって名乗れるのよ」いやはや実際こんな女に毎日そばにおられたらかなわないだろう。マルクは口あんぐり。とどめをさすように「黒い小さなドレスの話、した?」ボーイの事故死のあとシャネルは自分のためだけに「小さな黒いドレス」を作った。思いがけないことにたいへんな評判になった。それがシャネルのスーツの原点だった。シャネルは「ボーイといっしょに始めたものをわたしが終わらせるわけにはいかない。続ける方法がないというなら考えるのがあなたの仕事」マルクは全然関係ない話をもちだされたうえ、資金繰りやらなにやら強引におしつけられ、シャネルは第二回コレクションに突っ走る▼回想シーンは、これがなければシャネルの伝記にはならなかったのだけど、メロドラマみたいな甘いところがあった。でもシャーリー・マクレーンがしわくちゃの顔で現れるとスクリーンが一変する。シャネルは外出しようとする姪をよびとめ「人は成功でなく失敗で強くなるの。わたしは逆境をさかのぼって強くなったわ。そのドレスはなに? そんなものを着て頭も鈍くなるはずだわ。ひどいドレス。身の毛がよだつ。向こうをむいて。甲冑を着ているみたい。中身は女だってことをデザイナーは考えていないわ。人とちがってこそかけがえのない女になれる」(いいながら袖をちぎり肩を露出させ、スカートをいじり窮屈な服を急遽スリップドレスにし、さらにカーテンを外させ)「創られた幻想がファッションの詩よ」(真っ白いレースのカーテンを姪のショールにする)「おばさま、これカーテンだけど」「素材は関係ない。大切なのはヴィジョンよ。装いは科学。装いは武器。香水をつけて。香水を選べない女に未来はない」(ト5番をつけさせる)。すべてこれシャネルの哲学があるのである。第二回コレクションは大成功。シャネルのポリシーはさらに、ウーマンリブによって女性の進出が著しくなったアメリカで熱狂的に受け入れられた。こう書くのはたやすいが、これら帝国再建の仕事は70歳から始まったのだ。敬して黙します。

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