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特集「ディーバ(大女優)」

2013年10月16日

特集ディーバ(大女優) グレン・クローズ ガープの世界 (1982年 文芸映画)

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監督 ジョージ・ロイ・ヒル
出演 グレン・クローズ/ロビン・ウィリアムス/ジョン・リスゴー

イカロスの翼 

 グレン・クローズの映画デビュー作である。35歳。遅いスタートだった。彼女の舞台をみたジョージ・ロイ・ヒルが「ガープ」の主人公に引きぬいたのだ。グレンはいきなりアカデミー助演女優賞にノミネートされる出世作となる。タイトル・ロールは「ガープ」だから主人公はロビン・ウィリアムスというのが妥当だろうが、あえてグレン・クローズといったのは、彼女が狙撃されスクリーンから退場したあと映画はスカみたいに気抜けするのだ。もともとロイ・ヒルのやることだからヒーローやらスーパーマンやらは現れてこないのはわかっているが、それにしても本作の登場人物たちは愚劣なばかりにおぞましい俗物の一面をデカデカとロイ・ヒルに書き立てられるのだ▼作家として名をなしたガープ(ロビン・ウィリアムス)は幸福な結婚で夢に見た家庭にいるものの、長年つれそった妻からつい若いピチピチ肌にそそられる。夫の浮気に気づいた妻は「先生と寝たい」と打ち明けた大学の学生を誘って情事を続け「だれかに気づかれたらやめる」こんなアホみたいなルールを大真面目に決めるのだ。妻の浮気に気づいたガープは妻に電話して「家を出た。帰ってもおれも子供もいない」そう啖呵をきってどこにいくのかいうと映画館で時間を稼ぎ、この煮え切らない男はまた妻に電話して「すぐ家に帰れ、帰るのだ」とか怒鳴っている。中学生だってもう少しマシな家出しますよ。妻は大慌てに帰宅するが彼女を送ってきた大学生の男は簡単に女を車から降ろさない。最後にいっぺんアレをしてくれと頼みこむ。女は怒りながらこれで手を切れるならとうつむいてングング望みをかなえてやるのだが、そのさいちゅう猛スピードで走ってきたガープの車が追突。大学生は大事なところを食いちぎられ、ガープと妻は舌と顎に損傷を負い息子ふたりのうちひとりは命を落とす。この悲劇を夫婦は「お前のせいだ」となすりつけあうことをやめない。ロイ・ヒルは平凡のなかの非凡を抽出する名手ですが、彼が本作の凡々たる日常性の解毒剤に使ったのがグレン・クローズ扮するガープの母ジェニーです▼亭主はいらないが子供はほしい、しかも子供をつくるためのセックスはしたくない。看護師の彼女が植物状態で病院に運び込まれた軍曹がいつも勃起していることを確認、ある夜「またがったら彼は射精して目的を達したの」わけをきいた父親は「お前は男を強姦したのか」と叫び母親は卒倒する(母親がジェシカ・タンディです)。ジェニーは目の中にいれても痛くない息子をかたときもそばを離さない。となりの飼い犬がガープを咬んだ、飼い主の親父は母一人子一人のシングル家庭だからとあなどってガープをいたわろうともしない。ジェニーはガープを連れ隣へ行く。ドアが開くなり「息子はおたくの犬のドッグフードじゃありません。今度こんなことがあれば犬を殺しますよ」あっぱれ宣戦布告して帰るのだ。もうひとつ。小説家になる夢を抱いてニューヨークにきたガープ母子は初めて街で娼婦を見る。ジェニーはつかつかを彼女に近づき「あなたが売春婦?」と聞くのだ。ガープは飛び上がる。ジェニーは「お話をきかしてほしいの。お値段はおいくらかしら? 10ドル? 20ドル? コーヒーをいっしょにどう?」どうやらこのオバハン悪気はないらしいとみた娼婦は「コーヒー代もだしてくれるかい」「もちろんよ」話をきいたジェニーは「お礼よ」と金を出す。あわてたのはガープと娼婦「こんなところでお金だしちゃだめだよ、母さん」「どうして?」「違法なのだよ、売春は」「え? 自分の体を好きなように使うのが違法なの?」▼ふたりは自作を出版社に持ち込む。出版されたのはガープではなくジェニーの自伝「性の容疑者」だった。タイトルの意味を聞かれ「わたしは自立した女になりたかったの。そんな女は女として〈疑わしい〉女よ」これが束縛と抑圧から自分を取り戻そうという女の共感を呼んだ。嵐のように本は売れジェニーは時代のカリスマとなる。彼女は自立をめざす女たちの盟主となりこう訴える「わたしたち女はいろんな意味で世間から疑われています。男より弱い性として扱われ、力をみせればまたそれを疑われる。女が知性のあるところをみせると、欠点をアタマでカバーしているといわれます」▼ジェニーが買った新しい家には差別をなくす運動家や家庭内暴力からの脱出者や、居場所をもとめてきた女たちがふえ、彼女らはペンキ塗りや畑やら縫い物や編み物、自分ができる仕事をみつけて居候している。そのひとりが元男のロバータ(ジョン・リスゴー)だ。花形フットボールの選手だったかれは性転換し、ジェニーの秘書兼ボディガード兼運転手兼…とにかくなんでもやって献身的に尽くしている。ガープが「マジョリティ」の表象ならジェニーとロバータは「マイノリティ」の代表である。ジェニーは女性革命の反対者から演説中暗殺される。彼女が看護師をやめてからも白い看護衣をみにつけていたのは、もはや彼女が改革のイコン(聖像)になっていたことを示すのだろう。これはすごいことだ。この映画は初恋やら就職やらの青春物語があり、不倫やら家族の生き死にやらの歴史があり、と思うと時代を変える社会改革の運動があるという、じつに絵巻物的内容なのだ。ジェニーが死んじゃったあとはエンディングを残すのみになっているのですよね本作は。グレン・クローズをいわばこの映画の「イカロス」に抜擢したのがロイ・ヒルでした。でもこのイカロス、何で翼を作ったのか知りませんが、その後30年たった今も、墜落の気配もみせず映画界を飛び続けていますね。

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