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映画監督特集

2013年10月29日

特集 フランス映画の女性監督5 セリーヌ・シアマ 水の中のつぼみ(2007年 恋愛映画)

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監督 セリーヌ・シアマ
出演 アデル・エネル/ポーリーヌ・アキュアール/ルイーズ・ブランシェール 

 少 女 

 セリーヌ・シアマ監督は「少女から見た少女の映画を撮りたかった」と言っていた。それにしても監督が女性で27歳という年齢でなければできなかった映画だろう。少女といっても今までほとんど男の目を通して描かれる少女がほとんどでしたからね。主人公は三人の少女。フロリアーヌ(アデル・エネル)とマリー(ポーリーヌ・アキュアール)とアンヌ(ルイーズ・ブラシェール)だ。マリーは親友のアンヌがシンクロチームの演技に出場するので応援にきたが、そこで見た上級生チームのキャプテン、フロリアーヌの美しさにひと目で恋してしまう。いつも彼女のそばにいたい一心でマリーはクラブに入部する。一途なのよねー。ところがフロリアーヌは女生徒たちの嫌われ者。あいつは男とすぐ寝るアバズレだと総スカンを食っている。フロリアーヌも同級生たちを「お前ら小便くさいやつを相手にしておれるかい」と洟もひっかけない。したがってフロリアーヌは孤独だ。マリーはフロリアーヌに惹かれるのをどうしようもない▼あんまりマリーがつきまとうので「わたしに、何なの?」フロリアーヌが声をかけた。シンクロを見学したい、と答える。ヘンなやつ。でもフロリアーヌはキャプテンだから適当にとりつくろってプールサイドで見学できるようにしてやる。マリーは彼女らの練習を見る。台詞のないこのシーンはシンクロを演技する高校生たちの肉体と水のセレモニーだ。水を掻くしなやかな腕。筋肉の張った長い脚が水を蹴り腰がくねり、水中でからみあい手を取り、ポーズからポーズへ、全員がつながった一個の生物体のように動く。水そのものが性と欲望のシンボルとなって、思春期の少女たちのエロチシズムを撹拌する…マリーはほとんど陶酔する▼フロリアーヌの大人びた姿態に比べ親友アンナのなんたる幼稚さ。ころころと太り口にするのはセックスへの焦り。セックスの前にファースト・キスをすませなくちゃ、と計画だけはしっかりたてているが実現にこぎつけたことがない。フロリアーヌなんか黙ってみなやっているのにとマリーは思う。フロリアーヌが男との逢引のために自分を便利使いしていると思ったマリーは「もういうことをきかない」と断言する。しかしフロリアーヌの告白はなんと…「男と一度も寝たことはないわ。だからわたしは処女よ。いまさらそんなこと言えないわ」(笑うまい。彼女は真剣だ)マリーがとまどっていると「頼みごとがあるの」折り入って、という感じでフロリアーヌが声をひそめる「いいわよ」「普通のことじゃないの」「言ってみて」「わたしの、あの、あんたが最初に、わたしの処女を…男がするように…」「無理だわ」「おねがい」「イヤ」マリーの拒絶にフロリアーヌはうなだれて帰る。まったく、なあ▼しかし「ボーイフレンドが今夜家にくると言っている、困ったわ」と焦燥のフロリアーヌをみてマリーはきっぱり「やってあげるわ、頼まれたこと」少女ふたりがベッドインする厳粛なシーン。マリーはニコリともせず「やってあげる」のだが、最初から最後までまばたきもせずみつめる監督の凝視が熱い。さてボーイフレンドがやってきた。フロリアーヌは「いろいろありがとう」ふたりだけにわかる言葉でマリーを送り出す。その夜、明かりのついたフロリアーヌの部屋を見あげながら、窓の下でマリーは泣くのだ。ところが、である。アンナが興奮してやってきて念願の初体験を果たしたと言う。きけば相手はフロリアーヌの彼である。信じないマリーに「フロリアーヌがあんまり嫌がるからわたしのところへきたのよ」挨拶のしようもないことを言う。翌日プールに顔をみせたフロリアーヌは両手を広げてマリーを抱きしめる▼一足さきに大人の世界に足を踏み入れるのはフロリアーヌである。「頼みごとがあるの」と今度はマリーがいう。シャワーの下にフロリアーヌがいる。初めてのキスはセックスより大事だと思っているマリーだ。「来て」フロリアーヌの低いが強い声。「ここへ来て。わたしのそばへ」おずおずと近づいたマリーは生まれて初めての熱い抱擁とキスを経験する。それはフロリアーヌの少女への告別でもあった▼原題は「蛸の誕生」なにそれ? 少女期の欲望とはじつは蛸のようにグロテスクで粘着質なものってこと? さらに「同性愛についてはこの映画の主題とは考えていない。同性愛は女性の欲望のひとつとして描いたにすぎない」あっそ。どうでもいいけど、パステル画のようなきれいなトーンだったのに「蛸」だなんて露悪趣味ですよ、監督。それに本作の主題はずばり同性愛ではないですか。思春期の通過儀礼にせよ、少女たちの滑稽なほど切ない一途な思いは、男性の映画監督たちが描いてきたものと明らかにちがう。主題にするに足るものだと思いますが。

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