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シネマ365日

2013年11月2日

ヒッチコック(下) (2012年 伝記映画)

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監督 サーシャ・ガヴァシ
出演 アンソニー・ホプキンス/ヘレン・ミレン/スカーレット・ヨハンソン

やっぱりヒッチ 

 ノーマン・ベイツにアンソニー・パーキンスを推薦したのはアルマだった。彼の二重性がいい、笑顔で本性を隠し好青年ぶって世間を欺いているところがいいと。ヒッチがパーキンスを面接すると「母が異常に好きだった。父が死ねばいいと思っていた。5歳のとき父が心臓発作で死んで、それいらい罪の意識が消えない」。ヒロインのマリオンにジェネット・リーを推薦したのもアルマだ。ジャネット・リーのスタイルに見とれていたヒッチに「ヒロインを30分で殺せ」と言ったのもアルマだ。クランクインの日ヒッチは全員を集め宣誓させた。サイコの筋書きを妻にも夫にも家族にも恋人にも友人にもだれにもいいません、と誓わせた。本屋にある「サイコ」をすべて買い占めた。だれにも終わりを知られたくないのだ。ヒッチが風邪で熱をだし撮影が3日遅れた。これで何万ドル消えたとウワゴトのようにいうヒッチに「わたしがかわりにやるわ」アルマはさっさとセットに入り「気にしないで。わたしはあなたたちにお給料を払っているだけの者よ」といって撮影進行を命じる。そこへ「ヒッチの助けになるから」と助監督をつれてきたパラマウントの重役に「監督はヒッチコックひとりです」と言って追い返してしまう▼重役人を集めて試写会が行われた。駄作だと決めつけられたヒッチは意気消沈する。くよくよ泣き言をいうヒッチにアルマは引導をわたす。「サイコを再編集するのよ。夫としては失格だけどあなたはだれよりも編集が上手よ」「君を除けばね」ヒッチの映画をだれよりも知り尽くしたアルマが現場に復帰した。一秒の何分の一かで死体になったジャネット・リーがまばたきをしたのを発見したのは彼女である。シャワー室に音は入れないというヒッチを説得してバーナード・ハーマンのサウンドを入れたのもアルマだ。キャスティングから編集の仕上げまでアルマが携わった。映画は完成したがパラマウントがだした条件は「公開は二館だけ」だった。こういう状況にヒッチは強かった。思えば彼の映画とはすべて「人心をあやつる」ことが三度のメシより好きなヒッチコックという男の大脳から生まれたものだ▼劇場を警備員が取り囲み途中入場を禁じた。ヒロインは30分で死んでしまうから途中入場した客は「ジャネット・リーがでていない」と騒ぐ可能性があったからだ。警備員は「非常に危険な映画なので」卒倒や失神に備えるというふれこみである。ものものしい宣伝にあおられ映画館は行列ができた。前宣伝は成功したが、内容が空疎だったらそれで終わりだったろう。シャワー室のシーンのときの観客席の悲鳴、ノーマン・ベイツの正体が暴かれた時のどよめき。観客はヒッチコックの才能と監督術に脱帽し、屈服するのが心地よかったほどの、映画の醍醐味への共感を表明した▼スカーレット・ヨハンソンがよかったですね。控えめな演技でしたけど、ジャネット・リーにそっくりだったこともびっくりでしたけど、史上に残るヒロインに臆さず、大げさにもさせず演じていました。映画が完成し「ミス・リー」の個室に入ったジャネットの悲鳴が聞こえたのは、ヒッチが得意のいたずらで彼女をねぎらったからです。「ヒッチ、あなたはほかの監督とちがって親切だったわ」と別れのときにジャネットが感謝の言葉を言います。当時女優とはハリウッドの使い捨てのコマのひとつで、そんな態度がありありの監督も少なくなかったのです。たった一言ですがヒッチコックへの賛辞を最後にさりげなくヨハンソンに言わせるところなんか、サーシャ・ガヴァシ監督の、映画人として大先輩へ払う敬意がよく現れていましたね。

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