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シネマ365日

2013年11月3日

ヘッドライト (1956年 恋愛映画)

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監督 アンリ・ヴェルヌイユ
出演 ジャン・ギャバン/フランソワーズ・アルヌール

映画が神話だったとき 

 乾いた風が砂埃を巻き上げる。一本道しかみえない広野にあるガソリンスタンド兼レストラン兼モーテルの「ラ・キャラバン」に初老の長距離トラック運転手、ジャン・ヴィアール(ジャン・ギャバン)が「やっこらしょ」と、急ぐふうもなく店に入る。外でアメリカ兵の相手をしていたウェイトレスが、そのままビュイックに乗って去ってしまう。店主は誘拐だと騒いで警察に電話する。ジャンの独白「町から40キロ離れたガススタで年中働いて、気晴らしと言や、トラックの運転手と話すだけ。若いウェイトレスがいつくはずがない。いろいろいた。みなマリと呼んでいた。クロ以外は。あれからもう2年だ」クロとはクロチルド(フランソワーズアルヌール)。若い影のある女にジャンは惹かれる。家に帰れば女房の愚痴、娘は父親をバカにし家の中は口争いが絶えない。幼い息子がふたり。いつも両親の顔色をうかがっている。妻は妻で毎日女中のように家事にしばりつけられ、張り合いもなければ希望もない。クロの家では、母親は男といっしょに暮らし、男に気兼ねして娘にやさしい言葉ひとつかけない。どっちの家庭も家族に恵まれない。長距離運転の休憩でジャンは「ラ・キャラバン」にたちよるうちクロと深い仲になる▼ジャンは「ラ・キャラバン」で休憩ばかりしていると上司に嫌味をいわれ路線変更を指示した上司を殴ってクビ。クロはやがて妊娠。ジャンに手紙でしらせるがゆきちがいで、ジャンの娘が開封した。妊娠はジャンの妻に知られるところとなる。クロは「ラ・キャラバン」をやめ、パリに出てモンパルナスの裏町の売春宿の住み込み女中になって身をおちつけるが、妊娠を見破った女将はそのままではおいておけないと、もぐりの堕胎医を教える。家を出たジャンはようやく就職口をみつけ、パリを離れボルドーでクロと暮らそうと迎えにくる。ジャンのトラックにのって出発したもののクロは中絶の失敗で重態、ジャンが救急車を手配したものの死んでしまう▼これってフランス映画の詩的リアリズムの手本のような映画なのですってよ。砂漠の一本道のわびしいファーストシーンなんか見事ですね。でもねー。どう考えても男にこんな都合のいい女っている? クロは思いやりのあるいい女だ。ジャンが自分といっしょになるため家庭を清算しよう、でも妻と結婚して23年、あいつに落ち度があったわけじゃないから、無責任なことはしたくない、ちょっと時間をくれというのを「あなたもたいへんなのね」そういうだけで、これ以上男を苦しめたくはないと、自分の妊娠は「カンちがいだった」ですませる。ジャンは「ああ、そうか」という程度で疑いもしない。なんて鈍感なの。トラックのなかでクロがひどい症状になり、ジャンは付近の民家をさがして電話を借りようとするのだけど、探しにいくのに急ぐわけでも走るわけでもない。ノソノソとクマみたいに霧の中に消えていく。てっきりクロは息をひきとってしまって、警察にでも電話しにいくのかと思ったわ。そういえばジャン・ギャバンが走っている映画ってみたことないわ。いくらフランス映画界の大御所だって、家を棄ててまでいっしょなろうという女が死にかけているときに、のろのろ歩かせるのかよ、エッ、監督▼この映画のいいたいことはつまりこういうことなの? 男は不倫に対し、どこまでも誠実に対処したが女は運悪く死んでしまった、男は妻とよりをもどして家庭に戻り、でも一生消えない虚しさをだいて、今日もトラックを運転し「ラ・キャラバン」でクロの追憶にふける。男の表情に希望はない…当たり前だろ。中絶したことを男にも言わず「なんでもないの、あなたもたいへんね」とだけ言って男をかばいながら女は死んでいく。フランソワーズ・アルヌールが気丈で陰影のある女を、女がみても放っておけないような健気さで演じている。男はさぞこういう女がお気に入りでしょうよ。頭がよくて理解力があって、男をわずらわせないしっかりした、でも控えめな女。で結局女は死に損なのね。なんとまあ一方的な女の捉え方。これが詩的リアリズムかよ。ぼやきたくなるうらみはあるものの、映画史からみると詩的リアリズムは次にくる潮流に場所を譲ろうとし、これまでとまったくちがう女、その生き方や人生の選択の異なる女が現れようとしていた▼フランソワーズ・アルヌールは1957年、ロジェ・バディム監督で「大運河」を撮る。その前年同じ監督が撮った映画で一人の女優が衝撃的な実質デビューをはたした。「素直な悪女」のブリジッド・バルドーだ。同時代に13歳のブロンドの少女がいた。無口でおとなしかったが、4年後ロジェ・バディムがぞっこん参ってしまい、バルドーと別れることになる。カトリーヌ・ドヌーブだった。彼女らは世論にかまびすしいヌーベル・バーグを尻目に独自の道を歩き始めた。男優にはジャン=ポール・ベルモンド、アラン・ドロン、モーリス・ロネらが第一線に、映画はエンタメの王座に君臨し、フランス映画はもっともパワフルな時代を迎えた。フランソワーズ・アルヌールはその時代の申し子であり現場証人だ。彼女が残した貴重な自伝がある。タイトルはいみじくも「映画が神話だったとき」。

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